第82話 仲間。

「お、三、四十分で作ったとは思えないほどの料理だな」


 アレンの前にあるローテーブルの上には大量の料理が並んでいる。その料理はすべてホップが作ったモノであった。


 アレンとホップが寮のB‐1部屋に戻ってくると、アレンは部屋に待たされて、ホップは寮のキッチンに入って料理をしていたのだ。


「ハハ、料理は得意でね。ゴールドアックスに居た時も、料理は俺が任されていたしな」


「そうなんだ。ホップは冒険者よりも料理人の方が向いているかもな」


 アレンは何気なく言ったつもりの言葉だったのだろうが、その言葉を聞いたホップは表情を曇らせた。


「……そりゃ、俺だって成れるんだった料理人になりたかったぜ。ただ、料理人になるにはコネがいるんだよ」


「うむ。そうか……まぁ、料理が冷めるから食べるか?」


「そうだな、あぁ、まともな食事は久しぶりだぜ」


 アレンとホップはローテーブルを挟んで食事を始めた。


 アレンは目の前にあった野菜炒めを口へと運んで、食べる。ただ、一口食べたところで、フォークの動きをぴたりととまった。


「ほぉ、これ……上手いな」


「へへ、そうだろ?」


「味付けはなんだ? ハーブ? 特別な調味料が入っている?」


「ふふ、それは秘密だぜ」


「秘密か。まぁ、そうだな」


 ホップの答えを聞いてアレンは納得したように頷く。そして、近くにあったスープを手に取って一口飲む。


「これは魚を干した物を煮だして……スープを加えたとか? いや、それだけじゃないか」


「お、少し食べただけで、気づくのか? お前も料理できるのか?」


「俺は趣味でやっている程度だよ」


「そうか。それにしても驚いた。家族以外で気付かれるのは初めてだと思う。この肉のたれもうまくできたんだぜ?」


 アレンとホップはテーブルに並ぶ食事をつつきながら、談笑を続けた。


「ふう……食った。食った」


「そういえば、ホップはさっきゴールドアックスのパーティーをやめたと言ったが、これからどうしていくんだ?」


「まぁ、俺はB級の冒険者ではあるけど、まだ弱いから……しばらくソロで活動して力を付けていくしかない。それで力が付いたら新しくパーティーを作って高難度のクエストを達成して大金を得て……それで自分の店を持つんだ」


「なかなかいい夢じゃないか」


「笑われてしまいそうな、夢だけど」


「そうか。とりあえず、ホップは当面の間は力を付けるのと金を得る必要があるんだな?」


「あぁ、それがどうしたんだ?」


「いや、明日、銀翼はC級の魔物を討伐に行くことになっている」


「な、C級の魔物だって? おいおい、それを冒険者ギルドは許可したのか?」


「あぁ、許可が出たから行くんだよね」


「……銀翼は確かお前ともう一人の二人組だったよな? しかも、最近C級の冒険者になったばかりだろ? それは無謀……いや、確かリーダーが魔法使えるんだっけか? いや、それでもいきなり無謀だろう」


「いや、指南役にA級の冒険者が一人付くからすごく危険な場面は起きないだろうけど」


「な、A級の冒険者が指南役……。なんだよ。ゴールドアックスでお前達を僻んでいた連中が言っていた通り、銀翼は特別扱いされているのか?」


 腕を組んだホップは、納得いかないと言った不満気な表情を浮かべた。対して、アレンは苦笑する。


「ハハ……他の連中にしたら、俺……銀翼は特別待遇をされているように見えるのかな? アレだけ、指名クエストが来ていれば思うのかな? 実はいい仕事を斡旋してもらって、良い上客を得ているとか?」


「あぁ、そういう話をよく聞く。俺は金のない奴らの僻みだと思っていたが……」


「銀翼に特別待遇なんかないよ。指名クエストについて、最初普通にクエスト掲示板に張られていた草刈りのクエストを受けて、仕事っぷりが評価された。そして、その時のことがたまたま噂になって指名クエストが来るようになったんだし。今回のC級の魔物の討伐クエストは、そのクエストの話をしていた時にたまたま話を聞いていたA級の冒険者が同行してくれると言ってくれた……総じて言うなら冒険者ギルドに優遇されていた訳ではなく、単純に運が良かっただけ」


「冒険者は運も実力のうちか……」


「そうだ。ただ、それに対して嫉妬するのは仕方ないだろな。おっと、少し話が逸れたな。本題はこれからなんだ」


「これから本題? なんだよ?」


「あぁ、これは提案なんだけど、俺に雇われて……そのC級の魔物討伐に参加しないかな?」


「は?」


 アレンの提案に、ホップは目を見開いて驚き、声を上げた。


「本当はパーティーメンバーへ勧誘したいところだが、リーダーであるリナリーには相談してないから……俺が雇うって形がいいと思ったんだ」


「何を勝手に」


「悪い話ではないだろう? 先ずは力に付いてだが……C級の魔物討伐を見ることができる、一時的とはいえA級の冒険者と一緒に冒険ができる、割と安全に二つの経験が積むことができる。冒険者に置いてさまざまな経験を積むことは力量に繋がると思う」


「……」


「次、報酬に付いて確か……C級の魔物ロックヘッドボアの討伐クエストの報酬は銀板二枚……ギルドに手数料の二割を払うと銀板一枚と銀貨六枚である。その報酬は指南役のことを考えずに俺とリナリーで分けていいという話だったから、俺に回ってくる報酬は銀貨八枚になる……では俺からホップに渡す依頼料は……相場が分からないからとりあえず半分の銀貨四枚ってところにしようか」


「銀貨……四枚? 一回のクエストで?」


「あと、これは俺の独断で誘っている。無いと思うが、もしリナリーの説得に失敗してクエストに付いていけなかった場合でも銀貨二枚は保証しておこうか?」


「……言っておくが、俺は弱いぞ? 今のところ戦闘面ではほとんど役に立たないと言ってもいい」


「戦闘面は一旦置いとくとして……森を荷物背負って一、二時間歩けないほどか?」


「いや、さすがに森を荷物背負って歩けないほどではないが……ゴールドアックスで魔物の領域に入った際も大量の荷物を持たされて歩いていたし」


「じゃ、いいんじゃないかな? 戦闘面はリナリーの魔法は強力だし、俺の盾で守ることもできる……たぶん今のところは必要ない」


「……わかった。その提案を受けさせてくれ」


「よろしく頼むな。さて明日は早いからもう寝る準備をするぞ」


 アレンとホップは、それから明日のことを少し話すと早めに眠りにつくのだった。

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