第165話 翌日。
ここはアレンがホランド達と暮らしている屋敷の隣に作られた農園。
アレンが魔族と戦った翌日の早朝のことである。
前日倒れるように眠りについたアレンであったが、早朝いつものように目を覚まして農園の草むしりをしていた。
ただ、疲労が残っているのか疲れた表情を見せるアレンが体を起こす。
「うい……全身が筋肉痛で痛ーて。昨日は少し無理をし過ぎたなぁ」
「五万の大軍にS級の魔物相当の化け物、魔族を一人で相手にして……次の日の朝に立って歩けている貴方はおかしいと思うわよ?」
軽装のライラがアレンの方へスタスタと近付いてきた。
アレンはライラの方へ視線を向けることなくムッとした表情で問いかける。
「……なんで、ライラさんがここにいる? ノヴァの奴は何をやっていたのか?」
「ふふ、ノヴァ君ならコニーちゃんと仲良くしていたわ」
「仲良く? そうか?」
「それにしても……まさか森の地下にこんな屋敷が隠れているなんて思いもしなかったわ」
「俺もたまたま見つけたんだ。静かに暮らしたい他言無用で頼む」
「わかってるわよ」
「それでライラさん」
「ライラさんなんて他人行儀な。ライラでいいわよ? お姉さんでも可」
「面白い冗談だ。ライラさんはさすがにお姉さんって枠を超えているだろう?」
アレンの問い掛けに、美しいライラの顔を歪ませる。
眉間に皺を寄せて、血管を浮き上がらせて怒りを露わにする。
「あん? 耳障りな言葉が聞こえた気がしたんだけど……ぶち殺されたい?」
「……いや、なんでもない」
「ふふ、そう? 私の聞き違いだったかしらね? それにしても……あの英雄様である貴方が草むしりとはねぇ」
「俺が草むしりしてちゃいけないのかよ? それから……英雄様ってなんのことだよ?」
アレンは農園の草むしりを再開しながら、問いかけた。
「そのままの意味よ。赤き龍の英雄様?」
「あぁ。その語り歌か……無くなってくれねぇかなぁ」
「それは難しいでしょうね。貴方はそれだけの事を世の中にしているのだから」
「はぁー俺はその語り歌あまり好きではないんだけど……それで? 俺に何か話したいことがあるんじゃないか?」
「そうね。エルフ族の大婆様による予言で貴方と出会うことは分かっていた。貴方も血を受け継ぐ一族の末裔よね? 私は真実の歴史を紡いでいく……『紡ぐ者(つむぐもの)』の一族よ」
「な……紡ぐ者だと?」
「そうよ」
「そうか……俺は……『断切者(たちきるもの)』の一族だ」
「大婆様の話では……断切者の一族は役目を終えたと?」
「あぁ、代々魔族の遺物を破壊して回っていた断切者の一族はちょうどムート婆ちゃん……俺の祖母の代で役目を終えていた。俺の代、そして父さんの代では情報を集めるだけでやることは無かった。ただ、俺に戦う才と魔法の才があるってんで……ムート婆ちゃんに厳しく鍛えられたがな」
「なるほど、貴方の強さはそこにあるのね」
「……俺のことなど、どうでもいい。それよりも、紡ぐ者なら昨日出てきた魔族はなんで封印が解かれちまったのか掴んでいるのか? 『守護者』はまたミスったのか?」
「どうかしら、もう繋がりがないから……どうしているのか分からないのよね。貴方は他の一族で知り合いはいるの?」
「今はないな。俺の師匠……カーベル・スターリング将軍も紡ぐ者だった。ただ、師匠は子供が出来ない体にされて種が途切れた」
「そう、あのカーベル・スターリングが……昔魔族を討伐したと言う英雄……そうだったのね」
「あぁ……いや、待て。今は昨日の魔族についてだろう。あの魔族はどうやら【魔獣薬】の製造法を知っていた。他に何を知っているか。【狂人毒】、【屍石】……厄介なものが他にもいくつかある。せっかく歴代の断切者達が何百年もかけて魔族が残した遺物を排除していったというのに……それが無駄になってしまう」
「はぁー頭が痛いわね」
「ほんとだ。それに……あの魔族は強い」
「そうね。貴方の剣でも全然傷つかないレベルだものねー」
ライラが茶化すようにそう言うと、アレンはムッとした表情になる。
「なんだと? 俺の剣はちゃんとあの魔族の腹部を切り裂いていた」
「そんな傷は見てとれなかったけど?」
「……あの魔族はすぐに傷が治る。しかも、俺の剣の腕をもってして致命傷を与えることができないほどに硬度だった。面倒なタイプだ」
「固く……再生……それは面倒だわね」
「実際に面と向かってみてわかった、あの魔族はやばい強さだ」
「……」
「それにアイツは言っていた不完全な状態だと言っていた。嘘じゃなかったら……魔物で言うN級(ナンバーズ)クラスに入る強さやも知れん」
「は? N級(ナンバーズ)ですって?!」
「今回は運が良かった。もし……次に戦うなら俺も相当の準備と覚悟をしないと」
「本格的に頭が痛くなって来たわ……そんなの厄災もいいところよ。あの魔族の名前は何だったかしら?」
「あぁーそうか、紡ぐ者なら知っているのか? 確か……モルス・ガル・ヒルリュークだったか」
「モルス……モルス……モルス・ガル・ヒルリュークですって! 魔族の中でも最上の力を持つ化け物の一体……そんな」
「やっぱりやばい奴だったか」
「ええ、あのプロリアの英雄が死闘の末にモルスを封印したものの……自身も深手をおったと」
「そうか」
「モルスの封印が解かれた……厄介ね」
アレンの表情が曇り、草むしりする手が一瞬止まって再び始めた。アレン同様にライラも表情を曇らせた。
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