第238話 セーゼル武闘会。

 ここはアレンがクリスト王国とバルべス帝国との戦争をおさめた後、クリスト王国の多くの国民を巻き込んで行った宴の場所……。


 宴の場所は元々森、そして沼地のようになっていた不毛な地であったのだが、アレン達の魔法の暴力によって平地へと変えられた場所。


 その為、クリスト王国がアレンから買い取って、どのように活用しようか検討していたところであった。


 今回のセーゼル武闘会でその土地を使用する案が挙がり……再びの魔法の暴力によって立派な円形闘技場が出来上がってしまったのだった。


 円形闘技場の外周部に変装しているアレンが一人やってきて円形闘技場の全体を見回す。


「おうおう、こんな人が集まって……観戦席は多く作ったつもりだが、足りずに観客を制限しなくてはならなくなるとは思わなかったなぁ」


 今、その円形闘技場には……数千人の観客が集められてセーゼル武闘会が始まるのを今か今かと待ちわびているようだった。




「へへ、賭札買ってきたぜ」


「誰の買って来たんだよ?」


「俺の小遣いを全部使うんだ。やっぱり本命はロビンだろ」


「なんだよ。大本命かよ」


「あぁ、当たり前だろ? しかし前に予想した時に次点だったレクサス……じゃなかった……えっと」


「レクセスだ。レクセス」


「そう、そのレクセスは予選会で落ちちまったみたいだな」


「レクセスは抗議していたらしいが……なんでも国王カエサル様が早々にその抗議を退けちまったとか?」


「んー予選会で何かあったのかな?」


「俺は予選会を少し見に行ったが……ただ走っていただけだったんだがなぁ」


「何かあったんだろうな。まぁいいや……んで、お前は誰に賭けたんだよ?」


「ふっふふ、俺はベラールド王国のイグニス・ファン・ロドリゲスだな? なんでも、そのイグニスは守護神グラース将軍の孫なんだとか?」


「ななな……なんだと! それは本当か! い、今から賭札を」


「お、おい、さっき小遣い使ったって言ってなかったか?」


「仕方ねぇー生活費をぉぉおおおお!」




 レクサス? いや、レクセスか?


 あぁ、アイツか。


 予選会の一回目のランニングにはショートカットする方法を、わざと残していた。


 例えば……南門から入って北門へ抜ける出ることで走る距離を三割ほど減らすことができたのだ。


 いや、王都内を巡回している馬車にうまく乗れれば……走る距離は半分にできただろう。


 他より多く走る競技だと思っていた奴には魅力的に映るだろうな。


 実際、監視員を増やして行わせた二回目のランニングの時は一回目にランニングさせた時に比べて全然走れていなかった。


 ……俺が育てたからと言って絶対強くなる訳ではないんだけど、国王のカエサル様は結構期待されているんだよなぁ。


 王子の側近候補にも検討すると言っていたし。


 つまり、監視する者が居ないからと言って……ルールを守らず、簡単に楽できてしまう方法に飛びついてしまう。


 そんな奴一兵士としてはまだ良いが……側近にはいらないんだと。まぁ、俺としては二回目……必死に走っていたし枠を増やしてやってもいいと思ったが。確か選考したときに見送られたんだったか? 




「おい、アレ……ベアトリス近衛長の隣に座っているのって守護神グラース将軍じゃねーか?」


「どうだろうな。ここからじゃ、分からねぇーだろ?」


「……なんか、なんかを感じないか?」


「それはまぁ……強いのはここからでも分かる。この円形闘技場には強い気配を放つ奴がチラホラいるな?」


「あぁ、もしかしてあの噂本当なのか?」


「あの噂?」


「いや、英雄アレンがこのセーゼル武闘会を観戦すると言う噂」


「その噂、本当かよ? 英雄アレンがクリスト王国に滞在していると言う噂は国民総出で探し回っても見つけ出せなくてデマ扱いされているんだぜ?」


「まぁ、デマの可能性が高いだろな。実際にこの場に英雄アレンの気配……壁上しかも離れた位置に居た俺すらも圧倒した……あの気配を放つ者は居ない」






 ハハ、君達の後ろに居たりするんだけど……。


 んー確かにベアトリスの隣に強そうな爺さんが居るな。


 アレが……噂の守護神グラース将軍か?


 ん? あの爺さん、どこかで見たことがあるような?


 んー思い出せん。


 っと、ここだな。





 アレンはローブを纏った戦士風の男が座っていた観戦席の前で立ち止まる。


「気配を消すのが更にうまくなったな」

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