第133話 冬の日。

 アレンが国外追放されて十カ月が経っていた。


 本格的に冬が始まってから、冒険者活動も七日に一回と減っていたが……今日はアレン、リナリー、ホップ、スービアの四人全員が集まっていた。


 その日、アレン達は冒険者ギルドで受けた雪下ろしのクエストを四件ほどこなしていた。


 四件ほどこなしていたと言っても、リナリーが新しく作った雪下ろし魔法が優秀なので、どれも一時間ちょっとで完了し、昼が過ぎの午後の十四時にはすべてのクエストを完了させてギルドに報告するとギルド職員には驚かれた。


 クエストもすべて完了させたアレン達は四人揃って遅い昼食を取ろうと言うことになって、三葉亭へ向かって歩いていた。


「ふぅ……」


 行き交う人が増えだしたリンベルクの街の通りを歩いていたアレンは、表情を曇らせた。


 はぁ、人が多い。


 人ごみ嫌い。


 あぁ、なんだか酔いそうだ。


 俺はやはり都会暮らしとか無理だな。


 たぶん、家から一歩も出なくなるだろう。


 アレンが考え事をしていると、ホップが後ろから話しかけた。


「アレン?」


「ん? 何だ?」


「どこに行くんだ? 三葉亭はここだぞ?」


「あぁ、そうだったな。ボーっとしていたわ」


 三葉亭の中に入ると、暖炉によって温められた空気が、雪下ろしによって冷やされて体には嬉しかった。


 特にリナリーは寒がりのようで店内に入ると、いち早く暖炉の前に行って体を温めていった。


 スービアが店内を見回すと、空いているテーブルを親指で指してみせる。


「あそこのテーブルにするか」


「そうだな」


 暖炉の前から動かないリナリーを一旦置いておいて残りの三人は空いていたテーブルに向かう。


 空いていたテーブルにたどり着くアレン達はダウンを脱いで椅子の背に掛かると椅子に座った。


 アレンの隣に座ったスービアが肩を抱いて声を掛けてくる。


「今日は雪降ってねーのにさみーな。アレン」


「うん、山から吹き降りる風が冷たいな」


「だよな、寒いよなぁ」


「寒いのもそうだが……腹が減った。今日は何かあるかな?」


 アレンは店の中央に掛かっていたメニュー表に視線を向ける。


 メニュー表を見ているとアレンがある項目を見つけて口を開く。


「お、今日はシシカ牛のスープがあるのか」


「良いな。アレは美味い」


 アレンの呟き、正面に座っていたホップが頷く。


「温まりそうだ。俺はシシカ牛のスープとパン、サラダにしようか」


「俺もシシカ牛のスープとパンにしようか」


 アレンとホップがそんな会話をしていると、暖炉の前から離れたリナリーがやってきくる。そして、ホップの隣の席に座った。


 リナリーの様子を見てアレンが問いかける。


「温まった?」


「うぅ……まだ寒いわねぇ」


「リナリーは寒がりだね」


「そうね……ってむう」


 リナリーはアレンとスービアが肩を組んでいるのを目にして、顔を顰めた。


「アレンとスービア、ちょっとくっ付き過ぎよ! 少し離れなさい!」


「いやー寒くてな」


 声を荒げたリナリーに対して、スービアが悪気もなく答えた。


「寒くても、駄目よ」


「そうなのか? アレンは温かいんだぜ?」


「アレンが温かくても……駄目と言ったら駄目よ。これはリーダー命令よ」


「仕方ねーな。ケチなリーダーだぜ」


 やれやれと言った様子でスービアはアレンから離れた。ちょうど、その時ルシャナが近づいてきて声を掛けてくる。


「そろそろ、何を注文するか決まったかしら?」


「俺はシシカ牛のスープとパン、サラダ」


「俺はシシカ牛のスープとパン」


「えっと……私はシシカ牛のスープとパン、サラダにしようかしら」


「俺は……ローシ豚のソテーとパンかな」


 ルシャナの問い掛けに、アレン、ホップ、リナリー、スービアの順で注文していった。アレン達の注文を聞くとルシャナはまた別の客に呼ばれて行ってしまう。


「美味しいのである。美味しいのであるな。シシカ牛のスープおかわりなのであるな」


「はいはい」


 ルシャナが別のところに忙しそうにパタパタと歩いていってしまったのを見送ると、スービアが口を開く。


「それで、どうするんだ? ベルディアに頼まれていただろ? ゴールドアックスで生き残ったメンバーを少し面倒見てくれないかって」

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