第256話 王子襲来。

 ここはブレインの森。


 その森にラーベルク王子の一行とアレン達銀翼のメンバーが入っていた。


 隊列はなぜか守られる側であるはずのラーベルク王子とリナリーが二人先頭で……その後ろにアレンとイグニスとが並ぶ形で歩いていた。


 ちなみにホップ、フィットに乗ったペンネとラーベルクの他の護衛達は周囲警戒のために少し離れて歩いていた。


「リナリーさん、良い狩り日和だなぁ」


「……そうですね。はい」


「安心してくれ。何が出ても私が貴女を守って見せる」


「いえ、私とアレンが食い止めますので、ラーベルク王子様はお下がりください」


「む? 私は強いのだぞ? 遅れは取らん」


「いえ、私とアレンは今までこの森に入り……討伐クエストを何度もこなしてきているので」


 ラーベルク王子に暑苦しい感じでリナリーに話かけた。


 対してリナリーは硬い表情で最小限の受け答えをする……と言うの少しかみ合っていない会話(?)をずっと繰り返していた。


 そんな二人のやり取りを見ていたアレンとイグニスがほぼ同時に苦笑をする。


「「ハハ……」」


 アレンはすぐに苦笑を引っ込めて頭を下げる。


「失礼しました」


「……アレン、気にすることない」


 アレンの謝罪に対してイグニスは首を横に振って答えた。


「……」


「……」


「……」


「……アレンはリナリーと冒険者パーティを組んで長いんだな?」


 少しの沈黙の後で、イグニスが前を歩くラーベルク王子とリナリーに聞こえないほどの小さい声でアレンに問いかけた。


 イグニスの問いに対してアレンは首を傾げて、アレンも小声で答える。


「冒険者になってすぐにパーティを組まないかと誘われてからなので……一年と半年になりますかね」


「一年と半年か意外と短いな。しかし、その短い期間でB級の冒険者パーティにまでなったと……クリスト王国のギルド内でもトップクラスの実力があると聞いているが素晴らしい経歴があると聞いているが」


「ハハ、ほとんどリナリーのおかげですよ。私は彼女が魔物や獣を倒している間、彼女をこの盾で守っているだけなので」


「そうか。リナリーど……いや、リナリーの魔法は凄いものな」


「……イグニス様はリナリーの魔法をどこかで見たことが?」


「ハハ、昔……チラッと見る機会があってな」


「そうでしたか。ん」


 アレンが不意に立ち止った。そして、前に居たリナリーとラーベルク王子に話しかけた。


「リナリー、ラーベルク王子様……前方に獣がいるようです」


「そう、アレンは前に出て」


「そうか? 私は気付かないが」


「……私も」


 リナリーがすぐに自身の前に出るようにアレンに言ったのに対して、ラーベルク王子とイグニスは半信半疑のようだった。


 アレンはリナリーの指示でリナリー達の前にでて……盾を構える。


「なんだか……頼りないな。私が前に出てもよいが?」


 アレンが盾を構える姿を目にしたラーベルク王子は不安げな様子で言う。対して、リナリーが少しムッとした表情になって口を開く。


「いえ、アレンの盾使いは超一流ですので何の問題ありませんよ。ラーベルク王子様はすぐに……何か獣に出くわすかもしれません、弓を構えておいてください。アレン、ゆっくり気付かれないように近づこう」


 アレン達は音をたてないように、アレンを先頭に歩き進んでいく。


 それから、狩り自体はつつがなく済んで……大きな黒熊を仕留めることができた。




 狩りが終わった帰り道。


 ラーベルク王子はアレンの肩をパンパンと叩きながら笑う。


「ナハハ、リナリーが言っていた通りアレンの盾使いは素晴らしかったぞ」


「はぁ、そうですか」


「それに我流だという。私やイグニス以上の気配読みも素晴らしかったぞ」


「たまたまですよ」


「そんなことない。どうだ? 我が近衛に加わらないか?」


 アレンの肩を抱きながらラーベルク王子がアレンに問いかける。すると、アレンが何か返事する前にリナリーがアレンを引き寄せて抱きしめる。


「だ、ダメ……ダメですよ。アレンは私のなんですから」


「な。な。リナリーに触れていい男は私だけだ」


 アレンがリナリーに抱きしめられたのを目にしたラーベルク王子は怒りを表した。そして、リナリーから引き剥がすようにアレンを引っ張った。


「な、何を言っているんですか」


「ふぬ、離せ! リナリーに触れていいのは私だけだ! リナリーは私のだからな!」


「それは間違っています。私は貴方のモノではありません」


「なぬ! 私は強くなったぞ!」


「そもそも、私はまだ結婚なんてするつもりありませんから!」


「結婚せずにどうするんだ」


「魔法を極めるんです。今は冒険者を続けて魔法を磨いて……ゆくゆくはあの英雄アレン様に私の魔法を見てもらうのです! そして、千の魔法使いともいわれた天才アリソンさんみたく弟子にしてもらうんですから!」


「英雄アレンだと! もうどこにいるか分からんだろう!」


「分からないですけど! クリスト王国近くに居ることは聞いているのです! 必ず見つけ出します」


「ならば、私が英雄アレンにも勝てるようになればよいのだな!」


「なんで、そうなるのですか。英雄アレン様に手を出したら私が許しませんから! それと、ちゃんと話を聞いてください」


「「ぐぐぬぬ」」


 リナリーとラーベルク王子とは口喧嘩に近い言い合いを始めるのだった。


「「はぁ……」」


 リナリーの腕から何とか抜け出したアレンと傍で動向を見守っていたイグニスが並んでため息を吐いた。


 それから、何とか二人の口喧嘩をアレンとイグニスで納めて、冒険者ギルドへ無事戻って指名クエスト自体は完遂することができた……。


 しかし、今後、ラーベルク王子からは定期的に今回のような指名クエストをされるようになるのだった。

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