第253話 ガールズトーク。

 ここはアレン達が暮らしている屋敷。


 その屋敷の庭の一部にいくつかの棒が建てられ、そして棒と棒の間にロープが渡されている場所があった。


 そこではローラが大きな籠から洗った衣服を取り出してパンパンと水気を飛ばし、ロープに洗濯物を干していた。


「ここは天気が悪くなったりしないで、いつでも洗濯物が干せていいですね」


 ローラは干したばかりの洗濯物を眺めながら表情を綻ばせた。そして、次の洗濯物を籠から取り出す。


 丁度、ローラが手にした洗濯物はアレンが普段から着ている上着であった。


「アレン様の上着……へへ」


 ローラはアレンの上着を広げて、しばらく見つめると表情を緩めた。


「えっと……お取込み中に。ごめん」


 ローラの後ろにばつが悪そうな表情を浮かべたライラが居た。


 ローラは声をかけられた方へと振り向いて、ローラとライラが視線を合わせた。


「……」


「……」


 ローラとライラの間に気まずい沈黙が流れた。


「はぁわわわあああ、あぁあああ」


 ローラが沈黙を打ち破って、顔を……耳まで真っ赤にした。そして、後ずさるように尻餅をついた。


「えっと……なんかごめん」


「はうううう、私ったら……なんてはしたないんでしょう!」


 ローラはアレンの上着で赤くなった顔を覆う。その様子を見たライラはフッと小さく笑みを浮かべる。


「あれくらい気にしなくていいと思うけど」


「……」


「ちょっと話そうと思って来たのよ」


「えっと……何かありましたか?」


 顔を隠していたローラはアレンの上着から少し顔を上げて、ライラに問いかけた。


 ライラがその場に胡坐をかいて座る。


「よっと、アレンのことよ」


「アレン様のこと?」


「アレンは……馬鹿みたいに本当の英雄よ」


「そうです。アレン様は英雄です」


「そうね。貴女はアレンのファンで無理矢理に付いて来ちゃうほど大好きだと言っていたわね。もしかしたら、私よりもアレンのことを知っているかも知れないわね。けど……ならなぜ夜襲わないの?」


「へ?」


 ライラの言葉にローラは目を点にして答えた。


「いや、英雄であるアレンの血の尊さが分かっているなら、なぜベッドで襲わないのかって聞いているのよ」


「え? ですが。ですが……淑女としてはしたないではないですか」


「……そんなこと言ってらんないわよ? 貴女だって若いうちに一人くらい子供を産みたいでしょ?」


「アレン様の子供……そ、それはそうですね」


「それにはね。貴女から襲うしかないのよ?」


「え?」


「アレンが貴女を襲うまで待っていたら、時間が掛かって仕方ないわ」


「それは……私に魅力がないのでしょうか?」


 ローラは懸念を口にして少ししょんぼりとした様子で、アレンの上着をギュッと握り締めた。


 対してライラはローラの懸念を否定するように首を横に振る。


「いいえ、貴女は魅力的よ。自信を持っていいと思うわ。これは……種の問題よ」


「あの種の問題とはどういう……?」


「そう。それは貴女に魅力がない訳でも、アレンがヘタレだからと言う訳でもないわ。アレンは……半分エルフの血を有しているハーフエルフで、人間に比べたら長命なの」


「それは、わかっていますが……それに何かあるのですか?」


「エルフを始め……長命の種族は人間に比べたら性欲と言うのが薄いのよ。そう言う意味で時間が掛かってしまうの」


「な……なるほど」


 ライラの説明を聞いたローラはホッと胸を撫で下ろした。


「ここからは……この世界の都合なんだけど。貴女、アレン自身は子供二、三人作ればいいとか思っているでしょう? もしかして、貴女もそう思っていたりする?」


「え、ええ、最初は……アレン様に似た男の子がほしいかなぁ……それで次は女の子がなんて……へへへ、アレン様の子供なら……どちらでも生まれてきてくれたらいいですかへへへ」


 頬を赤くしたローラは両手を頬にあてて、腰をくねくねと揺らしながらアレンとのことを妄想し始めた。そんなローラを見て、ライラはげんなりとした様子で手を横に振って口を開く。


「はいはい、のろけは良いから。話を進めるわよ」


「あ、すみません」


「二、三人じゃ少ないのよ」


「え?」


「だから、アレンの子供が二、三人じゃ少ないのよ。……それだけじゃ足りないは……繰り返しになるけど彼は本物の英雄で実力だって……底が見えない。先の戦いでアレンが一人で五万の軍勢を退け、S級の魔物を討伐、魔族を退けた。しかも、それを魔導具によって魔法が制限されている状態でやってのけたなんてもはや信じられない偉業だわ」


「……」


「ここまで言えば貴女にも分かるわね。確かに子供に必ずしも才能が引き継がれる訳ではないだろうけど……彼の血は尊いのよ。彼の子供は正直言うと百は欲しい」


「ひゃ……百!?」


 ローラは目を大きく開き驚き声を上げる。


「それだけ……アレンの血は尊いと言うこと。そして、百人居れば多少アレンの才能の片鱗持つ子が生まれるかも……。封印が解かれた魔族達と戦うには必要になって来るかも知れない」


「それはとても……」


「アレンや貴女が望まなくても……世界が望むことなのよ。おそらくクリスト王国の国王だって何か考えているかも知れないわよ?」


「そ、そんな。クリスト王国の国王様まで……?」


「私はハーレムなんて男が抱く幻想だと思っているけど……必要になるかも知れないわよ? だから、最初の話に戻るのよ。早く襲っちゃいなさいって」


「お、お、お、お、襲うってどうしたらいいんでしょうか?」


「フフ、それは……アレンが眠りについたところに、夜這いとかが一番いいかしら? それとも……最初はお風呂にでも一緒に入るところから始める?」


「えええ、それは……あまりにも」


 それから、ローラとライラのガールズトークはしばらく続いた。


 ただ、ここでの結論として……結局は精がつく料理を一品食事に追加することで決まった。具体的が問題については次回の話し合いへ先送りされてしまったのだった。




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