第299話 とやーあああああああああ。
避難を指示されたルバ村の女性や子供はひんやりした地下道から上がる。すると、地下道の出口以外、何もない……ジリジリと暑い砂漠のド真ん中に出た。
ルバ村の女性や子供は一旦脱出することができたと、一息ついた時だった。砂埃が上がっているのに目の良い女性が気付いて『敵の騎馬隊よ!』と叫び声をあげた。
ルバ村の女性や子供は砂漠をバラバラになって逃げ惑う。
ムルザの指示で現れたシーザの一族の騎馬隊は……まるで狩りを楽しむようにルバ村の女性や子供を執拗に追い回す。
『もっと必死に逃げないと殺されちまうぞ』
『ひゃははは……子供は良いが。女は残しておけよ? 後で楽しみが減っちまう』
『それはそうだ』
シーザの一族の騎馬隊の男達の下品な言葉が聞こえてくる中で……男の子とその男の子の母親へと騎兵の槍が近づいていく。
『カムイ、早く。こっちに』
『はぁはぁ母ちゃん……もう走れないよぉ』
『ぐっ貴方は逃げて……』
母親は男の子……カムイを先に行かせると立ち止った。そして、意を決した表情で両手を広げて騎兵に向き合う。
『おかあさあああああああん!』
「とやーあああああああああ!!!!!!」
全身を覆うローブを着こんだ者がカムイの母親に迫っていた騎兵に馬ごと飛び蹴りを喰らわせて吹き飛ばした。
突然現れたローブを着こんだ者の近くに居たカムイの母親もカムイもきょとんとした表情でローブを着こんだ者を見上げていた。
『『……』』
「血の匂いを嗅いで来てみたら……ちょうどよかったかな?」
突然現れたローブを着こんだ者は周囲の人間には分からない言葉を口にしていた。
もちろん逆も然りでカムイの母親の言葉もローブを着こんだ者に届いていなかった。
ローブを着こんだ者へシーザの一族の騎兵三十ほどが集まり向っていった。
騎兵が迫ってくる中でローブを着こんだ者はそれを気にする様子もなく……ローブを着こんだ者はローブを掴むとバサッと脱ぎ去った。
すると、太陽に光にきらめく白銀の髪……そしてこの当たりでは珍しい白い肌の小柄な男性……アレンが姿を現した。
「さてさて君達は運がいいな。状況がよく分からないから……」
アレンに騎兵の槍が迫っていた。ただ、その槍がアレンを貫くことはなかった。
「素手で相手しよう」
アレンはその言葉を残して、フッと姿を消したのだ。
突然、標的としていたアレンが姿を消して、騎兵達は皆、目を見開き驚く。
ただ、驚いていられるのも束の間だった。
アレンへ向かっていた騎兵の一人が馬上から姿を消していたのだ。
姿が見えなくなっていたアレンが次に姿を現したのは騎兵の腹に拳を突き立てて殴り……後方へと大きく吹っ飛ばしたところだった。
アレンに殴り吹き飛ばされた騎兵はピクピクと痙攣するだけで立ち上がれないようであった。
「俺の拳骨は痛いだろ? なんせ『剛腕』のアストロ直伝だから、鎧すら貫通するよ」
それから数分後にはルバ村の女性や子供を追っていた騎馬隊はアレンによって制圧されるのだった。
倒れる騎馬隊の連中を前にしてアレンが何食わぬ顔でパンパンと手を払う。
さて、この後どうしようか?
もう大丈夫そう?
どうしたものか?
なんか知らないけど介入してしまったが……他国の戦争にかかわるのはあまり良くないだろう? もう帰った方がいいかな? カトレアとルルマを置いて行ってしまったしな。
アレンがどうしたものかと考えを巡らせていると、足のところにガシッと何かがしがみついてくる。
「ん?」
『兄ちゃん』
アレンの足には今にも泣きだしてしまいそうなカムイがしがみついていた。アレンは首を傾げながら、カムイの頭をポンポンと軽く叩いた。
『ン? ナンダ? ハハガ、シンパイシテイル』
アレンの言葉通り、カムイの母親が心配と困惑が入り混じった表情を浮かべて近づいてくる。
『カムイ、なんで……こっちに来なさい』
カムイは母親の言葉を耳にしてもアレンの足から頑として離れようとしない。
カムイの頑なな様子にアレンはしゃがみ込んで、カムイと視線を合わせる。
軽く涙を浮かべたカムイは右手でアレンの服を掴んで、左手である方向へ指を指して口を開く。
『助けて。助けて……お願い』
『……ヨクワカランガ。ガキニタノマレタラ……シカタナイ。マカセロ』
アレンはカムイの頭をポンポンと軽く叩く。
そして、先ほど脱いだローブを抱えて走って行った。
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