第203話 翌朝。
ラーセットの案内でホランド達がホーテの根城にしていた屋敷にたどり着いた翌朝。
ホーテが窓際に立って、屋敷の中庭で稽古しているホランド達を眺めていた。
「ふはぁ」
眠たげな眼のホーテは大きくあくびをした。
すると気配を絶っていたのか、陰からスッと姿を現したラーセットが問いかける。
「あら、眠たげね」
「ラーセット、俺に近づく時はもう少し気配出してくれないか?」
「ごめんなさい。これは癖なのよねぇ」
「はぁ、よく言うよ。眠たいのは確かだけどね」
「団長から受け取った手紙の内容が重たいモノだったのかしら?」
「そうだね。すごく重く面倒だったよ。お前には……そうだな。後で話すよ」
「えぇ、私に重く面倒な話はいらないんだけど……まぁ気になっていたし。仕方ない……今日の仕事の後にでも聞いてあげるわ」
「それは良かった」
「んーその話……嫌な予感がするわねぇ」
「そうそう。それで、その話の内容に一部関わるんだが……後輩達、なかなかだと思わないか?」
ホーテは顎先をクッと前に出して稽古しているホランド達を指して問いかけた。すると、ホランド達に視線を向けたラーセットが微笑して頷く。
「ええ、上等じゃないかしら?」
「だよね。全員実戦経験が少ないのは仕方ないとして……。さっきから見ていてホランドは魔法での戦いに不器用さを感じるが守備力。そして水属性の魔法、体内のマナ量はなかなか。それから、報告を読むと小隊・中隊くらいを指揮できるリーダーの資質があるかも知れない。ノックスはマナ量こそ少しホランドよりも劣るものの、矛先に風属性の魔法を纏わせる攻撃はなかなか。ただ、俺の若いころを見ているみたいでちょっと癪だが……。リンは可愛い。いや、マナ量は四人の中で一番少ないものの器用だな。複数の魔法を同時発動するため瞬間的攻撃力はいい。それは兵団員の中でもいいところまで行くだろう。ユリーナは可愛い。……接近戦こそ素人に毛が生えたくらいだが。マナ量が四人の中で一番多い。純粋な魔法使いとして見たら少し物足りない中の上のマナ量だが……多彩且つ効率的に魔法を使っているようだ。団長からよく仕込まれているのが分かる。まぁ、見えてないところがあるだろうが四人とも……火龍魔法兵団であったなら入団可能なレベルと言って良いだろう」
「……そうね」
「団長は教育者としても優秀だったんだな。はぁ、本当にこの王国は馬鹿なことをしてくれたよ」
「それは……もう終わってしまったことでしょ? それで何? 後輩達を随分と褒めるじゃない」
「団長の手紙によると。どうせ、手が足りないだろうと……あの四人から了承を得れば、しばらく貸してくれるそうだ」
「それは嬉しいわね。団長の予想通り……最近、手がまったく足りてなくて困っていたところだしね」
「そうだな。実際に欲しかったら口説き落としてみろとも手紙には書かれていたよ」
「へぇ……」
「抜け駆けしないようにな」
「えぇーそれは早い者勝ちじゃないかしら?」
「まぁ、そうだな。ただ、くれぐれも本人の意思を尊重するようにと団長からあったから。それだけは守ってくれよ。俺は団長を喧嘩するようなことはしたくないからね」
「団長と喧嘩することなんてないわ」
「……そうだけどね。団長と喧嘩したら、逆に大したものだよ」
「もし団長が本気で怒って喧嘩になったら……私と貴方が二人がかりでも簡単に飛んで消えてしまうでしょうから」
「そうかな? 少しくらい頑張れないかな? 弟子の彼等の話では魔法は初級までしか使えないみたいだし」
「それが無理なのは貴方が一番分かっているでしょう? 私達の得意な状況で挑めたとしても……団長が魔法使えなくても三十分ってところかしらね」
「いや、もって二十分だね」
「そう。ふふ、貴方の予想の方が悲観的じゃない」
「確かにそうだね」
「さてと……」
ラーセットは窓の手すりから手を離した。ホーテは窓に背を向けてラーセットに視線を向ける。
「行くのか?」
「ええ、ちょっと部下に任せていたから」
「よろしく頼むよ」
「わかった。けど……不可解よねぇ。ここ約一ヶ月、ホソード侯爵の姿が見ることもできていないのよ。そして、屋敷で働いていると思われる人の様子は外からうかがえるものの……あの屋敷から誰一人として人間が出てきていないの」
「あぁ、不可解だ。さらに言うと城落としの異名を持つお前に侵入困難と言わせた屋敷……それを侯爵のとはいえ一貴族がもっているのはおかしい……か」
「その異名あまり好きではないのだけど……屋敷全体には見たことのない魔導具やトラップが至るところに仕掛けられているのよ。私一人での侵入は危険だし。部下を連れて行くのはもっと危険。これ以上、私の手足となる部下は減らしたくないわ」
「それは、もちろんそうだよ。今の俺達では団長ほど優秀な者を育てるのも難しいからね」
「心配ねぇ……」
「あぁ、アルの計画通りにホソード侯爵の屋敷に制圧に向かった時に何が出て来るか」
ホーテとラーセットが話していると、一人のメイドが近づいてきた。そのメイドはホーテの前で軽くお辞儀すると口を開く。
「お館様。よろしいでしょうか?」
「ん? なんだい?」
「アルフォンス様よりの使者の方がお見えになられていますがどうなさいますか?」
「……? 今日は何も……そうか。ラーセット」
メイドの言葉を聞いたホーテは何か思い当ることがあったのかパチンと指を鳴らした。そして、視線をメイドからラーセットに向けて話を振った。
「ん? どうしたの?」
「もしかしたら、団長の弟子達の競争相手が増えることになるかも知れないな」
「それってもしかして……あの王弟様も?」
「じゃないか? この忙しい時期に朝一で使者がわざわざ来る理由がないだろう」
「むう。あの王弟様にはローリエが取られた前例があるから。今度は取られないようにしないとねぇ」
「ハハ……そうだね。ただ、あのアルが女に興味を持つなんて意外過ぎて耳を疑ったけど」
「そうだったの?」
「あぁ、俺と違って……今まで女の影すら見えなかったんだよ。まぁ、それは今の国王様への配慮だったのかも知れないが」
「そうなのね。くれぐれもとられないようにね。じゃ、私はお仕事に行ってくるわ」
「そうだな。俺は使者を待たせるのも可愛そうだし」
ラーセットとホーテは雑談をそこまでにして、それぞれ用事へと向かったのだった。
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