第134話 失敗の先に。
「それで、どうするんだ? ベルディアに頼まれていただろ? ゴールドアックスで生き残ったメンバーを少し面倒見てくれないかって」
「うん……」
スービアに話を振られたリナリーは表情を曇らせた。
「先に俺の意見を言わせてもらうが、面倒を見る必要はないと思うぞ? 更に言うとギルドの言うことを聞く必要もない」
「わかっているんだけどさ、私達が遅かったから……」
「あの遺族の糞連中が言っていたことか? 連中の言うことは気にする必要はないぜ。ゴールドアックスが壊滅して大量に死者を出したのは俺達に責任はないんだしよ。まぁ、ゴールドアックスの生き残ったメンバーやゴールドアックスの遺族連中には救出に掛かった費用が罰金として科せられることになる。文句が言いたくなるんだろぜ」
スービアが口にした遺族の糞連中についてだが……。
回収していた遺品を遺族に渡していた際に、一部の遺族がリナリー達に突っかかってきたのだ。
なんでも、リナリー達が救出に向かうのが遅かったから……これだけ死ぬことになったのだと批判してきた。
ただ、その言い分は、あまりの理不尽だったのでスービアもギルドマスターもキレて……その場の収拾がつかなくなっていた。
その後味の悪い出来事以降、リナリーは思い詰めていることが増えていた。
「……そうよね」
リナリーが押し黙ったところで、ホップが口を開く。
「まぁ……元ゴールドアックスのメンバーの俺から言わせてもらうと、ゴールドアックスの連中には銀翼に対して強い対抗心があるから。いきなりパーティーメンバーに引き入れるのは賛成できないかな」
「対抗心も度を超えると厄介だからなぁ。ちなみに使えそうな奴はいるのか?」
スービアがホップに視線を向けて問いかけた。
「……そうだなぁ。冒険者ギルドにゴールドアックスの危機を知らせたペンネ辺りは使えるんじゃないかな? テイマーとして優秀だった」
「テイマーって、どんな獣を使役しているんだ?」
「フレミン・ジャイアントラビットだったかな?」
「……フレミン・ジャイアントラビットは人見知りがすごい獣だな。よく使役できたものだ。確か人ほど大きいウサギだったか……そのウサギは乗れるのか?」
「乗れる。ただ、一人乗りでペンネしか乗れない」
「偵察とかで役に立つってことか?」
「そうだな。フレミン・ジャイアントラビットは戦闘には向かないが索敵能力が高いし、移動速度が早いからな偵察には向いていたな」
「なんで、そんな奴が? もっと評価されていてもいいんじゃないのか?」
「まぁ……俺と同じで戦闘には全く役に立たない。ペンネ自体はクソ弱いんだ」
「なるほどな。んー偵察にもある程度の戦闘能力は欲しい……微妙に使えそうで、微妙に使えねーぜ。評価が難しい奴だ」
スービアは腕を組んで考える仕草を見せる。そして、眠たげな表情で黙っているアレンに視線を向けて再び口を開く。
「アレンはどう思う?」
スービアがアレンに問いかけると、リナリーもホップもアレンに視線が向かった。
アレンは首を傾げるとゆっくり口を開く。
「んー何よりも腹が減ったな」
「確かに腹が減ったぜ……って今は別の話をしていたんだぜ?」
「そうな、聞いていたけどな」
「それで、どう思うよ?」
「んー俺はどちらでもいいよ。どちらに転んでも問題ないだろうし」
「それはどういうことだ?」
スービアの問い掛けに、アレンは腕を組んでゆっくり説明を始める。
「んー断ったら、断ったらで問題ないだろうし。受け入れたら……ゴールドアックスのメンバーの生き残りはたった六人。そして、俺達がユーステルの森から救出した五人は道中でちょっとの物音に震えて何も話さなかっただろ? 魔物に襲われ、多くの仲間を目の前で殺されると言う冒険者の失敗体験を経て……まだ冒険者をやろうっていうなら、受け入れる価値が十分にあるだろう。もしかしたら、ホップよりも役に立つかもしれん」
「おっと、急に俺への暴言が飛んできた」とムッとした表情でホップが呟いたが、その呟きをスルーしてアレンは言葉を続ける。
「心の問題……あと問題があるとすれば、俺達へ強い対抗心があると言うことか? 仮にパーティーメンバーになるのなら、リーダーのリナリーの命令を聞いて貰わないといけないもんな。まぁーそれらの問題が克服できた奴ならば……ウチのパーティーでは何かと仕事があるだろう?」
「荷物持ちとか。夜の見張りとかか?」
「あぁ、最初は……それを文句なくこなすのならパーティーに入れる価値がある。もちろん、ホップと同様に多少の報酬の調節が必要だろうけど」
アレンの意見を聞いたスービアが腕を組んで少し考えを巡らせた後、ゆっくり口を開く。
「……確かにそうだな。しかし、どうやってソイツの資質を見極めるんだ?」
「それはゴールドアックスの奴らと一緒に討伐系のクエストを受けるしかないだろうな。もちろん、それは雪が解けた後になる……つまり、それまで保留じゃない?」
アレンの意見に、誰も異論はなく。
それからルシャナが運んできた料理にそれぞれが舌鼓をうっていると、シシカ牛のスープを飲んだアレンがボソッと呟く。
「ギルドには俺達のパーティーがよほど人員不足と思われているんだろな」
「それはそうだろ? 実際に四人しか居ねぇーからな」
「じゃあ、リナリーが新しいパーティーメンバーを一人でも見つけてくることができていたら……ギルドもこんな話を持って来なかっただろうなぁ。つまり、こんな話になったのはリナリーに友達が少ないからか」
「むう……アレン」
アレンの言葉が気に食わなかったのだろう、少しムッとした様子のリナリーがアレンを睨みつけた。
しばらく、アレン達は他愛のない雑談を交えながら食事を進めていると、別の客の声が聞こえてくる。
「うむ、シシカ牛のスープはなかなか美味だったのである。金はここに置いておくのである」
黒いタキシードを身に纏って……両手には綺麗な宝石が付いた指輪をいくつも付けた男性がアレンの座っている席の隣をスタスタと歩いて店の出入り口の扉へと向かって行く。
アレンはそのタキシードの男性が気になって目で追っていた。
タキシードの男性が店の扉に手をかけたところで、一回振り向き店内を見回すとニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「……っ」
アレンはそのタキシードの男性の不敵な笑みを見て何か感じ取ったのか、バッと席から立ち上がった。
ただ、タキシードの男性は何をする訳でもなく、すぐに店の外に出て行ってしまう。
突然、アレンが立ち上がったことに戸惑いの表情を浮かべたリナリー、ホップ、スービアがアレンに声を掛けようとした。
しかし、彼らがアレンに声を掛けるより前にタキシードの男性を追って店の外へと出た。
「どこに行きやがった」
アレンが店の外に出て辺りを見回すが、すでにタキシードの男性は見当たらなかった。
アレンはタキシードの男性を探すのを諦めて、店の中に戻ろうとした時だった。
「フヒフヒ……ようやく見つけたのである。第二皇子様ぁ」
人が行き交う雑踏の中で、微かにアレンの耳に声が聞こえてきたのだ。
その声をアレンが聞いた瞬間、目を見開いた。
そして、弾かれるように声が聞こえてきた方へ振り返る。
そのアレンの行動を周りに行き交う人々は変な子がいるなっと言う目で見るが、すぐに歩き出していた。
声が聞こえてきたと思われる方向へと視線を向けたまま固まってしまったアレンは自問自答するように考えを巡らせる。
気のせいか?
いや、確かに……禍々しい威圧感が混じっている言葉が聞こえてきた。
それだけでは、相手の力量を正確に図ることはできないが。
少なくとも……シルバクラスか?
まさか、さっきの黒いタキシードの男が?
あんな禍々しい……気配を隠してやがったのか? 全然気づかなかった。
そんなの野放しにされて……もし暴れたりしたら、どれだけの犠牲者が出るのか……わかったもんじゃないぞ。
血相を変えたアレンは一旦、店に戻って食事を手早く詰め込んで荷物を取る。
そして、リナリー達に何だったのか問いかけられるも答えることなく、リナリー達と別れた。
その日、日が暮れるまでリンベルクの街をタキシードの男性を探して走り回ったが……アレンは見つけることができなかった。
更に言うならば……リンベルクの街で何か起こることもなかったのである。
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