第254話 何気ない一日。
セーゼル武闘会が閉幕して六日が経った日の早朝。
ここは冒険者ギルド会館の正面玄関前。
「ふぁー眠い」
いつにも増してボサボサの髪のアレンがあくびをしながらギルド会館に近づいてきた。
すると、アレンの前にギルド会館へ入ろうとしている五人の一団があった。
「ん? アレはどこかで見覚えが?」
アレンは彼らに見覚えがあったのか首を傾げる。
「ハハ、狩りに行くには良い天気だな」
「我々はわざわざ変装し……お忍びでここに来ているのでお静かに」
「あぁ、そうであった。そうであった。なはは」
「それから、今日は彼女のことは冒険者として接して下さいね? 王女とバレたら冒険者を続けることは難しいでしょうから」
「任せろ。わかっておるわ」
「くれぐれも……」
「わかっておる。早くいくぞ」
その一団はこそこそと話ながら冒険者ギルド会館に入って行った。
「んーまぁいいや……遅刻してリナリーに怒られる」
少し考える仕草を見せるも、すぐに思い直して冒険者ギルド会館へと入って行った。
「ふぁーおはよう」
アレンは欠伸しながらすでに冒険者ギルドのロビーに集まっていたリナリー、ホップ、ペンネの三人に声をかける。
「おす」
「おはよう」
「もぉ遅いわよ」
ホップとペンネは短くも挨拶を返してくれたものの、リナリーは不機嫌そうな表情でアレンの挨拶に返した。
「んー悪いな」
アレンが頭を掻きながら謝ったところで、リナリーがアレンにズイッと近づく。そして、匂いを嗅ぐように鼻を動かす。
「すんすん……アレン、なんか生ごみの匂いがすごいわよ?」
「そうか? 悪い、自分ではよくわからんもんだな。ちょっとギルドでシャワーを借りてくるわ」
「そうねぇ、そうした方がいいかも……貴方がシャワー浴びている間にクエストを……今日はC級の魔物を討伐するクエストを受けるわよ?」
「んーわかった」
自身のギルドカードをリナリーに手渡したアレンは、ギルド会館内にあるシャワー室へ向かうのだった。
「くはー生き返るぅ……そういえば、二日ぶりのシャワーになるのか」
シャワー室に入ったアレンはもくもくと白い湯気が上げる中でシャワーを浴びながら体を洗っていた。
「眠い。昔は行軍で二日くらい眠らずにいたこともあったはずなんだが……やはり歳をとったということかな。ふぁーあ」
アレンが眠たげな眼で、大きく欠伸をしたところで、シャワーのお湯を出していた蛇口をキュッと音をたてて止めた。
ただ、そこで何かを思い出したようにアレンは口角を上げて小さく笑う。
「まぁ一通りは教えることができた。あとはアイツらがどう生きるか……楽しみだ」
アレンは体に付いた水滴を払うとシャワー室の個室から外に出ようとした。
ただ、そこで……何かに気付いたのかアレンの動きがピタリと止まる。
「あ……しまった。俺、相当に寝ぼけていたな。髪の毛染め剤が落ちているわ。……銀髪で外に出たら驚かれるよな? さすがに俺がアレン・シェパードだとバレるかも知れん……毛染め剤の予備は脱衣所のロッカーに入れた俺のバックの中に入っているが」
アレンはゴクリと息をのんで周囲に気配を読み取りつつ、耳を澄ますと。
シャワー室とその隣にある脱衣所にも数人いるようだった。
ふぬ! どうだ? 俺の筋肉……素晴らしいだろ?
は、お前の筋肉になんかこれっぽちも興味ねーよ。
ふん、武闘会の影響で俺みたいな筋肉逞しい男がモテだしているんだよ。
誰からの情報だよ。
実際に昨日酒場で飲んでいたらベディってすごく可愛い女の子に素敵って言われたんだぜ? 間違いねーよ。
それってリップサービスじゃねーか?
違うぜ。カッコいい。付き合いたいって……言われちまってさ。へへ。
マジか! 付き合うのか?
いや、それはまだだ。
そうなのか。
あぁベディちゃんの田舎の両親が流行病で……薬代や治療費、生活費で借金がいっぱいあるとかで……付き合うのは遠慮されちまってよ。
そうか……最近多いよな。流行病で寝込んでいる奴。
しーかーし、俺が借金をすべて肩代わりしてやると言ってやってだな。
おい、ちょっと待て……それって。
ん? なんだよ。
いや、シャワーをさっさと浴びて……どっか喫茶店に入ってじっくりと話を聞こうじゃないか。
おあん、なんだよ。
馬鹿、さっさと行くぞ。まだ金渡してねーだろうな!
……行ったか。
なんだが大変そうな話をしていたな。
酒の場で金を求められた時は大概よくないことだと聞いているが。
話していた男は大丈夫だろうか?
とりあえず、シャワー室には誰もいないか。あとは脱衣所……。
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