第300話 村の英雄。
アレンとシーザの一族と戦闘になったのだが、何万という敵軍を相手にできるアレンにとってはシーザの一族の五千と言う兵力は些細なモノであった。
シーザの一族は一方的に殴り倒されていた。そして、その様子をルバ村の人々はぽかんとした表情で見守っていた。
そして最後、シーザの一族を指揮していた族長ムルザが吹き飛ばされたところで、シーザの一族はバラバラになりながら撤退していった。
そして、時刻は夕暮れ時。
ここはルバ村の中央にある広場。
ルバ村の村人達が楽しげな様子で酒を酌み交わしていた。
そのちょうど真ん中にアレンと後から追いついてきたカトレア、ルルマが戸惑いの表情を浮かべて座って居た。
アレン達の目の前には酒と大量の食べ物が並んでいた。
「……何か宴が始まってしまった。人が多いなぉうぷぷ」
「大丈夫ですか?」
人の多さに顔色を悪くしているアレンに対して右隣に座っているカトレアがアレンへと問いかける。
「うん、ギリギリ」
「そうですか……しかし、この歓迎ぷりは何をやったんですか?」
「いや、なんか変な連中をブッ飛ばしたら。なんかめっちゃ感謝された? たぶん」
「たぶんって」
「みんな早口なんだ。それに少し言葉のイントネーションが違ってな。慣れるのに時間がかかりそうだ」
「そうなんですか……まぁ、なんにしても歓迎してくれるのは嬉しいことですか。それにしても料理。辛くて……味付けは独特で変わっていますが美味いですね。いや、なんだじわじわ辛い」
カトレアは黄色いソースがかけられた肉を手で掴むと、そのまま齧り付いた。
ちなみに、ここの人々もマルヒヒ族も食事は基本的に手でおこなっていて、アレンとカトレアも素手で食事をおこなっていた。
「ほんと辛いが……面白い味付けだよな。特別なハーブとか使っているんだろうか? 買えないかな?」
「この辛いのはちょっと癖になりそう……買いたいですね。それから、料理については正直……安心していますよ」
「ん? 何かあったか?」
「いえ、言いにくいですが……マルヒヒ族で出された虫料理が続くのではと内心ビクビクしていたんですよ」
「あぁーアレはせっかく出してくれた料理だから……根性で食べていたな。味自体は不味くはないものの見た目が残念だった」
「ですね」
カトレアが酒の注がれた木のカップを手に取った。
それを目にしたアレンは目を細める。
「ここは知らない地だからな。くれぐれも飲み過ぎるなよ」
「え。いや、わ、わかっていますよ」
アレンに釘を刺されたカトレアは木のコップからチビチビと酒を飲み始めた。
アレンは左隣に座っていたルルマへと視線を向けて問いかける。
「ルルマは言葉通じているのか?」
「ンー……ナンカ、チガウケド。ワカル」
「そうか、ならいろいろ聞いたり交渉したりするのはルルマに頼みたい」
「ウン、マカセテクレテイイ……ナニヲハナス?」
「んーん、俺達が狩った魔物の素材を売って金にしたい。その金で食糧と水を確保したい。それからここから先の地理情報を知りたい。最低でも、この三つだな」
「ワカッタ……キョウ、ムズカシソウダカラ、アシタ」
「うん、そうだな」
「モシカシタラ……」
「ん? 何か懸念でもあるのか?」
「モシカシタラ、ノコッテトイワレルカモ」
「……足止めは困るから。最悪抜け出せばいい」
「ソウネ」
「異民族の俺やカトレアを引き留めることはないと思うが」
最初にルバ村の村長ガバジーを含めて村人達に感謝の言葉と共に頭を下げられたものの、アレン達が多民族であることから、距離があった。
アレンは若干の居づらさを感じながら、変わった味のする酒に口を付けて飲み始める。
タタタタ……。
小さな足音の後で、小さな男の子……カムイがアレンの横から現れて抱き付いた。
『兄ちゃん!』
『ン?』
『ありがとう。ありがとう』
『オ、サッキノガキダナ』
『兄ちゃんは村の英雄だよ』
『フ、ソンナ、イイモンジャナイガ……ゲンキソウデヨカッタ。ハラヘッテナイカ?」
アレンはカムイの頭をポンポンと軽く叩いた。そして、料理を指さして食べるか? と問いかけるジェスチャーを見せる。
『え、食べてもいいの?』
『イイゾ。 ドウセ、コンナニクエン』
アレンは頷き答えた。
それから、カムイの他にも子供達が集まってきた。
それに、促されるようにして村の大人達もアレン達と会話を成立させて宴は盛り上がり幕を閉じることになった。
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