第141話 お待ちしておりました。
ここはクリスト王国から馬車で七日から八日ほどの距離にあるべラールド王国の首都ジルラスである。
首都ジルラスを囲う城壁の巨大な門を通る……四千人ほどの一団が居た。
その一団の先頭辺りに、兵士達によって厳重に囲まれた一台の馬車があった。
前後二つずつ……四つの座席がある馬車の中にはリナリーに加えてメイドと執事の三人が座っていた。
リナリーだが、冒険者をしている時のリナリーからは想像できない女性らしい黄色いドレスを身に纏っていた。
アレンと初めて出会った時は短くしていたクリーム色の髪だが、約一年で肩の辺りまでの伸び。
冒険者をやる時は後ろでまとめていたが、今はおろされていて、艶のある綺麗な髪が見て取れる。
中性的な顔立ちと言うこともあって美少年にも見えてしまっていた少女であったが、化粧を施され十五歳とは思えないほどに大人びて可憐な美女へと変貌を遂げていた。
美しく変貌しているリナリーであったのだが、今現在の彼女はあからさまに不機嫌そうに後ろの席で足を組んでいた。
そのリナリーの様子を気にしていたリナリーと対面となる前の席に座っていたメイド服の女性が声を掛ける。
「リナリー様、その不機嫌な表情をどうか引っ込めていただけたと思うのですが」
「……」
「リナリー様」
「はぁ、わかっているわ。……けど出ちゃうだもん。マルテ」
「……」
「ようやく、待ちに待った春になって……さあ、ようやく冒険者活動を再開って時に私はべラールド王国への友軍に魔法使いとして参戦することになるなんて」
「リナリー様が春を待ちどおしく思っているのは存じていましたが……これはクリスト王国に取って必要な重要案件です。リナリー様に仕えている私としてはそのような重要案件の代表の一人にリナリー様が選ばれたこと嬉しく思っているんですよ」
「マルテが、そう思ってくれるのは嬉しいけど……」
リナリーは唇を尖らせて、少し俯く。
メイドのマルテの隣に座っていたピシッとしたタキシードを着た白髪の老練な男性がリナリーの様子を見て、目を細めて笑みを浮かべた。
「ふぉふぉ、リナリー様は冒険者活動をするようになってから、表情がずいぶん豊かになられましたな」
「……そうかしら?」
「そうでございましょう。以前のリナリー様はポーラ様と比べられていた影響か、常に肩に力が入っていて居たように感じていました」
「デイム……そんな風に私を見えていたの?」
「私はリナリー様が小さきときから成長をずっと見てきましたからな」
「なんだか、私……デイムには敵わない気がするわ」
「何をおっしゃいますか。リナリー様は冒険者でいろいろな経験を経て、魔法使いの実力がポーラ様とも肩を並べる日が近いと耳にますよ?」
「……まだまだよ。魔法使いとしても、人としてもまだまだ未熟……私は冒険者パーティーのリーダーとしてメンバーをもっと守れるようになりたい」
「ふぉふぉ、素晴らしい志でございますな。今回、べラールド王国への友軍の魔法使いに選ばれたのも納得できます」
「ん? けど、今回の私は姉さんのおまけみたいなものよ?」
「それはどうでしょうか? リナリー様が本当に未熟者ならば選ばれなかったかと思いますよ?」
「え?」
「ポーラ様もそうですが、リナリー様もクリスト王国にとって中級以上の魔法を扱える魔法使いと言うだけでも宝には違いないのです。本来ならリナリー様を戦場に出したくなかったでしょう。それでも選ばれたのは今のリナリー様の力量ならばどんな状況だろうと生き残り帰れるだろうと判断された……と言うこと」
「……」
「リナリー様が冒険者を経験し素晴らしい成長なされたこと、みな喜んでいるのですよ」
「へ、へぇーそうなのね」
嬉しいのだろうリナリーは、はにかみながら馬車の窓から覗くジルラスの街へと視線を向けた。
「はい。それから……これはメイド達の噂なのですか……リナリー様には気になる殿方が出来たので?」
「ななな、なんのことかしら?」
顔を一気に真っ赤にしたリナリーは狼狽して、質問に質問で返した。
「ふぉ、一度……その殿方とお会いしたいものですなぁ」
「居ないわよ。そんなの! それは根も葉もない噂よ」
「そうでございましょうか?」
「そうよ。ほ、ほら、もうべラールド王国の王城ブリュンヘンに着くわよ。ちゃんとしないと」
「老い先短い私が生きている内にリナリー様のお子を拝見できると嬉しいのですなぁ」
「も、もう!」
「ふぉふぉ、王城ブリュンヘンに着いたようですなぁ」
デイムが言った通り、王城ブリュンヘン前に着いてリナリー達が乗っていた馬車が停まった。
すると、外で待機していた数人の兵士の中から綺麗な青色の鎧を纏った丹精な顔立ちの青年男性が馬車の扉を開けた。
リナリーはスイッチを切り替えるように表情を引き締めて、微笑を浮かべて馬車から降りた。
リナリーが馬車から顔を出すと、待機していた兵士達は少し頬を赤めて見惚れるようにリナリーに視線を向けていた。
「お手をどうぞ」
「ありがとう」
リナリーは青色の鎧を纏った青年男性の手を借りて、馬車から降りた。
すると、青色の鎧を纏った青年男性はリナリーを前にして、手を胸にあてて頭を下げ……口を開いた。
「お待ちしておりました……リナリー王女様」
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