第258話 始まる。

「ぎゃ! 矢が」


「なんだ!」


「敵襲か!」


 突然、矢が降り注いだことにより護衛兵達は混乱をきたしていた。


 持っていた槍で矢を弾いていたグラースは周囲の様子を察し、即座に声を張り上げる。


「盾を構えて密集隊形!」


 護衛兵達はグラースの命令を受けて、盾を上に向けて密集隊形をに入った。


「グラース将軍も盾の中に」


「あぁ」


 護衛兵の一人がグラースに近づいて、持っていた大盾の中にグラースを入れた。


 グラースは口元に手を当てて、思考を巡らせる。


 先に放っていた偵察部隊はやられたと考えるべきか……くっ、カトレア……いや今は私情を持つべきではない。


 クリスト王国軍の可能性もなくはないだろうが、同盟がある。


 いや、確かにクリスト王国軍も一枚岩という訳ではなく、同盟に疑問を持っている者も居ると聞くが……。


 それでも私ならばもう少し国境付近で狙う。


 同盟と国力差がある以上……こんな、あからさまことはしないだろう。


 となると、別の?


 あぁ、そう言えばクリスト王国の辺境を根城にしている盗賊団があったな。


 ブレーガル盗賊団と言ったか?


 そいつ等の仕業か?


 盗賊だとすると、目的は何だ?


 盗賊がこの軍を狙うメリットがなさ過ぎる。


 この軍を狙うよりも商隊でも狙った方が……犠牲も少なく大金を得られるだろう。


 だとするとやはりクリスト王国軍? それとも別に……そう、これはクリスト王国の仕業としたがっているようにも見える。


 クリスト王国に濡れ衣を着せて同盟を破棄させようとしている組織がある?


 ……っ!!


 グラースが思考を巡らしていると、背筋がザワッと寒気が走った。


 そして、視線を周囲へと向けると……見つけた。


 グラースの視線の先には、片目を失った老人が気配なく近づいてきていたのだ。


「おっと気付かれてしまったわ。気配なく近づいて魔法で吹き飛ばす作戦は失敗だの。ひょひょひょ」


「貴様は……老怪(ろうかい)モーリス・ファン・ゴーウィか」


「久しいの。守護神殿……お主のガキを殺したあの戦争以来か?」


 グラースはモーリスを認識するや、怒りに額の血管を浮き上らせて……矢が降ってきている中で馬を走らせていた。


 グラースの馬は地面を強く蹴って風のように速くモーリスへと走った。


「モーリスぅ!!!!!! 息子の仇!!!!!!!!!」


 モーリスを目の前にしたところでグラースは馬に跨りながら持っていた槍を構え声を張り上げた。


 ただ、グラースの剣先がモーリスに届く寸前のところで……グラースの馬がガツンっと激しくぶつかり、その衝撃で馬の首がボキッと生々しい音をたてて折れた。


「ぐが!」


 馬に跨っていたグラースも何かにぶつかった衝撃を身に受けて苦悶の表情を浮かべた。そして、馬から投げ出されるようにして地面に転がり落ちた。


「ひょひょ、面白いほどに引っかかってくれるの」


 モーリスは腹を抱えて愉快そうに笑った。すると、角度が変わり透明な壁が目にすることができた。


 グラースは奥歯を強く噛み絞めて悔し気な表情を浮かべる。


「っ! 貴様、【シールド】を仕込んでおったのか」


「当り前であろう。お主らのような化け物武人を相手にするのに、魔法使いの儂が何の盾もなしに居る訳があるまいよ」


 モーリスはふわっと体を浮かせて……上空へと逃げてグラースから距離を取った。


 それと同時にモーリスが伏せていたと思われるバルベス帝国軍兵士三百ほどが姿を現した。


 そして、三百のバルベス帝国軍兵士と二百のグラースの護衛兵……いや、先ほどの矢で数を減らして百六十のグラースの護衛兵とがぶつかることになる。


 両軍ともに精鋭であった……と言うことは人数の差がそのまま勝敗に表れてくる。


 グラースの護衛兵百六十はじりじりと数を減らしていくことになる。


 そのことが予想できたグラースは顔を顰めて……手を前に突き出した。


「……【ファイヤーランス】」


 そこから、グラースとモーリスの壮絶な戦いが始まるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る