第296話 修行。

 切り取られた土地から出て二日目朝。


 ここはアレンが砂漠に穴を開けて作った、地下休憩所。


 アレン達は外が明るくなってきて、暑くなる前に地下休憩所を作って休んでいた。


「コノユミ……ウチニアッタユミヨリイイヤツ」


 荷物にあった弓を手に持ったルルマが興味深げに呟いた。その呟きを聞いたアレンはルルマの隣に座って答える。


「まぁ、兵士が持っていた弓矢の中でも良いヤツを選んでも持ってきたからな。なかなか高いんじゃないかな?」


「ソウナノ? ワタシガツカッテモイイノ?」


「あぁ、どうせ持ち主は死んでいるしな」


「ソウナノ……ツカワセテモラウ」


 ルルマは弓の弦(つる)をググッと力強く引いていく。


 そして弦を離すやヒュンッと鋭く風を切る音を響かせて、弓は元の形へと戻った。


「どうだ?」


「オモイ」


「そうか、これで重いとなると大弓はこれ以上だ。腕立て伏せをやって……腕力……いや上半身の強化が必要になってくるだろうな」


「オオユミハコレイジョウ……ソウダネ」


「まぁ、上半身はおいおいとして……矢を放って見てくれよ。ここでは、寝ているカトレアに飛んでいったら困るし……どうしようかな? まだギリギリ暑くないから一回外に出て……射ってみるか?」


「ソウスル」


 アレンとルルマは連れだって地下休憩所を出でて……明るくなり始めた砂漠へと出てくる。


 日が出始めるとジリジリと暑さが増していく。


 アレンは太陽をムッとした表情で見る。


「今日は一段と暑くなりそうだ。時間は一刻ってところだな」


「ソウ……ケド、アレンハスゴイヒト……アンナチカノキュウケイジョヲツクッテシマウンダカラ」


「ハハ、だろ? それで弓矢の練習はどうしようか……なんか的がないとな」


 アレンは考えるように視線を巡らせて顎先に手をあてる。そして、何か思いついたのかニヤリと笑みを浮かべて続ける。


「あ……そうだ。俺を的にしてみるか? 弓矢を使ったことがあるなら……いきなり難度を上げて動いている的だ」


「エ、ナニイッテイル? アブナイ」


「ふ、飛んでくるとわかっている弓矢に当たることなど絶対にないから安心して撃ってくれていい」


「……分かった」


「お、今の発音はよかったぞ?」


「ソウ? ヨカッタ……ハジメル」


 ルルマが弓矢を構えた。


 アレンは少し離れると自然体で、ルルマと向き合った。


「……ッ」


 ルルマは緊張で表情を強張らせて、ゴクンと喉を鳴らす。


 そして、構えていた弓矢の弦をギリギリッと引いて……アレンへと向かって矢を放った。


 風を切って矢が飛んでいく。


 矢の行先は……アレンの足元の砂漠にガスッと突き刺さった。


「んーん、人は狙ったことはないか? ……まだ早かったか」


「モウイッカイ」


「ほら、どんどん来ていいぞ」


 ルルマが弓矢を構えて狙われているにも関わらず、アレンはスタスタと散歩でもするように砂漠の中を歩きだした。


 三十分後、矢が大量に地面に突き刺さっている中でアレンが鼻歌を歌いながら歩いていた。


 ルルマはアレンに狙いながら、指先に血をにじませながら弓の弦を引く。


 ただ、痛みあるいは筋肉疲労によるものか、弓が揺れてアレンへと狙いが定まらない……ルルマはコリッと唇の端を噛んで、カッと目を見開く。


「……ッ!」


 ルルマは弦を離すと矢が放たれる。


 その放たれた矢は散歩しているアレンの横顔へと向かっていった。


「ひとりきりではーできないことぉではできないことでもっと」


「アレン!」


 矢を放ったルルマが声を上げる。アレンは自身へ向かってきている矢に気づいていないようであった。


 矢がアレンに当たる寸前でパシッと左手で軽々と掴んで見せた。


「うん、今のは当たっていたな」


「……ソウ、ケドニンゲンネラウノハ」


「いきなり人を的にして射るのは難しかったな」


 アレンが地面に突き刺さっていた矢を抜き取りながら、ルルマに近づいていく。


 ルルマは不満げな様子で弓を握る。


「ムウ……ゼンゼン、デキナカッタ」


「今は謝るよりも暑いけら、地下で休もう」


「ウン、ワカッタ……」


「なんだ、気にするなよ。……何も感じることなく人を殺せる奴は、人を守ることはできない」


 アレンはルルマのおでこをコツンと軽く叩き、地下休憩所へと向かう。


 対してルルマは少し赤くなったおでこを擦りながら、アレンの後ろに続いて地下休憩所へ戻っていった。

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