第78話 偏好。
「くく、そんなこと気にするんじゃねぇよ。俺ら、女同士じゃねぇか」
ニヤリと笑みを浮かべたスービアは更にリナリーに密着していく。
「……そうかしら? それで、スービアは飛翼だったの?」
「あぁ、そうだぜ? 俺の親が病気になった時に一回田舎の村に戻ってな。その時に脱退してそのままさ」
「そうなんだ……」
「そういえば、草刈りのパーティー名は銀翼と言ったか? もしかして、知り合いか?」
「……飛翼にお姉ちゃんが居るのよ」
「姉ちゃん? 髪色的にポーラか?」
「そうよ」
「ふーん、雰囲気がだいぶ違うけど、目元とかよく似ているな」
スービアは自然にリナリーの頬に触れた。
突然のことにリナリーはビクッと体を震わせる。
そして、リナリーがスービアを手で押し返そうとした。
ただ、その押し返そうしたリナリーの手はスービアに掴まれて、恋人握りのように指を絡ませた。
「きゃ」
「フフ、ポーラも可愛かったが、俺としてはポーラよりもリナリーの方が好みかもしれないなぁ」
「あ、アレン助けて」
リナリーは正面に座っていたアレンへと助けを求める。
ただ、アレンにとってはリナリーとスービアは少し距離が近いと言うだけで、仲良くしゃべっているようにしか見えていなかった。
さらに、先程からずっと別の事も考え黙っていたのもあって、アレンは虚を突かれたような表情になる。
「へ? どうした?」
「スービアが離してくれないの! ちょっと服の中に……ひゃあ」
「誤解しないでくれ、これは少しスキンシップを取っているだけだろ?」
「きゃ、ちょっといい加減に」
スービアはそう言ってリナリーの服の間から指先を滑り込ませる。
アレンがスービアとリナリーの様子を見て、当惑する。
ただ、丁度その時だった。
「お待ちどうさま、ローシ豚のソテーよ」
ルシャナが料理を持ってくる。そして、スービアとリナリーの間を離すようにして、料理をテーブルの上に置いた。
「げ、ルシャナ、今日は休みじゃなかったのかよ」
「さっき仕事に入ったのよ。って、それよりもスービア、相変わらずね」
スービアがルシャナに気付くと、驚きの声を上げる。
対して、ルシャナは少し呆れた風にスービアを見た。
「相変わらずってどういうことだよ。俺は真の愛を探しているだけだぜ」
「真の愛って。はぁ……女好きも大概にしなさいよね」
「ふ、俺は女好きなんじゃねぇんだぜ。いいと思える相手が女にしかいねぇーの」
「あのね。アンタの偏好を否定する気はないけど。その子、どう見ても嫌がっているじゃない? ここは食事を楽しむところであって、ナンパするところじゃないのよ?」
「あーはいはい」
ルシャナに言われてスービアはパッとリナリーの手を離す。すると、即座にリナリーが席を立って、アレンの隣に移動して座った。
「……」
「あーあ、折角いい感じだったのに……すべてルシャナが悪い」
離れてしまったリナリーを見てスービアは落胆した表情を浮かべて、ルシャナに視線を向ける。
「何が悪いの?」
「お前が俺の物になってくれねぇーから悪い」
「私にはその気はないから。遠慮しておくわ」
「ちぇ」
「はぁ、ごめんなさいね。うるさくしてしまって……アレン君、いらっしゃい」
申し訳なさそうにルシャナはアレンと前に料理を置いた。
「ん? うん、ルシャナ姉さんとスービアは仲がいいの?」
「ううん、この人がここに来るたびにナンパしてくるから……」
「そうなんだ。ルシャナ姉さんは綺麗だもんね」
「もう、アレン君までそんなこと言って……スービアの影響? いっぱい食べていってね」
ルシャナはアレンにニコリと笑って、アレンの頭を撫でた。そのやり取りを見ていたスービアは驚きの表情で身を乗り出して声を上げる。
「ナナナ、何で……俺にはそんな笑顔を向けてくれたことないのに!」
「スービアはうるさいわ。さっさと食べて帰ってちょうだい」
ルシャナはスービアを一睨みして、厨房の中へ戻ってしまった。
アレンはルシャナの見送った後で、隣に座ったリナリーへと視線を向ける。
「……あの、えっと、それでリナリー? 俺の足を踏んでいるんだが?」
アレンの言葉に対して、不機嫌そうにしたリナリーはそっぽを向いてしまう。
「ふん、さっきの女……ルシャナだっけ? ずいぶんと綺麗な人じゃない」
「そ、そうだね」
「仲がいいみたいだけど、どう言う関係なの?」
「え?」
「だから、どういう関係? 私は銀翼のリーダーとしてパーティーメンバーのことを知っておく必要があるわ!」
「いや、ええっ……と普通に客と店員」
リナリーの問いかけにアレンが答える。
ただ、そのアレンに答えを聞いていたスービアが、テーブルをドンと叩いた。そして、目の前にあったローシ豚のソテーにフォークを突き刺した。
「そんな訳ないだろ、ルシャナからあんな笑顔を向けられて! 俺は認めないからな! あむ!」
「そうなの? アレン? 本当はどういう関係なの? ちゃんと話して」
「いや、話すも何も……」
それから、アレンはリナリーからルシャナとの関係を疑われて詰め寄られる。そして、誤解が解けたところには、ローシ豚のソテーは完全に冷めていた。
その日は、食後に野宿用の装備を買い揃えて解散となったのだった。
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