第227話 弔い。
賑やかな食事が終わりかけたところで、アレンは思い出したように口を開く。
「そうだ……アリソンはどうだった?」
アレンの質問を耳にしたホランド、リン、ユリーナ、ノックスは表情を暗くして黙った。そして、ホランドとリンが胸ポケットからアレンが書いたアリソン宛の手紙をテーブルの上に静かに置いた。
ホランドからアリソンが戦死した顛末が語られることになった。黙って聞いていたアレンがゆっくりと口を開く。
「………そうか、禁を破って【コア・グラビドン】を使うほどの敵との死闘だったのか」
「はい、アリソンさんの部下であったダニエルさんもそう言っていました。それで戦った敵ですが、特徴から魔族ではないかと言うのがホーテさん達の見解です。ただ、それがアレンさんの戦った魔族なのか……それとも別の魔族が居たのか分かりませんが」
「アリソンならばどんな強敵にもしぶとく生き残ると思ったのだが。アイツは責任感が人一倍強かった……魔族の危険性を感じ取って逃げることができなかったのか。死体は残っていたのか?」
「いえ、救出で見つかったのは私物と魔法によってぐちゃぐちゃになった左足のみだったそうです……ダニエルさん達も懸命にアリソンさんの捜索を行ったそうです……遭難のデットラインと言われている三日を過ぎて、一週間捜索したそうですが……残念ながら」
「そうか……魔族がアリソンの遺体を持ち帰ったのか……?」
アレンはギュッと目を閉じて俯き頭を抱えた。
十分ほど、そのままでいたが、顔を上げてホランドへと視線を向ける。
「ホランド、よく伝えてくれたな」
「え、あ、はい……」
「それで……悪いが。少し一人にしてくれ……他の話は明日以降に聞くことにしよう」
そう言うや、アレンは椅子からゆっくり立ち上がった。そして、一人食堂から出て行ったのだった。
ここはアレン達が住んで居る屋敷の談話室。
時間は皆が寝静まる夜遅く。
談話室では暖炉の焚火が燃える音だけが響いていた。
「アイツは……ワインだったな」
アレンが一人でグラス二つとワインボトル、栓抜きを手に持って談話室に入ってきた。
そして、もはやアレンの指定席となっているロッキングチェアの近くにスタスタと歩いていく。
「よっころらせっと」
アレンは持っていたモノをロッキングチェアの隣にあったサイドテーブルに静かに置くと、ロッキングチェアに腰かけた。
アレンが座るとロッキングチェアの揺れる音がキーコキーコと響く。
焚火の光に照らし出されたアレンの表情は暗く……どこか悲し気であった。
アレンはしばらくロッキングチェアの揺れに身を任せながら焚火の静かに揺れる火を見つめていた。
「……」
アレンはサイドテーブルに置いていたワインのボトルと栓抜きを手に取った。
ワインのボトルのコルクに栓抜きを刺してキュキュっと独特の音を響かせながらワインのコルクを抜いていく。
キュポっとコルクをワインのボトルから抜くと、二つのグラスに赤いワインを注いでいった。
ワインが注がれたグラスの一つをアレンが手に取った。
持っていたグラスで、置かれていたグラスの口の辺りにチンッと軽く当てた。
「アリソンに……」
アレンはグラスに口をつけてワインを一口飲んだ。ワインを飲んでグラスから口を離すと、フーッと息を吐く。
「フー」
グラスを持ちながら、焚火へと視線を向ける。
パチ……パチンと薪がはぜる音が響く。
「……アリソン」
サイドテーブルに置かれていたワインが注がれていたグラスへと視線を向ける。
「これは火龍魔法兵団に居た者すべてに言えることだが、特にお前は天才だったな。今だから言うが、お前が火龍魔法兵団に入団した当時、お前に負けないためにホーテを始め……他の兵団員が陰ながら魔法の研鑽に時間を割いたか……」
アレンは苦笑を漏らした。
「そして、俺はお前ほどの奴が俺の元にいて才能が活かし切れてないのかと思い悩むことが多くあったよ。そんな、お前が俺の居なくなった後、意志を継いでサンチェスト王国を支えてくれた。多くの民を守るために働いてくれた。俺は心から嬉しかった……」
アレンは言葉を一度切ると俯き、左手で目元を押さえた。そして、頬から顎先にかけてツーッと水滴が流れ落ちる。
「っ、アリソン、お前は俺の誇りだよ」
アレンの持っているグラスに注がれたワインの水面が小刻みに揺れていた。
「死んだのか……」
少しの間が空いた後で、少し目を赤くしたアレンが顔を上げて、ワインをグイッと飲んで、一杯飲み干した。
「いや、悪いな。……湿っぽい別れは嫌だよな。今日は存分に飲むぞ。アリソン」
その夜、アレンは一人でワインを飲んでいた。
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