第226話 帰還。

 ここはアレンが住んで居る屋敷の外に作られた農園。


 アレンが中腰になりながら、草むしりをしていた。もちろん、鼻歌を歌いながら。


「なにーもなかったぁ。こーろからおーなーじようにぃーふんふん」


 最初はアレンの気まぐれと言った感じで始まった農園であったが、アレン、そしてルシャナが交代で世話をしているからか、どこに出しても恥ずかしくないレベルの野菜が育つ農園へとなっていた。


 ただ、そんな農園の中でも一番の面積をとられているのは、やはりイモ畑……いやゴルシイモの畑で……多くのゴルシイモが育てられていた。


 そのおかげかクリスト王国の王都では多くの者が口にすることになって……ブームの兆しが見え始めていた。


 ただ、ブームとなるとアレンが作るだけではゴルシイモの個数が足りなく、入荷された端から買われて……転売する者まで現れた。


 最近ではアレンがゴルシイモを育てていることが国王にもバレていて、国王自身からもっと生産して欲しいとせっつかれるほどであった。


「いきてーいきーたいんだぁーっと?」


 しばらく草むしりをしていたアレンは不意に顔を上げた。


 アレンの視線の先にはまだ小さな四人組の男女の姿がそこにはあった。


 それを目にしたアレンは中腰から立ち上がって、背中をトントンと叩く。


「おっとっと、腰痛」


 四人組もアレンに気付いたのか走り、アレンの元へと駆け寄ってくる。


「お帰り」


「ただいま帰りました」


「アレンさん、ただいま」


「ただいま」


「ただいま帰ったッス」


 アレンが四人組……サンチェスト王国へ行って二カ月と少し経って帰って来たホランド、リン、ユリーナ、ノックスの四人を迎えていた。


「お。なんか、揉まれてきたのか?」


「ハハ……」


「そ、そうね。いろいろあったわね」


「ふすん」


「そりゃ大変だったッスよ」


 アレンの問いかけに、ホランド達はそれぞれリアクション異なっていた。しかし、一様に疲れたと顔に大きく書かれていた。


 アレンはホランド達の様子を見ると小さく苦笑しつつも、手に付いた土をパンパンと掃う。


「ハハ……まぁ、そろそろ昼食だな。とりあえず飯を食いながらでもサンチェスト王国で何があったかゆっくり聞かせてくれよ」


「「「「はい」」」」


 アレンの言葉を聞いたホランド達は表情を緩めて声を上げるのだった。






 ここはアレン達が住んで居る屋敷の食堂。


 その食堂ではアレン、ローラ、ホランド、リン、ユリーナ、ノックス、ライラ、ルシャナの八人が賑やかに食事を行っていた。


「なに?! あのホーテが軍総司令だと! 辺境伯ではなく?」


 食事をしながらホランドからサンチェスト王国であったことを聞いていたアレンは身を乗り出して声を上げた。


「はい。国王になったアルフォンス様が三日三晩酒を飲み交わして口説き落としたそうですよ」


「なんだそりゃ。しかし、ホーテ軍総司令……ダハハハハハハハハハ」


 アレンはテーブルをバンバンと叩きながら、可笑しそうに笑っていた。


 ホランドを含めてサンチェスト王国へ行ったリン、ユリーナ、ノックスは表情を若干引き攣らせていた。


「あの笑うところですか……?」


「ハハ……はぁーはぁー腹痛。笑ったわぁー。昔のホーテを知る奴らは全員大爆笑だろうよ」


「そうですか……。今のホーテさんしか知らない俺達からしたら背筋が寒いのですが」


「そうか? まぁ随分と丸くなったようだな……アイツ、ストレスで倒れないといいが」


「あの……それで……えっと……アレンさん」


 ホランドは何やら言いにくそうにして、食事を止めた。いや、リン、ユリーナも俯いて食事を止めていた。


 アレンは笑みを深めて……フォークに突き刺したステーキにかぶりつき食べながら口を開いた。


「あむ、にゃむにゃむ……ごくん。何だ? 何か言いたいことでもあるのか?」


「俺……アレンさんに恩を返すためにどうしたらいいのかずっと考えていたんです」


「ふ、そんなことを考えていたのか? それで……その答えは出たのか?」


「……アレンさんはサンチェスト王国を離れても王国のことを案じているほどの立派な国士です」


「なんだ? 急に……照れるだろう」


「俺はそんなアレンさんの弟子で……師匠の意志を受け継ぎ歩む……それが恩を返すことにつながると考えに至りました」


「……決めたんだな」


 ホランド、そしてリン、ユリーナは真剣な眼差しでアレンをまっすぐに見た。アレンは目を細めてコクンと頷き、紅茶の入ったティーカップを手に取って一口飲んだ。


「はい。俺、リン、ユリーナはホーテさん達が新たに作り上げるサンチェスト王国国軍に加わってサンチェスト王国の国民を守る力になります」


「そうか………ホーテを助けてやってくれ。頼んだぞ」


「「「はいっ!」」」


 アレンの言葉を受けたホランド、リン、ユリーナの三人は背筋をピシッと伸ばして返事した。


「……寂しくなるな。いつまでここに居るつもりなんだ?」


「えっと、春まではこちらにいてアレンさんにしごかれて来いと言われました」


「そうか……ん? アレ、ちょっと待てよ? ノックスはどうするんだ?」


 アレンが一人食事を続けていたノックスへと視線を向ける。


「あ、俺ッスか? 俺はアレンさんが寂しかろうと思って残るッスよ?」


「ブハ……まさか、弟子に心配されるとはなぁ」


「アレンさんは見た目と違っていい歳なんッスから、ローラさんともう一人くらい必要ッスよ」


「グ……弟子に歳のことを言われてしまった」


 アレンはグハっと声を上げて自身の頭をポンと叩いた。すると黙って話を聞きながら食事していたルシャナとライラが笑い声を漏らす。


「ぷふふ」


「ぶふ」


「む、ライラだけには笑われたくない!」


「む、どういう意味よ。ぶっ飛ばされたいの?」


「むむ」


「むむ」


 アレンとライラは互いにフォークを握って、睨み合った。その様子を見ていた者達が一斉に笑い出した。


 しばらく、サンチェスト王国の現状や先月のアレンの誕生日の祝いを貰ってきたこと、ホーテから預かっていたアレンの剣である『赤』のことなどが話題に上がって談笑しつつ食事を続けた。

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