第83話 考え不足。

 ここは冒険者ギルド前。


 今はかなり早朝と言うこともあってほとんど人を見かけない。


 そんな中でアレンとホップは並んで、リナリーとスービアを待っている。


 少し表情を強張らせたホップが口を開いた。


「なんか緊張してきた」


「そういえば、ゴールドアックスではC級の魔物討伐はやってなかったのか?」


「あぁ、受付のねーちゃんに反対されたみたいで、受けることはできていなかった」


「そうか」


「しかし、お前達がC級の魔物の討伐をやったと知れたら、強引に討伐クエストを受けるかも。ゴールドアックスの銀翼に対する対抗心はかなり高いから」


「そうか、無理をしないといいが」


「……そうだな」


「それにしても眠いなぁ。ふぁー」


「ねぇ」


 アレンが大きく欠伸したところで、いつの間にか近づいていたリナリーがアレンに話しかける。


「リナリーおはよう。昨日はよく眠れたか?」


「ちゃんと寝れたわ。それより、アレンの隣に居るヤツは誰なの?」


 リナリーはアレンの隣に居たホップに一瞬視線を向けて、アレンに怪訝な表情で視線を向ける。


「ん? 彼はホップ。ソロの冒険者だ」


「そう、なんでそのホップを連れてきたの?」


「今回俺が雇った」


「なんで? リーダーの私に相談もなく」


「相談がなかった理由は昨日ホップと出会ったから、相談できなかった。ちなみに雇うと言ったが、そのお金は俺のクエスト達成時に発生する報酬から払うから」


「? どういうこと? アレンが報酬を払うの?」


 リナリーは訳が分からないと言った表情で、首を傾げた。


「うむ、ホップを雇うのには理由がいくつかある。まずはホップの作る料理が美味いこと」


「そんな理由?」


「そんな理由かよ」


 アレンの言葉を聞いていたリナリーとホップはコケる仕草を見せた。そして、リナリー、ホップともにアレンに詰め寄る。


「え? いや、リナリーは料理作れるの?」


「う……」


 アレンが首を傾げてリナリーに問いかける。すると、リナリーは虚を突かれたような表情になって、言葉を詰まらせた。


「できるの? 俺は料理趣味くらいだし」


「……出来ないわよ」


「そうか。それから、もう一つ理由がある」


「何よ。まだあるの?」


「野宿をする時に見張りの負担が減って楽になる」


「そんな……理由なの?」


 リナリーは少し呆れたような表情を浮かべた。ただ、その時、リナリーの背後から声がかかった。


「なーんだ、気づいてやがったのか?」


 スービアが姿を現してリナリーの肩に手を置いた。


 すると、スービアの声を聞いたリナリーが体をビクっと震わせて、即座にスービアから離れてアレンの後ろに隠れる。


 リナリーはいまだに昨日のことを引きずって警戒しているようだった。


「……」


「なんだ、つれねーな。ただのあいさつじゃねーか。リナリー」


「おはようございます」


「他人行儀だぜ。クエストを一緒にやるんだ。そのために親交を深めねーと、いけないんだぜ?」


「わかったわ……それで何に気付いたの?」


「軽く流されたちまったぜ。本当につれないなー」


「何に気付いたの?」


「クク、本当は実際体験して分からせたかったんだがなぁ。仕方ねぇ、説明してやるか……魔物の領域で野宿するならば最低でも一人は見張りが必要になってくる。お前らは二人組だろ? 睡眠時間が六時間だとすると、交代制で三時間だ。しかも、魔物がいつ来るか分からない。もちろん魔物が来たら起きなくちゃいけない……そんな状況で疲れはとれるか?」


「……」


 スービアが言ったことを聞いて、リナリーは表情を曇らせて黙った。


「まぁ、それでお前らが疲れ切ってやられそうなところを、俺がカッコよく助けたりしてリナリーを落とそうと思っていたのに」


「……はぁ、なるほどね。アレン、今回のホップの報酬は私が出すわ」


 小さくため息を吐いたリナリーは、アレンの袖をクイクイと引っ張る。


「え、良いのか?」


「いいわ。私の考え不足だったみたいだし」


「えっと、単純に俺が楽をしたかったんだけど」


「まぁ、なんでもいいわ……それで」


 リナリーは、スービアのキャラに驚き黙って成り行きを見守っていたホップに視線を向ける。


 突然、リナリーに視線を向けられたホップは怯む。


「な、なんだよ」


「ホップ、さっきはごめんなさい。よろしく頼むわ」


「あ、あぁ。わかった」


 素直に非礼を詫びたリナリーに、調子が狂ったのかホップは歯切れ悪い返事を返すのだった。


「さて、行こうか? ここで時間を食うのは勿体ないしさ」


 アレンがそう言うと、アレン達一行は街を出てユーステルの森へと向かうのだった。

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