第142話 リナリー王女様。



「お待ちしておりました……リナリー王女様」


 青色の鎧を纏った青年男性に対して、リナリーはニコリとほほ笑む。


「お出迎え、ありがとございます」


「……美しい。あ……いえ、申し訳ありません。私、リナリー王女様の案内を仰せつかっております。イグニス・ファン・ロドリゲスでございます」


「イグニス殿ですね。よろしくお願いします」


「はい、任せてください。まず迎賓館の方へご案内しましょう。それから……後続の兵士達には宿舎を用意があり、私の部下が案内させますので、ご安心を」


「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」


「では、行きましょう。ザームにシルス、リナリー王女様のお荷物を持ってさしあげろ」


「ふふ、イグニス殿それにはおよびませんわ」


 リナリーは控えめに笑うとデイムとマルテによって馬車から運び出されていたバッグの二つを手に取っていた。


 それを目にしたイグニスは少し動揺して様子で声を上げた。


「リ、リナリー王女様に荷物運びなど」


「お気遣いありがとうございます。ですが、我が家では自分でできることは自分ですると言うのが家訓としてありまして……このくらいはやらないとお父様に怒られてしまいますわ」


「そうでしたか……失礼いたしました。では、さっそく迎賓館の方へ案内します」


「よろしくお願いします」


 リナリーとデイム、マルテの三人はイグニスとイグニスの部下によって囲まれるようにして迎賓館へと歩き出した。


 イグニスが気にするようにちらちらとリナリーへと視線を向けて、口を開いた。


「やはり、私が荷物を持ちましょう」


「いえ、大丈夫です。私……こう見えて結構力持ちなんですよ?」


「……リナリー王女様は変わっておいでですね。あ、いえ申し訳ありません」


「そうかしら? 私の中では普通だと思うのですが」


「そう、なんですね」


 イグニス、そしてイグニスの部下達もどこか困惑したような表情を浮かべていた。


「それに最近体を鍛えているんです」


「リナリー王女様が体を鍛えているんですか?」


「はい。……クリスト王国の王族にはある期間身分を隠して一般人の生活を送ると言う家訓があるのですが。一般人の生活をおくる中で自分の体力の無さを痛感させられること多いのですよ」


「は?! いえ、失礼しました。リナリー王女様が一般人の生活を? そんな……」


「変わった家訓ですよね。私も最初は不安と戸惑うことがありました」


「それは、そうでしょう。住む世界が違うのですから」


「けれど、今では一般の生活を楽しく感じるようになっているんですよ。あ……だからですかね。イグニス殿に変わっていると思われてしまうのは」


「いえ……いいと思いますよ。リナリー王女様はそのままで……素晴らしいと思います」


「そうかしら? ふふ」


「ハハ……」


 リナリーが笑うのにつられて、イグニスも笑い出した。


 そこでリナリーが何か思い出したようにしながら、問いかける。


「あ……そういえばイグニス殿の家名……ロドリゲスとおっしゃられていましたが、守護神グラース将軍殿の?」


「あ、はい、グラース・ファン・ロドリゲスは我が祖父にあたります」


「そうですか、その武名は他の国ながらよく聞いておりますので……一度お会いしてみたかったのですよね」


「そうですか。祖父もリナリー王女様に会いたがっていましたので、おそらく……近いうちに会う機会があると思いますよ」


「それは嬉しいですね」


「あっと、こちらがしばらくリナリー王女様に宿泊していただく迎賓館となっています」


 イグニスが王城の隣にあった緑色の屋根が特徴的な建物だった。


 豪華な建物であるのはもちろん、重厚な作りで迎賓館自体もそうだが、それを囲む壁も分厚く高くなっていた。


「では、中の方をご案内いたします」


「よろしくお願いしますね」


 イグニスに先導されてリナリー達は迎賓館へと入っていく。


 その時、鎧を纏った男性が急ぎ近づいてくる。そして、その鎧を纏った男性がイグニスに耳打ちする。


「イグニス様……」


「……ザーム、リナリー王女様を部屋までご案内しろ」


「は。かしこまりました」


 イグニスは周りにいた部下ザームにリナリーの案内を一時任せると。


 イグニスと鎧を纏った男性は小声でこそこそといくつか言葉を交わしていた。


 その話を終えたイグニスはリナリーが寝泊まりする部屋を部下に案内されていたリナリー達のところへ戻る。


「リナリー王女様。少しよろしいでしょうか?」


「はい。何かありましたか?」


「長旅でお疲れのところ申し訳ないのですが……我が国の王がただいまポーラ王女様達数名と一緒に顔合わせがてら、ささやかな茶会をしているようなのですが。そこでリナリー王女様も一緒にどうかとおっしゃられているようなのです」


「わかりました。ただ、服装は……この服装では不遜にあたりますね」


「……これは急な話でありますし。そちらの服装でも国王様は気になされないかと」


 イグニスに大丈夫だと言われたが、リナリーは自身が来ていたドレスを見て少しの不安に持ったのかデイムをちらりと視線を送る。


 すると、デイムは何も言うことなく頷いてみせた。


「……わかりました。国王様をお待たせする訳にはいきませんね」


「ありがとうございます」


「マルテは荷解きをお願い。デイムは私について来てくれるかしら?」


「「かしこまりました。リナリー様」」


 リナリーはマルテとデイムに視線を向けて指示を出すと、二人は深く頭を下げて了承する。次いで、リナリーはイグニスへと視線を向ける。


「イグニス殿、国王様の元へ案内していただけますか?」


「はい。こちらです」





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