第252話 ふごっ!
舞台に立っていたライラが微笑を浮かべながら舞台を降りて、客達の席を練りまわり……チップを受け取っていく。
そして、アレンとルバートの座っていたカウンターにやってきた。
「こんばんは……こちらの方は初めてのお客さんですね。私、ライラと言います。よろしくお願いしますね」
「ライラさん……素晴らしい歌でした」
ルバートは懐から銀貨を取り出して、ライラに手渡した。
「ふふ、ありがとうございます」
「……」
ライラが口元に手を当てて微笑する可愛らしい姿を目にしたルバートは魅入られたように黙ってしまう。
「ハハ、騙されるなよ? お前の歳のば……うご」
アレンが何か言おうとしたところで、ライラがすばやく動きルバートからは見えない角度からアレンの腹に拳をめり込ませた。
アレンがむせると、ライラは心配そうな顔を作ってアレンの肩に手を乗せる。
「あらあら、急にむせちゃって大丈夫かしら? アレン君?」
「あらあらじゃねーよ、お前が殴ったんだろう、いっ!」
ライラは笑顔だ。笑顔のままにアレンの肩をギュッと強く握る。そして、アレンの耳元に顔を近づけると声を小さくして話しかける。
「さっきから……何かしら私の語り歌に何か文句でもあるのかしら? 私の歳がなんだから他にも語り歌知っているって? ぶっ殺されたいの? あん?」
「地獄耳め」
「ああん?」
「いえ、なんでもありません」
「ふふ、そう? そうよねぇ。ん」
ライラは握っていたアレンの肩を話して、ニコリと笑った。そして、アレンの前に手を出した。
要約すると……ほら、さっさとチップ(金)をよこせ。豚野郎。
「あぁ、はいはい」
アレンは懐から銅貨を出して、ライラに手渡した。ただ、ライラは笑みを深めて、アレンの前に再び手を出す。
要約すると……ほら、もっとチップ(金)をよこせよ。ぶっ殺されたいの?
観念したように小さくため息を吐いたアレンは再び懐から銀貨を取り出してライラに手渡した。
「ふふ、また聞きにきてくださいね」
アレンからチップを受け取ったライラは微笑を浮かべて、ルバートに手を小さくその場から離れて行く。
そのライラをルバートは顔を赤くして見送っていた。
「はぁー」
「ルバート君?」
ルバートの様子がおかしいと感じたアレンがルバートに問いかける。しかし、アレンの声などルバートには届かないようで……。
「ライラさん……」
「おいおい、アイツはやめといた方がいいぞ? なんたってアイツはお前の歳のばッ」
アレンの言葉の途中で頬に……銅貨が飛んできてバチンといい音を鳴らした。
アレンは顔を顰めて、頬に張り付いた銅貨を手に取った。アレンの頬には銅貨の跡がクッキリと残っていた。
「……地獄耳か」
アレンが銅貨に視線を落としていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「はぁー、ライラさんの赤き龍の英雄は臨場感があっていいわ」
「ん?」
「ん? アレンじゃない」
聞き覚えがある声を耳にしたアレンは視線を上げると、その声の主と視線が合った。
「リナリーか。こんなところでどうしたんだ?」
「もちろん、語り歌を聞きにきたに決まっているじゃない」
「こんな遅くまでか? 家の人にはちゃんと言っているのか? 心配するんじゃないのか?」
「う、だ、大丈夫よ。私も立派な大人の女なのよ」
「そうか? 大丈夫ならいいんだが」
「む、アレンもお母さ……んみたいなことを言って……ん? 隣の人は……アレンの知り合い?」
リナリーの視線がアレンからアレンの隣に座っていたルバートに向かった。
ちなみにルバートはライラの後ろ姿を追っていた。
「ん? あぁ、さっき知り合って一緒に飲んでいたんだが、どうした?」
「そうなんだ。すごく……強そうね」
「……そうか? 彼はルバート君、世界を旅している旅人なんだとかで話を聞いていたんだ」
「へぇ、旅人さんなの。道理で強そうな訳ね」
ルバートを見ながらリナリーは感心したように頷いた。
アレンとリナリーがそんなやり取りをしていると、店の外から店の中にまで聞こえてくる大きな声が聞こえてくる。
「本当にリナリーがここに居るのか! イグニス!」
「そう聞いています」
「そうかなら、すぐに入ろう」
「わかっていると思いますがくれぐれも……リナリー様のことは」
「うるさい。分かっているわ」
店の外から聞こえてきた声を耳にしたリナリーは表情を顰める。
「げ……げげ」
「ん? どうした? あの声ってどこかで……」
「私、帰るわ……ダルファーさん!」
リナリーはアレンが今まで見たことがないほどに早い身のこなしで帰っていった。うん、ダルファーに頼んで店の裏口から……。
そこでアレンとルバートの飲みの席も、切り上げられて……アレンも銀老亭を後にするのだった。
◆
ゲリラ投稿。
レビュー☆2000突入記念。
更にコメント付きレビューもありがとうございました。
やはり読者の皆様に感謝を伝えるには小説を投稿するのが一番だよね('ω')
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