第257話 応接間にて。
セーゼル武闘会が閉幕して十日が経った。
早朝。
ここはクリスト王国の王都リンベルクを囲っている城壁の東門。
その東門内にある応接間でベアトリス、グラースが会っていた。
ベアトリスが一歩前に出て、グラースに手を出した。
「グラース殿、またお会いできることを楽しみにしている」
「あぁ、そうだな。次はベラールド王国に招きたいところだ」
グラースもベアトリスに応じるように手をだして、二人は固く握手した。
「その時を楽しみにしている」
「うむ、また」
その時、ベアトリスの後ろにあったソファからギシッと沈み込む音が聞こえた。
突然のことにグラースとベアトリスは弾かれるように握手を離し音のした方へ視線を向ける。
グラースとベアトリスが視線を向けた先には、ソファに座っているアレンの姿があった。
「このクッキー甘いなぁ。すごい砂糖だ」
アレンはローテーブルの上に置かれていたクッキーに手を伸ばすと、一口食べる。
一瞬呆気に取られていたグラースがフッと笑みを深めて……口を開く。
「まさか、アレン殿が別れのあいさつに来てくれるとはな」
「たまたま見かけたからな。もう帰るのか?」
「あぁ、あまりベラールド王国を留守にはできないのでな」
アレンとグラースに軽い感じで会話し始める。
この時にアレンとグラースの関わりは少し聞かされていたベアトリスであったが、あまりに軽い二人のやり取りに多少の動揺があったのかビクンと体を震わせた。
「そうか……そうだな」
アレンが納得したように頷く。
そして、ソファから立ち上がってグラースの方へ手を出した。
対してグラースは楽しげな笑みを浮かべて、アレンに応えるように手を出した握手を交わす。
「我が国に入国する時はくれぐれも先に知らせをよこすようにな」
「ハハ、そうするかな」
それから、アレン、グラース、ベアトリスの三人はソファに座り軽く雑談していると、応接間の扉をノックすると音が響いた。そして、兵士の声が聞こえてくる。
「グラース様、護衛兵と馬の準備整いました」
「そうか……では、ベラールド王国へ帰るとするか。またな。アレン殿、ベアトリス殿」
グラースはサッと座っていたソファから立ち上がると応接間を後にするのだった。
それから、アレンとベアトリスは外に出て、他に集まっていた者達と一緒にベラールド王国へと帰っていくグラースとグラースの護衛兵二百名を見送ったのだった。
グラースを見届けた後、ベアトリスは隣で人が多くて気分悪そうにして座り込んでしまったアレンへと視線を向ける。
「私は王城に戻るが。アレンど……君はこれからどうする?」
「うぷ、俺か?」
「大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」
「うげ……ちょっと人が多くて……ギリギリ大丈夫」
「そうか? えっと……時間があるなら聞きたいことがいくつか」
「うぷ、なんだ?」
「まずはセーゼル武闘会で有望な弟子候補を見つけたかどうか」
「二人選んだぞぉ」
「そうか。次は来春に我が国とベラールド王国とで合同の軍事演習が行わることになったのだが……アレン君はグラース殿より話を聞いていて我が国側に立って一軍を率いてくれると?」
「あぁ、軍事演習ならと思っていたが邪魔ならば外してくれていい……うぷ」
「いや……アレン君が参加してくれるのはこちらとしても願ってもいないからな。ただ最初に意見を聞きたい」
「意見? ……まぁ、わかった。俺も王城に行くか、うっぷぷ」
「では馬車へ」
アレンはよろよろとふらつきながらもベアトリスが用意していた馬車に乗った。そして、ベアトリスと共に王城へと向かうのだった。
クリスト王国の王都リンベルクをグラースが離れて五時間。
グラースとグラースの護衛兵二百名は馬に跨りベラールド王国へと向かっていた。
「私ももう少し気配を操れるようにならんとな」
グラースがボソリと呟く。そして、何か思い出し笑いをするように小さく笑う。
「ふ、これではアレン殿に出し抜かれてばかりになってしまいそうだ。しかし、アレン殿は本当にあの当時と変わらずにとんでもないお方であったわ……ん」
グラースは何か感じ取ったのか、不意に視線を周囲へと巡らせた。そして、周りに居た護衛兵達を止めようとした。
しかし、グラースが行動を起こすより前にヒュンヒュンっと風を切る音と共に護衛兵達へ大量の矢が降り注いだ。
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本日も、私の小説を読んで頂きありがとうございます^ ^もし、お時間があるのでしたら小説のレビューとフォローをしていただけると、私が元気になりますのでどうかよろしくお願いします。(๑╹ω╹๑ )
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