第84話 リトルポイズンスライム。

 アレン達がリンベルクの街を出てから一時間ほどが経っている。


 今はユーステルの森をアレン、リナリー、ホップ、スービアの順で隊列を組んで歩いていた。


「はぁ、はぁ」


「大丈夫か?」


 アレンは歩きつつも振り返って、肩で息を吐いていたリナリーに問いかける。


 すると、額から流れる汗を手で拭いリナリーが頷いた。


「だ、大丈夫よ」


「リナリーはもう少し体力を付けた方が良いと思うぞ?」


「わかっているわ……これでも毎朝走っているのよ」


「ハハ、そうか。それは日課にした方が良いかもな……あ」


 何かに気付いたのか、アレンは手を横にかざした。すると、隊列の動きが止まった。


「? ど、どうしたの?」


「どうしたんだ?」


 リナリーとホップが声を狭めながら、アレンに問いかける。


「……あの草むらの向こうに一瞬何か見えた気がする。だから、慎重にね」


 リナリーとホップの問いかけに、アレンも声を狭めながら答える。


 アレンの言葉通り、慎重に草むらに近づいて、その向こうを覗くと緑色のスライムがいた。


 その緑色のスライムはフヨフヨと動きながら、白い花を取り込んで……食事中(?)であった。


 緑色のスライムを見たリナリーは声を狭めながら、口を開いた。


「なんだ、スライムね。あんなの私の魔法で……」


「まて、あのスライムは……」


 魔法を準備しようとしたリナリーに、スービアが静止するように言った。


「どうしたの?」


「アレはリトルポイズンスライムだ。ギリギリD級の魔物だが、あのスライムの飛ばす毒を受けるとやけどしたようになるから注意しろよ?」


「……わかったわ。アレン、念のために私の前で盾を構えて」


 スービアの助言を聞いて、リナリーはアレンへと視線を向ける。


 アレンは小さく頷いて、背負っていた荷物を置くと盾を構えながらリナリーの前に立った。


「【ファイヤーボール】」


 アレンが目の前に立ったところで、リナリーは右手を掲げて火属性の魔法である【ファイヤーボール】を唱えた。


 すると、リナリーの頭上にピンポン玉サイズの火の玉が六つほど出現して、円を描きながら緩やかに回っている。


 次いでリナリーが掲げていた右手を前に下し、前に突き出す。


 その動きとともに六つの火の玉が高速で打ち出されて、リトルポイズンスライムに降り注ぐ。


「ほぉ、思っていたよりなかなか器用じゃねーか」


 リトルポイズンスライムが討伐されたところを見て、スービアが感心したように声を上げた。


「それは……どうも」


「事前に位置を確認していたとはいえ、草むらとアレンが陰になって……リトルポイズンスライムを視認できない状態で魔法を使ってほぼ正確に攻撃するなんてなかなかできることではないんじゃねーか?」


「ハハ……」


 リナリーは照れたように笑みを浮かべる。


「もしかしたら、ポーラをも超えているかも知れねーぜ? アイツが今のリナリーの歳の頃に、ここまで器用に魔法を使えていなかったはずだぜ」


 リナリーを称賛しながらスービアは自然にリナリーの肩を抱いた。


「あっ」


「ふふ、素晴らしい。どうだ? 俺の物にならないか?」


 スービアとリナリーは見つめ合う。


「「……」」


 少しの間が開いてリナリーがビクッと体を震わせると、スービアから離れてアレンの後ろに隠れる。


「はぁ、つれねーなぁ」


 離れたリナリーを見送りながら、スービアは渋い表情を浮かべた。


「ハハ……先に進もうか?」


 苦笑したアレンはそう言った。


 そのアレンの陰から、ひょこっと顔を出したリナリーがスービアとホップに視線を向けて口を開く。


「そうね。リトルポイズンスライムの魔石を回収して、先に行くわよ」


「もう少し仲良くなってもいいと思うけど……」


「そ、そうだぜ? アレン、良いこと言ったぜ! 臨時とはいえ、やっぱりパーティーメンバー同士仲良くならないとなぁ」


 アレンの提案を聞くと、スービアはアレンの肩を掴んで揺らした。


 対して、リナリーもアレンの腕を揺らして、口を開く。


「アレン、この人の仲良くなるって言うのは意味合いが違うの! なんか嫌な感じがするの!」


 それから、しばらくリナリーとスービアがアレンを間に挟んで、言い争っていた。

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