第214話 進化した存在。
場面が変わって、玉座の間である。
玉座の間にアルフォンスとホーテが乗り込んでから二十分が経っていたが、いまだに玉座の間ではホーテとルバーガの戦闘が続いていた。
「くそ! くそ! 進化した存在になった俺の剣が届かないんだ!」
顔を醜く歪めたルバーガが剣を真横に振り抜く。
ただ、もはやルバーガの剣の太刀筋を読んでいましたと言わんばかりの動きでホーテは躱してしまう。
「んー、それは普通に鍛錬と実戦経験不足かな」
「何だと!」
「怒んなよ。本当のこと言っただけだろ」
「ほん……くそがぁぁあ! 【サッカリアの突き】」
ルバーガの動きが加速して……瞬きほどの刹那の時間の間にホーテに向けて剣を突き出した。
ルバーガがホーテの顔面を剣で突き刺したかに見えた……がホーテの姿がフッと消えてしまった。
ホーテの姿が消えたことを目にして、ルバーガは目を見開き驚きの表情を浮かべる。
「な……俺の最速最強の剣が」
「……うむ」
自身の最速の剣を躱されて動揺していたルバーガの目の前に、ホーテが姿を現して腹部を切り裂いたのだった。
ルバーガが苦悶の表情を浮かべて腹部を押さえて膝をつく。
それでも、ルバーガはホーテに向かって剣を振るう。ただ……すでにその場にホーテの姿はなく空を切ってしまう。
「ぐがっ……そんな馬鹿な……どうやって」
「よっと」
ホーテはルバーガの背後にいつの間にか立っていて、雨晴の刀身についた血を飛ばすようにヒュンッと振った。
そして、どこかつまらなさそうな表情で鼻からふーっと息を吐く。
「それにしても、ルバーガ君……君、自分の体に何をしたんだい? 俺はもう君のことを六十回殺しているんだけどね」
「クク……ハハハッ」
ホーテの問いかけにルバーガは答えることなく笑い出した。
国王スルム、そして国王スルムの周囲に控えていた金色の鎧を纏った衛兵もクスクスっと笑い出したのだ。
ホーテは国王スルム、そして国王スルムの周囲に控えていた金色の鎧を纏った衛兵に怪訝な表情を浮かべて……視線を向ける。
「ん? 何がおかしいんだい?」
「クハハハ! だから、言っただろう? 俺は進化した存在になったと」
「あぁー言っていたなぁ。……どこら辺が進化したんだ?」
「進化した存在……俺は不死になったのだよ!」
ルバーガは立ち上がると、どこか自慢げに言い放った。
すると、アルフォンスを含めて入り口に待機していた者達が……騒然となり、動揺が走ったようだった
ただ、ルバーガに対していたホーテはテンション低めだった。
「……そうか。団長の手紙に書いていた屍石と言うやつかな?」
「なんだ、知っていたのか? クク、だから分かるだろ? ……俺はお前に負けることなんてない」
「はぁ、君は可哀そうな奴だな……死なないことが人間の進化と考えているなんて」
「何を言っている! ぐが!」
ルバーガは剣を構えようとしたが、その前にホーテが素早く動き、ルバーガの足をスパンッと切り裂いた。
足が切り裂かれてルバーガがその場に倒れる……。ただ、よく見ると白い蒸気を上げてルバーガの傷がみるみると修復されていく。
その様子を目にしていたホーテは憐れみを込めた目でルバーガへと向ける。
「……可哀そうな奴だ。君は持って生まれた才能に胡坐をかいて……鍛錬を疎かにしいた。なのに、弱い者苛めで高く伸びた鼻を折ってくれる強者に出会うことができなかった。常に自分の前に立ちはだかり、全力をぶつけられる強者が居なかった」
「何を言ってやがんだ! ぐあ!」
ホーテは立とうしたルバーガの左腕を切り裂いた。すると、腕が切り裂かれた激痛でルバーガは再び跪く。
「まぁ、今さら言ったところで仕方ないところか……残念だ」
ホーテはそう言うと、雨晴を鞘に仕舞いスタスタと自身の槍のところにまで行く。
そして、地面から引き抜くと、槍を流れるように構えた。
「なぜなら、今から俺が君を……いや、君達、全員を確実に殺すのだからね」
ホーテの言葉と同時に……ホーテが殺気を放って玉座の間を支配した。
ホーテの殺気は首元に鋭い剣が突き付けられているような錯覚にとらわれるほどだった。
アルフォンスとアルフォンスの部下達は頬を冷たい汗が流れた。そして、足がカタカタと震えだした。
火龍魔法兵団の猛者もビクンと体を震わせて動揺し……それでも平静を保つためか自然と自身の武器を握るほど。
猛者である彼らでも、そうなのだ……殺気を向けられているルバーガ、国王スルム、国王スルムの周囲に控えていた金色の鎧を纏った衛兵達は一様にヒィ……と小さく悲鳴を上げて油汗をダラダラと垂れ流す。
国王スルムにいたっては股間の辺りを黒く染めて……プルプルと震える足で立つことができず、玉座から転げ落ちていた。
ホーテはルバーガをまっすぐに見据えて口を開く。
「さて、餞別だ。少し本気を見せてやろう」
「……ふふ不死になった俺には無駄だ」
ルバーガはそう威勢よく言いつつも、後ろへ這うように少し下がった。
「やってみないとわからないだろ?」
「わ、分かるだろ、お前から受けた傷はすでに完治しているのをみろ」
「そうだな。しかし、傷の深さによって治るのが遅いようだ。体を細かく分けてしまえばどうなるのかな? これは団長の【神無】に近いかな? 俺は治癒魔法が使えないけど火属性の魔法は使えるので……つまり、火で傷口を焼いてしまったら、どうなるかな? いろいろ試してみようか……ちょっと痛いかも知れないが我慢してくれよ?」
「ま、待て……俺の体内にある屍石を下手に傷付けたら、大爆発を起こす」
「あぁ、それなら、団長の手紙にちゃんと書いてあったよ。その時は爆発前に屍石を粉々に粉砕してしまえば爆発は起こらないみたいだよ?」
「ひぃ……」
悲鳴を上げたルバーガは座り込んだまま、ジタバタと後ずさっていく。
「ほらほら、座ってないで立ち上がって剣を構えなよ」
「いやだぁああああ」
「はぁ、さっきまでの威勢はどこに行ったんだい?」
槍を構えるのをやめてホーテは呆れたようにルバーガを見据えた。
そして、ルバーガが後ずさったことで離れてしまった距離を縮めるようにスタスタと近づいていく。
「く、来るなぁぁ! こ、殺さないでくれれっれれれれぇぇぇ!」
「俺だって弱い者虐めはしたくないんだけど……屍石と言う危険なモノに手を出してしまったんだから仕方ないだろ? 諦めてほしいな。それで……ちなみに、聞きたいんだが……このままだと、君は終始恰好悪いまま死ぬことになる訳だけど、それでいいのかい?」
「……っ」
ホーテの言葉を聞いたルバーガは動きをピタリと止めた。そして、持っていた剣に視線を落とした。
「……足掻けよ。不死の力でもなんでも使って、俺に傷の一つでも負わせてみろ、そしたらあの世で自慢できるだろうよ」
「っ……言わせておけば……言わせておけばぁぁぁ! くそがが! 俺は必ず生き残る。こんなところで……死んでたまるか!」
「威勢よし……悔いなく死ぬんだな」
ルバーガは剣を強く握り、素早く立ち上がる。そして、ホーテへと威勢よく斬りかかっていった。
ただ、それからは槍を手にしたホーテによる一方的な展開だった。
ルバーガを含めて国王の衛兵達は完膚なきまで遣られ、最終的には屍石を粉々に破壊されて……彼等は死亡した。
そして、最後の国王スルムは……一人だけ、屍石の出所を拷問するためにも……両足を切り裂かれた状態で拘束された。
玉座の間の制圧が完了したところで、ユリーナが飛び込んできた。
そして、ホソード侯爵の屋敷で大量のゾンビが現れたと報告を受け、ホーテ達はホソード侯爵の屋敷へ増援に向かうことになった。
ホーテが増援に加わり、大量のゾンビも制圧することができた。
そして、その後の話である。
それは反乱の日の夜のことだった。国王スルムは首だけを残して殺され、ホソード侯爵の屋敷では放火が……屋敷は懸命な消火活動虚しく全焼して跡形もなくなてしまった。
その国王スルム暗殺とホソード侯爵の屋敷放火が誰の仕業だったか、元火龍魔法兵団員と国軍が共同で調査していたが結局分からず終いであった。
いくつ重たい課題を残したものの……王弟アルフォンスによってサンチェスト王国で巻き起こされた反乱は成就し……五日後には呆気なく感じるほどにすんなりとアルフォンスが王位を獲得し、玉座に腰掛けたのだった。
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