第175話 魔法の暴力。
アレンがカエサルとの会食を終え、リンベルクの街を後にして一時間ほどが経った頃。
ここはリンベルクの街からそう遠くない場所。
そこには広大な空地が広がっていた。
その空地ではアレンとホランド、リン、ユリーナ、ノックス、ライラ、変装したローラが忙しなく働き動き回っていた。
アレン、ホランド、ノックス、ローラは人十人分くらいありそうな超巨大なイノシシに皮をはいだ大木を突き刺して丸焼きにしたモノの他にも……大量の料理の準備。
そして、リンとユリーナ、ライラは切り出した木で、空地の中央に大きな組木など……いろいろ作っていた。
丁度、空地にベアトリスを含む、二十~三十の騎士、そして騎士達の後ろには五台の荷馬車が姿を現した。
それを見たアレンは一旦料理を他に任せてベアトリスへと近づいていく。
「おう、来たな」
「アレン様」
「ベアトリス、アレは持ってきたか?」
「はい。言われた通り持ってきましたが……こんなところで何を? そもそもここには森がなかったですか?」
ベアトリスの言う通り、一時間前まで森と沼地だった場所であった。
それをアレン達が【エアーカッター】で木々を切り倒し、沼地を【ファイヤーボール】の連発で乾かすと言う魔法の圧倒的な暴力によって一気に整地してしまっていたのだ。
「んーどうだったかな?」
アレンはとぼけたようにうそぶいた。
そのアレンをジト目でベアトリスが見る。
「そんな訳ないでしょう。この辺りの森は沼地のようになっていて……道を作れなかったことを覚えていますよ」
「まぁまぁーそんなことは些細なことだよ」
「……しかし、こんなところで何をしようって言うのですか?」
「んー戦争が終わり、せっかく生き残ったってのに……辛気臭いままだからな」
「はい? 何を言っているんですか?」
「良いから。良いから……そうだ。ベアトリス、模擬戦を受けるかわりに約束をしただろ? つべこべ言わずに今日は俺の言うことを聞け」
「はい……わかりました」
「じゃ、荷物は預かるから、今度はここにできるだけ多くの人を集めてくれ」
「え……人を? ここに?」
「だから」
「……はい。行ってきます」
ベアトリスを見送りながらアレンは小さく呟く。
「やっぱり戦争の後の宴は大勢でやらんといかんからな。まぁー……俺は気持ち悪くなっちゃうんだけど」
夕刻から少し時が過ぎて、空が暗くなり始めた頃。
ここはアレン達が忙しく準備をしていた空地。
その空地にはクリスト王国周辺の村や街から二千を超えるほどの人が集まっていた。
最初はベアトリスや騎士達に突然集められて、何のことか分からずにいた人々であった。しかし、しばらくして配られた酒と肉を食しながら各々楽しんでいるようだった。
人が人を呼んで、ぞくぞくと人が増えていっているように見える。
空が暗くなったところを見計らって中央に鎮座している巨大な組木へと火が灯されて、辺りを明るく照らし出す。
火が灯された組木から少し離れたところに、皆から見えるほどに高く広く作られた舞台があるのだが……そこにライラがほほ笑みを浮かべながら立つ。
ライラはフーッと長く息を吸うと、透き通るような美しい歌声で歌い始める。
「あの人の顔を思い出し……悲しみに苦しさに胸痛く。世界が真っ暗で……それでも……」
ライラが歌い出したのはこのクリスト王国に昔から伝わる死者に贈るための歌だった。
最初こそざわざわと騒がしくあったものの歌を聞き、皆が涙を浮かべ、むせび泣くものまで現れた。
ライラが歌い始めたところで、一台の馬車がこの空地にやってきた。
その馬車から出てきたカエサルとルンバが集まった人の多さに驚きの表情になる。
「これは……」
「凄いな」
ホランドに肩を借りたアレンがカエサルとルンバの元に近づき声をかけた。
「本当に来てくださったのですね……。うぷ」
「もちろんさ。しかし、アレン殿どうしたのだ? 顔色が悪いようだが?」
カエサルが心配そうな表情でアレンに問いかけた。確かにアレンの顔は真っ青で体調が優れていないと言った様子だった。
「少し気分が悪くて。まぁ、これは……いつものことなんで」
「そうか? ならいいのだが。それにしてもずいぶんと人を集めたな」
「ええ……予想以上ですね。まぁ立ち話もなんですので……とりあえず、あの舞台の裏……にある天幕に行きましょうか」
「うむ。わかった」
ホランドとその肩を借りたアレン、そして、カエサル、ルンバ、護衛数名が、人が少ないところ通って、ライラが歌っている舞台の裏に建てられた天幕へと向かっていった。
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