第291話 話は変わって。
ここはサンチェスト王国のゴーダ平原という地。
そのゴーダ平原では万を超える人間が剣などの武器を手に殺し合っていた。
「バルベス帝国軍の右翼に突撃させたダニエル隊を下げるように、後ろのバードル隊を前に配置換えを」
馬に跨り赤い鎧を身に纏った女性……元火龍魔法兵団のシズ・ファン・ブラットが鋭い指示を周囲に居る部下へと出した。
すると、シズの周囲に居た部下の二人が馬に跨って走り去っていく。
しばらく、激しい戦闘が続いたのち日が暮れる直前だった。敵軍であるバルベス帝国軍が慌ただしくなって撤退を始めた。
それから、少しして慌てた様子でやってきた伝令兵の声が辺りに響く。
「敵将アントルプをダニエルが打ち取った」
伝令兵の声が響くと、シズが居た本陣を含めて辺りでオーッと歓声が上がった。
周りから歓声が上がる中で、シズは気にすることなく声を上げる。
「ダニエル隊を一旦退かせろ。準備させていたアエン隊、ビジーア隊は追撃……他の隊にも追撃準備! 本戦争の大将であるアントルプは打ち取られた。敵は混乱し、撤退している。今が狩り時!」
シズの鋭い指揮で、周囲の兵の表情を引きしめてシズの指揮通り追撃の準備に取り掛かった。
それから、撤退していくバルベス帝国軍の背をシズの指揮で出た部隊が一方的に蹂躙されていった。
その姿を眺めているとシズの背後で控えていた部下が馬を進めて、シズの隣に出ると話しかける。
「だいぶ、戦力を削げましたね。しばらくは侵攻するのは難しいでしょ」
「そうですね。あとひと時蹂躙すれば一万弱は減らすことが可能でしょう」
先ほどまで鋭い指揮を執っていたとは思えないほどに、温和な様子でシズが答えた。
「こちらの損害は微小。流石はシズ様です。……私はまだまだでした。見事な用兵術。いや勉強させてもらいました」
「今回の一戦においては……そんな大したものでないですよ。実際に今回のバルベス帝国軍は国の各地から集められた寄せ集め兵で質が悪かったです」
「何を言いますか……こちらはそもそも兵数がこちらの方が少ないですし。主力である元火龍兵団の団員以外はほぼ寄せ集めのようなものです。これは元火龍魔法兵団一の軍略家であったシズ様のおかげでしょう」
「ハハ……元火龍魔法兵団一の軍略家ですか」
部下の言葉を聞いたシズは頬をポリポリと掻きながら苦笑した。そうしていると、血に濡れた赤い鎧を纏った男性が近づいてくる。
その男性は兜を取ると、灰色の髪の男性……ダニエル・ファン・クロムザードが楽しげな様子で口を開いた。
「くは、それはシズに言ってやるな。団長には模擬戦をやって一度も勝ったことがないんだからな」
「早いですね。ダニエルさん」
ダニエルの言葉を耳にしたシズはムッとした不機嫌そうな表情を浮かべた。
そして、ダニエルとシズの会話を耳にした皆が等しく驚き騒めく。そして、先ほどまでシズと話していた部下が驚きの表情でシズに問いかける。
「え、一度もですか?」
「団長は……特別です。なんたって、未来が見えるんですから」
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