第297話 マッサージ再び。

 切り取られた土地から出て七日目の夜中。


 日中の暑さが嘘のように砂漠では寒い風……砂嵐が吹き荒れている。


 その中をアレン達はルルマ、アレン、カトレアの順で並んで進んでいた。


 ラクダの背で横になっているアレンがブルリと震える。


「この砂嵐は厄介だなぁ」


「ですね。寒いのだけなら余裕なのですが……」


 アレンの後ろでラクダに乗っていたカトレアが頷き答えた。


「砂の勢いがすごいなぁ……ちょっと前にあった竜巻に比べたら弱いが」


「あぁ、確かにアレはヤバかったですね」


「この砂漠ってところは本当に面倒な地形だな」


「はい。私も、もううんざりしていますよ」


「だなぁ。っぺっぺ……口の中に砂が入ったわ」


 アレンとカトレアとが何気ない会話をしていると、アレンの前を進んでいたルルマがラクダの歩速を緩めてアレンの隣へと並びつける。


「アレン」


「なんだ? ぺっ……砂が口に」


「シカイガナイ……スナアラシガヨワマルマデヤスンダホウガイイ」


「……わかった。地下休憩所を作るからルルマとカトレアは離れていろ」


 アレンはそういうとラクダから飛び降りて、ラクダの手綱をルルマに預ける。


 それから、帯刀していた赤を引き抜いて、地下休憩所の制作に取り掛かるのだった。






 三十分ほどでアレンが作成した地下休憩所にアレン達は三頭のラクダと一緒に降りていく。


「ふぁー」


 アレンは地下休憩所の壁にもたれるように座って、大きな欠伸をしていた。


「ホントウニ……シンジラレナイ」


 ルルマは何度目も見ているにも関わらず、信じられないといった表情で地下休憩所の壁に触れていた。


「よく頑張ってくれましたねぇ」


 カトレアはなぜかすごく懐いているラクダ達の頭を撫でていた。


 三者三様に休憩時間を過ごしていると、アレンが何か思い出したように口を開く。


「そうだ。ルルマ、マッサージするか?」


「ン? ナニ? マッサージッテ?」


「うむ……体の中に流れるマナの流れを正しく流すためのマッサージだよ」


「マナノナガレ?」


「そうそう、マナっていうのは魔法を使う時に必要なエネルギーのことなんだ」


「マホウッテ、アレンガ……スナヲカベニスルノニツカッテイル?」


「そうそう、アレは土属性の魔法なんだが」


「ソノマッサージヲウケタラ、マホウツカエル?」


「さて、どうだろうな。それはお前の資質次第だろうな」


「ソウ……ヤル。ワタシ、ドウシタライイ?」


「まずは仰向けで寝てくれ」


 アレンの指示でルルマが仰向けで横になる。


 アレンはルルマに近づくと腕まくりをしてマッサージを始めようとしたところで、割り込むようにカトレアが声を上げる。


「ちょっと待ってくださいぃ!」


「な、なんだよ。いきなり」


 アレンは驚いた様子でカトレアへと視線を向ける。


 先ほどまでラクダの世話をしていたカトレアであったが、いつの間にかアレンの近くにまでやってきて話を聞いていたようだった。


「今、話していたマッサージって……なんですか? そ、そのマッサージをすると魔法が使えるようになるかもしれないのですか?」


「え、まぁ資質によるがな。一応魔法が使えるようになるぞ」


「そんなことが……本当に? すごい。しかし、それって軍事バランスが崩壊させることできるような……いや、今聞きたいのは別で……そのマッサージって私がやったやつとは別のやつなんですよね?」


「ん?」


「私にちょっと前まで疲れが取れるマッサージだってやってくれていたじゃないですか?」


「……んんん? あぁ、別のやつに決まっているじゃないか(棒読み)」


「はぁーそうですよね。私、言っていましたからね。私が魔法を使えるようになると政略結婚させられるから……魔法は使えない方がいいって」


「うむ、そうだな。確かに言っていたっとルルマのマッサージをしようかなぁー」


「あ、すみません。邪魔してしまって」


「いや、大丈夫。カトレア……頑張れよ。俺は応援しているからな」


「え、なんで今応援されたんですか?」


「いや、なんとなくだよ。深い意味はこれっぽっちもない。あ……ちなみに……ちなみに大人になって突然魔法が使えるようになった例が稀に……すごく稀にあるんだ。だから、もしかしたら、カトレアは魔法が使えるようになっているかもしれないから調べてみようか? な?」


「な? って……まさか? まさか? そんな、私にやったマッサージって実は?」


 カトレアがアレンに詰め寄り、ガシッと肩を掴んで問いかけた。すると、アレンはフイッと視線を下げてカトレアの問いにとぼけたように答える。


「さてさて、なんのことかなぁー。もし万が一魔法が使えるようになっていたら……いや俺の第六感がカトレアは魔法が使えるとささやいているんだ。だから、ここから生き残るためである魔法の訓練頑張ろうな」


「ぐあー」


 頭を抱えたカトレアから断末魔のような叫び声があがった。


 アレンはカトレアの肩にポンっと手を乗せる。そして、耳もとに近づいてつぶやくように言う。


「向うに帰った後にばれないことを祈っているよ」


「ぐあ……」


「さ、さぁて今度こそ、ルルマのマッサージを始めるか」


 アレンは放心状態のカトレアから視線を外した。そして、ルルマへと視線を向け直してマッサージを始めるのだった。








「ン……オウ……ヒャン」


「大丈夫か?」


「ンンッダイジョウブ……ブッ!」


「なら、いいんだが。お、ここの固いな」


「ンアァン!! アァ……ソコッ! ソコワァァァァァァ!」


「ここか……少し我慢してくれよ」


「アァガマンッ……ンッ! ンンッ! ア、ンゴホ!!」


「おっと強くしすぎたか? 一回止めるか?」


「ダ、ダイジョウブ。ンンンッアァ!」








「フウ……フウ……フウ……フウ……フウ……フウ……」


 アレンのマッサージを受けた後、ルルマは鼻息を荒くして起き上がれずに突っ伏していた。


 十分ほどして、ルルマが起き上がろうとする。


 ただ、両腕がプルプルと震え……ポタポタと汗が額から地下休憩所の地面に落ちた。


「ン……ァ……」


「大丈夫か?」


「アァアン!!」


 ルルマを心配したアレンがルルマの肩を触れると、ビクビクッと体を震わせて艶のある声をあげた。


「だ、大丈夫かよ」


「ン……イマハ、フレナイデ」


「そ、そうか、わかった。休んでいろ」


 その日……アレン達はルルマが回復するまで時間がかかったため、地下休憩所で過ごすことになったのだった。

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