第159話 絞り出す。
ブライアがそう叫ぶと乗っていた馬が戦慄き、ブライアは落馬してしまう。そして、蹲りプルプルと震え始めた。
その時、一陣の風が吹き荒れる。
「うっ! なんだ、今度は……!」
フェルナルドは咄嗟に風が巻き上げた砂埃から右手で顔を覆う……いや、覆うことはできなかった。
なぜなら、フェルナルドの右手は肩の辺りから切り裂かれて、一陣の風と共に吹き飛ばされていたからである。
風が収まり、右肩からの痛みで自身の腕が無くなっていることに気付いたフェルナルドは錯乱したように声を上げる。
「……いっ! ど、どういうこと、俺の手がぁぁぁぁぁぁぁあ!」
フェルナルドは動転して気付かないが、フェルナルドの乗っていた馬の頭部が切り落とされて痙攣してバタンと横に倒れた。
もちろん馬に乗っていたフェルナルドは転がり落ちるように落馬する。
更に、そうなったのはフェルナルドだけはなく、辺りに居たフェルナルドの部下達も同様に腕や脚を切り裂かれ、落馬して地べたに転がり落ちていた。
「いっあ。何が……どうなって」
「お前がこの隊のトップだな」
起き上がろうとしていたフェルナルドの首もとへ、剣先を突きつけていたのだった。
フェルナルドは剣先を突きつけている者の方へ恐る恐る視線を向ける。
フェルナルドの視線の先には剣を持ったアレンがそこで立っていた。
アレンは水にでも塗れたのか髪染め剤の色がすっかり落ちてしまって、アレンの髪が白銀色に輝く。
更に、目つきを鋭くして人を恐怖させるような圧倒的な威圧がその空間を支配していた。
それは正しく帝国に白鬼と恐れられる人物……その人であることがそこに居るすべての者達が理解したのだった。
理解して逃げ出す者、動けなくなって顔を恐怖に歪ませる者、気絶する者、失禁する者が現れた。
アレンに剣先を突きつけられているフェルナルドもアレンの威圧に恐怖し顔を歪めながら、ゴクリと喉を鳴らした。
そんな、フェルナンドにアレンは再び問いかける。
「だから、お前がこの隊の指揮官のトップか?」
「あ、ああ。そうだ」
「この軍全体を指揮する奴はどこに居る?」
「こ、答えられるわけがないだろ!」
フェルナンドは恐怖しながらも威勢よく声を上げた。少し黙ったアレンは剣先を少し首に突き刺して問いかける。
「……俺は別に構わないが俺の剣の犠牲者が増えるだけだぞ?」
「ぐ……それでも言えんものは言えん。俺を殺すならさっさと殺せ!」
アレンの問い掛けにフェルナンドは苦悶の表情を浮かべながら答え。そして、死を覚悟するように目をキュッと瞑った。
ただ、アレンはすぐにフェルナンドに詰問するのを諦めて、剣を引いた。そして、辺りを見回しながら呟く。
「では、仕方ないな。次はどこに切り込むか……」
アレンがその場から立ち去ろうとした時である。先ほどまで蹲っていたブライアが声を上げたのだ。
「ま、待ってくだされよ! 白鬼殿!」
「……確か……俺は帝国で白鬼と呼ばれていたか? 老兵、なんだ?」
アレンの視線がブライアに向く。アレンの視線を受けたブライアはブルリと体を震わせた。
「こ、この軍全体を指揮するガルゴ将軍ならば南側に!」
「そうか……ガルゴ? 聞いたことのない帝国将軍の名前だな。まぁ、それはいいか。あーもう一つ、この軍の目的は何だ?」
「それは第二皇子がこの国に逃亡していると言うことで……それを捕えるために」
「はた迷惑な」
アレンはそのように溢すと、地面を強く蹴ってその場から立ち去ったのだった。アレンが去った後でフェルナンドがブライアを問い詰める。
「ブライア! なぜだ! なぜ、ガルゴ将軍の居場所を話した!」
「白鬼を前にして、わかったでしょう! 白鬼がどの領域に居る人間なのか! 犠牲を減らす為です!」
「ぐ……」
「どうか……フェルナルド隊長、将軍が切られたら、本陣が落ちたら、兵士達は混乱しています……統率が完全にとれなくなる前に……撤退のご決断を! そして、他の隊へ撤退するように伝令を!」
ブライアの必死な進言を受けて、フェルナンドは苦悶の表情で声を絞り出す。
「ぐううううううううううう……わ……わかった。撤退だ」
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