第292話 軍議。

 三時間後……日が落ち、辺りは暗くなっていた。


 先ほどサンチェスト王国軍とバルベス帝国軍との戦争が行われていたゴーダ平原では天幕がいくつも設営されていた。


 その中の一つ大きな天幕の中でシズやダニエルなどの軍の幹部が集まっての軍議が行われていた。


「最後に……もう少し、元火龍の団員以外にもこの軍議に参加させたいな」


 軍議も終盤に差し掛かったところでダニエルが自身の意見を口にした。ダニエルの意見に同意するように軍議参加して者達が頷き答える。


「そうだな。この新しい軍において元火龍とそれ以外とで区別するのはよくない」


「ただ実力主義は変えたくないな」


「それはそうだ」


「……今でこそ、元火龍のメンバーが全員参加することになってが、火龍時代軍議に招集するメンバーはどうやって選んでいたんだ?」


「さー」


「確か……団長の独断と偏見で決めていたぞ」


「え、マジか……じゃ、まだ新人だったアリソンやシズの実力を見抜いた団長の人を見る目はさすがだったと言うか」


「ただ団長の場合、百人しかいなかったからな」


「いやいや、そうじゃないぞ? 年間数千を超える入団希望者がいる中で選定するのはなかなか、大変だったと思うが……」


「むう」


 軍議に参加させるメンバーを選ぶ方法を皆で考えたところで……行き詰まり少し沈黙が訪れる。


 その沈黙を破ったのはダニエルの隣で紙に何か書いていたシズであった。


「ベターに推薦制を導入しますか?」


「んー団長は独断と偏見で決めていたと言っていたが……何か基準があったのかな?」


 思い悩むように首を傾げたダニエルが顎に手を当てた。


「あの団長が居なくなってもうすぐ二年が経とうとしているのに、いまだに団長の考えに囚われるのは……危ない気がするのですが」


「そうかも知れないが……あの人のやることは理に適っている。それはシズが一番分かっているだろう?」


「そうですが。何でもかんでも団長と私達を一緒にしたら……ダメだと思うんですが」


「んー能力的な問題か……」


「ええ、団長には人には見えない何かが見えていると思うんです」


「お前……団長をなんだと思っているんだ?」


「え? 変人、超人……超絶者とか言うあたりですかね?」


「そ、そうか」


「武人としても最強なのに、余興でよくやった軍略チェスでも兵団内で上位だったですよ? ありえませんよ」


「ハハ、飲みの席での余興か、最近やってないな……あ」


 何か思いついたようにダニエルがパチンと指を鳴らした。それを目にしたシズが首を傾げて問いかける。


「ん? どうしましたか?」


「そういえば、俺が軍議に呼ばれるようになったのは……余興で初めて上位になった時だったな?」


「……余興? そういえば……私が軍議に呼ばれるようになったのは余興の軍略チェスで初めて団長と対戦した後でしたね。その時は負けましたが」


「もしかして、余興で選んでいた?」


「んーありえなくもないですね」


「ハハ……余興を再開するか。人数が増えたから、無理しない形で全員が楽しめる感じ……最初の余興は魔法とか関係ないモノにしたいな」


「そう……ですね。んーこれはすぐには浮かばないですかね? 皆さん、これは一旦持ち帰って考えるってことではどうですか?」


「んーそうだな」


「とりあえず、私は軍略チェスに一票入れておきますね」


「はえーよ。あ、団長と言えば……数日間前にアレン団長があのモーリスとの激闘の末に姿を消したと情報が上がっていたと思うが。真偽はどうだった? コリンズ」


 ダニエルは天幕の中に居た黒ずくめで全身を覆い男か女かわからない者へ視線を向けて問いかけた。


「真実だったよ。その戦いで地形がガッツリ変わって街一つ入るくらいの大きな湖ができたそうよ」


「そうか……団長とモーリスとの戦いだ。それぐらいやるだろう。団長が居なくなって周辺諸国の動きは?」


「クリスト王国とベラールド王国が活発に動き出したよ。軍事演習するみたいよ。あの団長が近くに居るのと居ないとでは安心感が違うよね。まーあ、それに呼応するようにバルベス帝国もクリスト王国とベラールド王国との国境に部隊を多く動員しているようよ。そのお蔭でこっちに向けられる兵は寄せ集めみたいな奴らが多いよ」


「居なくなっただけで各国を揺らぎ動かすのは団長くらいだろうな。それにしても軍事演習か……こっちも参加したいところだな」


「無理ですね。おそらく合同演習に参加して帰ってきたら、国が無くなっている可能性があるかと」


 ダニエルの呟きに対してシズが首を横に振ってきっぱりと否定するように答えた。その答えを聞いたダニエルは苦笑する。


「ハハ……無くなっていたら困るな」


 ダニエルとシズのやり取りを聞いていた黒ずくめの者……コリンズもコクコクと頷く。


「そうねー。ホーテとかも参加したいみたいだったけど。その帰ってきたら国が無くなっている可能性が拭えないから無理かなーって言っていたよ」


「そうか、ホーテの奴も考えているならいいか」


「あ……ただ、クリスト王国へ交渉団と元火龍の医療班の一部派遣が決まったよ」


「ん? 交渉団の派遣はわかるが……医療班? 何かあったのか?」


「モーリスに毒が撒かれていたそうよ」


「なんだと……」


 ダニエルと天幕内に居た一部の者達の視線が鋭く、殺気を帯びた。天幕内の空気がズンッと重たくなった。


 コリンズは周りの空気など気にすることなく、報告を続ける。


「医療班はその毒の解毒薬を目指すそうよ。調べた限り移るとかはないけど、蓄積型で厄介だそう」


「チッ、元火龍の中でも医療班は貴重だが仕方ないな」


「そうね。ホーテもすごーく怒りながらそう言っていたよ」


「そりゃ……アイツが一番分かっているか。コリンズからの報告は以上か?」


「以上よ」


「コリンズよく報告してくれた。他の者で報告する者が居なければ……今日の軍議は以上だな。解散」


 ダニエルの言葉で軍議が終わり、集まっていた軍の幹部達はそれぞれ解散していった。

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