第2話 ちょっと長いプロローグ2
生涯後見人は、四半世紀ほど前に試験導入された、『リバースモーゲージ制度』に関連した資格である。リバースモーゲージは、自らの持つ資産(主に不動産)を死後に譲渡することと引き換えに、その譲渡予定の相手(生涯後見人)に、文字どおり、生涯、手厚く面倒を見てもらうというのが骨子で、身寄りのない高齢者保護を目的としている。海外の多くの国や地域では、高齢者の増加に対処するため、その時点でさらに数十年前から本格導入されていたが、基本的に新しいことには及び腰なこの国では取り組みが大幅に遅れ、ようやく重い腰を上げて(後手に回りすぎとの批判を散々に受けながら)、国家資格としての制度の試験導入を開始したのだ。
導入から10年間は、運用はブレにブレた。必要な数の有資格者を確保するべく、当初は後見人資格の基準は比較的緩かった。だが、さしたる元手無しに大きな財産が非課税で得られるという点だけが過剰に報道され、職にありつけない若い世代を中心に志望者が殺到した状況に国がおそれを成した結果、今度は資格が厳格化された。
この影響により必要数の確保が困難になると規制は再び緩められ、これが質の低下を招き、一部で高齢者虐待という事態が発生。これを受けて資格者の要件が再び見直され、運用10年目に大幅な刷新が行われた。
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刷新により、後見人の資格基準は第一種と第二種とに分けられた。前者は、収入はほぼ無いが高価値の不動産を持つがゆえに生活費保護が受けられず困窮する高齢世帯を経済面で援助する、通称「経済サポーター」。後者は、暮らすための経済力はあるが、高齢ゆえに日常生活に助けを必要とする人を助ける「生活サポーター」。
経済面での援助がメインとなる第一種の資格は、自身の資産と継続的援助の可否が厳格に問われはするが、試験自体はそう難しくはない。一方、ともに暮らすケースが多い第二種は合格率わずか7%、しかも2年以上の老人介護の経歴が必須条件ということで、極めて難関となっている。
要するに、高齢者の生活には深く立ち入らない、従い、虐待などが起こりづらいと考えられる第一種は数の確保を重視し、生活を共にする第二種は質を重視するという二極化を打ち出したわけだ。
これにより制度はようやく一応の安定を見、現在に至っている。
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このような状況下、身寄りもなければ経済力もない依里子が目指したのは、畢竟、第二種資格であった。難関ではあるが、有資格者数が絶対的に少ないがために売り手市場とも言われるこの資格の“おいしさ”目当てにひたすら勉強を続け、受験可能年齢となる18歳になってからは半年ごとの受験に毎回漏れなくトライ、“四度目の正直”でめでたく筆記と面接をクリアした。
19歳での合格は当時の最年少記録。関連サイトにインタビューが掲載されたが、当然、ここでも徹底した猫かぶりで、『この難しい資格に挑戦して、自分の可能性を試したかったんです。同僚の皆さんも施設の入居者の皆さんも応援してくださっていたのでがんばりましたが、まさか、合格できるなんて』と言っておいたのだが。
もちろん、前も述べたとおり、真の目的は、この資格を活かして“美味しい物件”、即ち、金持ちの年寄りを見つけて後見人に収まろうという目論見の実現にある。
そうこうするうちに、2年間の実務経験も、高齢者養護施設勤務によりクリア。20歳の春にはついにすべての条件が整った。あとは、サポートする高齢者を探すのみ。
『ここまでがんばってきたんだもの。とびきりいい“物件”を掴まなくちゃね―』
分厚い猫の皮に遮られて、この本音を誰ひとり聴くことはなかったが。
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