第215話 なんちゃってね。
ここはサンチェスト王国の王都。
その王都の中央地区にある豪勢な作りのアパートメントの一室。
時間は真夜中だが……サイドテーブルに置かれたランプの火によって室内が明るくなっていた。
微かにシャーッと言う水音が室内に響いていた。
しばらくしてシャーっと言う水音が止むと、……ランプの明かりが届いていなく誰かまではわからないがシルエット的には女性が髪を拭きながらやって来た。
その女性がスタスタとランプの明かりの近くに近づいて来ると……シャワーを浴びてホカホカと湯気が上がっているラーセットがガウン姿で現れた。
「ふぅ……」
ラーセットは一度息を吐くと、ランプの隣に置いてあったソファに近づく。ソファに体を預けるように座り、足を組んだ。
その様は大人の女性が醸し出す色気……エロスがあった。
「疲れたわねぇ」
ラーセットは本当に疲れた表情でしばらく天井に視線を向けていたが、視線をゆっくりと落とした。
ラーセットの視線はソファの隣にあったサイドテーブルに向かう。
そのサイドテーブルにはランプと一緒に何か書かれた皺くちゃの紙とワインボトル、グラス、ワインのコルクが半分に切られた状態で置かれていた。
「本当に団長の極秘命令は毎回面倒くさいわ。自分にアリバイを作りつつ……元火龍魔法兵団の兵団員が警備する中へ潜入し殺しと放火……かなりの難度だったわ」
皺くちゃの紙を手に取って、ランプの火に近づけ……皺くちゃの紙に火をつけた。燃えゆく紙を眺めながらラーセットは小さく笑う。
「フフ……何かあると思ったけど、ワインのコルクの中に命令書を隠すとは手が込んでいたわねぇ。まぁ、それだけの内容だったかしら……魔族が残した遺物が見つかった場合はすべて消せとか。けど団長の考えは分かるわ……アレ……屍石だったかしら? アレは人間が手に入れてはいけない力だわ」
紙が黒く炭になって消えてなくなるのを見届けると、脇に置いていたワインボトルを手に取る。
ワインボトルのコルク代わりになっていたストッパーを引き抜くと、グラスにワインを注ぎ入れていく。
「ただ、ホーテすらも知らない暗号を使うのは……貴族になったホーテへの考慮かしらね。人道的に見たらどうかと思うけど……悪を飲むことで利が生まれるのよねぇ」
ワインの注がれたグラスをクルクルと回し……鼻へと近づけてワインの香りを楽しむ。そして、一口含むように飲んだ。
「んっ……ホーテ自身は不死やゾンビの軍団にまったく興味はないでしょうが、国王となるアルフォンスや国の上層部がどう考えるかわからないもの。口説き落とされる可能性や私達の知りえないところで研究開発されてしまう可能性がまったくないとも限らない……って団長もさすがに、そこまで見越してのこととは思えないけど。ふぅ……それにしても、いい香りね。本当に上等なワインねぇ」
しばらく、ラーセットがワインを飲み進めていた。
ワインが減っていくにつれてワインボトルの底に何か光るモノが見え隠れした。
それを目にしたラーセットは笑みを深める。
「これは依頼金と言うことかしら? フフ、団長のこういうところは相変わらず律儀ね」
ワインボトルの中に何か入っていることを気にすることなく、空になったグラスにワインを注ぎ入れる。
すると、カランカランと甲高い音を響かせて……黄金に輝く小指ほどの金がいくつかグラスの中にワインと共に入っていった。
ラーセットはグッとワインを飲み干すと、グラスの中に残った……入っていた金を拾い上げる。そして、ランプの光に金をかざしてみる。
「あら、なかなか気前がいいじゃない。いや……今後とも頼むってことなのかしら? 面倒だけど……団長の命令なら仕方ないわねぇ」
金をサイドテーブルの上に置くと、ラーセットはソファの背に体を預ける。そして、ため息を吐く。
「ふぅ……けど、最近働き詰めで、疲れが溜まっているわ。いっそ、休暇代わりに私も今度団長のところへ帰るホランド達についていっちゃおうかしら? フフ、なんちゃってね……」
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