第216話 話は変わって。

 これはサンチェスト王国で王弟アルフォンスが反乱を起こしたのと同日。


 ここはクリスト王国の王都にある三葉亭。


 時刻は昼過ぎと言うことで客は疎らである。


 三葉亭にアレンとリナリー、スービアの三人が遅い昼食をとるために訪れていた。


 給仕の女性に注文を終えたところでアレンの隣に座っていたリナリーが大きく息を吐いて、テーブルに突っ伏した。


「今日は疲れたわ」


「……アレだけ討伐クエストを受けたら大変だろう」


 疲れた表情を浮かべていたリナリーに対して、アレンが答える。


 アレン達、銀翼は今日の午前中の時点ですでに四件の討伐クエストを完了していた。


 ちなみに今は討伐して得られた素材が大量にあって鑑定を待ちがてら食事にやってきたと言う訳だ。


「仕方ないでしょ? 昨日まで指定クエストの草むしりばかりだったのよ?」


「いや、何が仕方ないのか分からないが……正直、クエスト完了できるのか不安だったぞ」


 アレンが少し呆れた様子で苦言を口にすると、リナリーが表情を歪める。


「ぐ……」


 そんなアレンとリナリーのやり取りを見ていたアレンとリナリーとはテーブルを挟んで対面に座っていたスービアがご機嫌な様子で笑いだした。


「ガハハ……まぁ、いいじゃねーか。問題なかったわけだし。休業中に寂しくなった俺の懐も随分と潤って来たぜ?」


「スービアは本当に休業中、仕事していなかったのか?」


「あぁ、俺は遊ぶと決めたらとことん遊ぶ……これで当分は真面目に働けそうだぜ」


「そりゃ良かった」


「それよりよぉ。アレンお前……盾以外の武器は使わねーのか?」


「いや、ナイフを持っているが?」


「それじゃあ、心許ないか? お前ももう少し……いい武器使えよ」


「んー」


「剣とかはどうだ? 使えんだろ?」


「一応は……」


 アレンは渋い表情を浮かべる。


 んー剣は盾と違って……見る人が見れば簡単に力量の有無がバレちゃうんだよなぁ。


 俺が剣を持てば討伐クエストなんかはすぐにでも終わらせることが、最近大剣を振り始めたホップの仕事を奪うようなことはしたくない。


「なら、いい鍛冶屋紹介するぜ?」


「しかし、ホップがせっかく大剣を降り出したのに見せ場を奪うのは良くないだろう」


「いや……言っている意味がよくわからんが。ホップの大剣が使い物になるのに二、三年はかかるだろ……つまりはその見せ場とやらは当分訪れないぜ?」


「そうかも知れんが、剣はやめておく」


「そうか? もったいねーな」


 スービアはムッとした表情で、腕を組んで椅子の背に体を預けた。そして、木のジョッキを手に取って、注がれていたエールを飲んでいった。


「ねぇ、じゃあ……弓は? アレン、この後ペンネに弓を教えるんでしょ?」


「悪くないが、前衛で大きな盾を持ちながら、弓を引くのは……」


「そこを器用に」


「いや、器用とか言う話じゃなくてだな? 手が何本居るんだ? って話なんだが」


「両手で盾を持って……弓を引く……そ、そうね。四本いるわね」


「まぁ、前衛にこだわらずに弓を引くときは後衛まわってもいいが……スービアとホップが大変になっちゃう」


 アレンがリナリーに説明しながら、スービアへと視線を向ける。すると、スービアは渋い表情を浮かべて、首を横に振っていた。


「却下、却下」


「えースービアなら大丈夫じゃない?」


「いや、前衛からアレンが抜けると……俺一人だと大変すぎるぜ」


「ホップも居るわよ? 二人も居れば……」


「いや、ホップは前衛初心者だから……さすがに頭数には数えらんねーぜ」


 リナリーとスービアが話していると、給仕の人が頼んでいた料理を運んで来て、食事を始めた。


 食事を進めていると、周りで食事をしていた人達の会話がアレンの耳に入って来る。






「そういやーアレ、聞いたか?」


「ん? んあ? なんだ?」


「王国主導で若い奴を戦わせる大会が行われるって話だぜ。なんでも、優勝者には大金が与えられるんだと」


「へーいいなぁ。しかし、年寄の俺には関係ねーぜ」


「まぁ、確かにそうなんだが。そのトーナメントを大々的にやって……そこでは賭けも解禁してくれるって話なんだ」


「マジかよ! そりゃいいな」


「だろ? 誰が勝つと思う?」


「んーそうだな。出て来るかわからんが……冒険者だと、飛翼に女だがすげえつえーって噂の奴が居ただろ? 名前は……ロビンと言ったか?」


「あ、そいつなら聞いたことがある。A級の魔物のギガントロックジャイアントの首を切り落としたって?」


「ああ、そいつ、そいつ、それから……国軍にも強いのが居ただろう? 帝国の糞共が攻めてきた時に三十人切り倒したっていう奴が……えーっと名前は何だったかな?」


「あぁー聞いた。聞いた……何だったかなぁ? レ……レク……? レクサス? いや、違う」


「あ、思い出したレクセスだ」


「そうだ。そうだ。レクセスだ。レクセス」


「じゃ……今のところは本命がロビンで、次点がレクセスか?」


「まぁ、どんな奴が出場するのか、実際に見てみ見ないと分からないが」


「そうだなぁ。しかし、なんか楽しみになってきたぜ」


「あぁ、俺も金を貯めとかないと……」




 なんだか……完全に国を挙げたイベントのようになりそうな雰囲気?


 正直、ちょっと弟子の選定したいなぁって思っただけなんだがなぁ。


 レクサス……違ったレクセスとやらは知らないが飛翼のロビンなら、さすがに知っている。出るのだろうか?


 出場者の選定に俺は触れていないからわからないが……。

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