第305話 なんで居る?

 アレン達が切り取られた土地から出て十八日目。


 アレン達はルバ村に五日ほど滞在することになった。


 その間、アレンは旅の準備を初め、次の向かう地と決めた草の民の小国の情報を聞き込みしたり、カトレアに魔法を教えたり、ルルマに弓を教えるついでにカムイ……村の子供達にも剣や弓の使い方を教えたり……カトレアとルルマにラサームを食らわせてやったりといろいろしながら過ごしていた。


 ルバ村に到着して五日目の夕暮れごろ。


 アレン達がルバ村を離れるということで多くの村人が集まっていた。その中でアレンが剣や弓を教えていた子供達がアレンの周りに集まってきた。


 カムイがアレンの着ていたローブをクイクイと引っ張る。


『兄ちゃん、行っちゃうのか?』


『カムイ、ケンノツカイカタオシエタダロ? キタエロヨ……コンドハオマエガミンナヲマモレルヨウニナ』


『……うん! わかったよ!』


『フフ、ソウダ』


 アレン達は世話になったルバ村の人達に別れを告げると、ラクダに乗ってルバ村を後にするのであった。




 ルバ村を出て数分。


 まだルバ村が見える場所でアレン達はラクダを止めて、それを見ていた。


 アレンは怪訝な表情で口を開く。


『ガポル?』


『アレン様達は夜に砂漠をいくのですねー』


 アレンの問いかけに調子よい感じで返したのは商業ギルドで出会ったガポルという商人であった。


 ガポルは褐色の肌に茶色の髪……長身で痩せ型なのでヒョロッとした感じの男性であった。


『……ナンデイル?』


『いやーアレン様達が草の民の小国……エルバレス王国へ向かうということを聞きましたので我々もお付き合いできたらと思いましてー』


『……』


 アレンは黙ったままガポルの後ろへと視線を向けた。


 ガポルの背後には、ガポルと同じくラクダに跨る者が数十、馬車ならぬラクダが荷台を引いたラクダ車八台ほどが列をなしていた。


『いやはや、ルバ村はロブートオアシスによってまだマシですが、この地域では干ばつが続いていましてー。できたら、エルバレス王国でルバ村特産である装飾品や布を売りにだして……金と羊などを買いたいのですよ。ただ、この砂漠は魔物もいますし、先日のシーザの一族など盗賊紛いの者達が多いのです。五千をものともしないアレン殿とご一緒できましたら安全に砂漠も渡ることができましょう? もちろん報酬を支払いますので』


『ンー……』


『それに我々はエルバレス王国に何度か行っており……いろいろお世話することも可能ですかが?』


『ガポル……ワカッテイルトオモウガ、サバクハ……タイヘン。マモルニモゲンカイガ』


『もちろんでございます。毎回命がけ……アレン様と一緒に行った方が生存確率は上がると思ったからに他ありません』


『……カエリハ?』


『帰りはエルバレス王国に冒険者ギルドがありますので。そこで冒険者を雇い、ルバ村へと帰ります』


『キュウケイナドノ……サバクデノハンダンハ、オレタチガスルガイイカ? ソレカラ、ミハリハソッチカラモダシテモラウ』


『承知しました』


『ナラ、ワカッタ。イイダロウ』


『では、我々の命……アレン様にお預けしますのでよろしくお願いしますねー』


 ガポルがニコニコと笑いながら、胸に手を当てて頭を下げた。対して、アレンは渋い表情を浮かべて頷き答える。


 アレン達はガポル達商人の一団の先頭を進む形で、砂漠の中を進むことになるのだった。




 ルバ村を出て……途中休憩を入れつつ砂漠を進んで八時間。


 暗かった空が徐々に明るくなってきていた頃。


 ラクダで先頭を行っていたアレンが不意に後ろにいたルルマへと視線を送る。


「ルルマ」


「ナニ?」


 ルルマはラクダに鞭を入れて、アレンの横に並ぶ。


「ルルマ、今日はこのあたりで休みにしようと思うんだがどう思う?」


「ンー」


 アレンの問いかけにルルマはキョロキョロとあたりを見回した。そして、アレン達から見て右方向を指さして口を開く。


「アッチニ、タツマキガ。ハナレタホウガイイ」


「竜巻か……それは危ない。左に進路を変えて進もう」


 アレンが後方に続くガポル達……商人の一団に知らせるように手を上げて、左方向へと手を下した。


 そして、ラクダの手綱を引いて進路を左方向へと変えるのだった。


 進路を変えて、少ししたところでルルマが口を開く。


「アレン……ヨルニサバクイクノハキケン」


「んーそうだなぁ。魔物とかは分かるけど……竜巻とかは分からんからなぁ」


「ソウ……タツマキトカ、キケン……ミツケルコト、デキナイ」


「暑くて辛いが……安全を取ろう。分かった。明日からはそうしよう」


「ソレガイイ」


 アレン達と商人の一団はそこからしばらく進んだところで、野宿するところを決めるのだった。

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