第79話 宿泊。
リナリーとスービアと別れてから、アレンは一人、冒険者ギルドに戻っていた。
そして、今日二度目となるのだが、受付カウンターの前にやってくる。
アレンに気付いたベルディアが声を掛ける。
「アレ? アレン君? またどうしたの? 何かあった?」
「いや、明日……ロックヘッドボアの討伐に行くことになって、装備を揃えていたんだけど。かなり遅くなっちゃってさ、帰るのも大変だから泊まろうと思ったんだけど、たまに使っている宿屋は人がいっぱいで……できたら泊まれるところを紹介してくれないかな?」
「なるほど、そういうことね……」
ベルディアは口元に手を当てて考える仕草を見せて、首を傾げる。そして、再び口を開いた。
「冒険者ギルドで紹介できる宿屋も今日はかなり埋まっているかも知れないわね。なんたって『聖英祭』が近いからどこも混んでいるわね」
「……そうなんだ」
アレンは俯き、考える仕草をみせる。
聖英祭ってなんぞ?
確かに庭先に花を飾る家、そして、道を歩く人が前に来た時よりも多くて、少し気持ち悪くなっていたな。
それはその祭りの所為だったのか?
いや、そんなことより……どうしよう、その祭りのことを知らないと変に思われるほどなんだろうか?
今度、リナリーにそれとなく聞いてみるか?
アレンが黙って考え事をしていたのを見たベルディアは何か勘違いしたのか心配そうな表情をして、声を掛けてきた。
「だ、大丈夫よ。そうよ。冒険者ギルドが管理している寮に今日だけ泊まったらどうかしら? ちょっとぼろいけど安く泊まれるわよ?」
「ごめん、黙っちゃって。そういえば寮があるんだね」
「うん。新人の子は結構寮で暮らしているのよ?」
「へぇーそうなんだ。じゃ、お願いできるかな?」
「わかったわ」
ベルディアはカウンターの隣にある棚の中から板状の黒板を取り出す。
その黒板には、簡易の間取りが書かれていて寮の宿泊状況が分かるようになっていて、先ほどベルディアが言った通り、寮はかなり埋まっているようだった。
「へぇ、それで結構部屋数があるんだね」
「そうね。古くて無駄に大きいのよ。そういえば、アレン君はだいぶ言葉がしゃべれるようになっているわね。文字も結構読めるようになった?」
「……うん、会話は慣れたかな? 文字の方は図書館で本を読んだりして勉強するんだけど……すごく難しいね」
「ふふ、偉いわ。ちゃんと勉強しているのね」
笑みを浮かべたベルディアはアレンの頭を撫でる。すると、アレンがはにかんだ笑みを浮かべる。
「へへ」
「はう……尊い」
アレンのはにかんだ笑みを見るとベルディアは、身をフルフルと震わせた。
アレンの子供のフリをする技術に磨きが掛かっていて、外見と伴って本当の子供にしか見えなくなっている……。
「ん? どうしたの?」
「い、いえ、なんでもないわ。それで今日アレン君が泊まる部屋だけど、相部屋になってしまうけど良いかしら?」
「あぁ、大丈夫だよ」
「じゃ、知ってると思うけど、この冒険者ギルドの隣の建物が寮になっているわ。今日アレン君が泊まるのはB‐1号室よ。二段の上のベッドが空いているわよ。それから、布団は管理室に新しいのがあるから、もらってね。えーっと、この鍵を見せると貸してくれると思うわ」
ベルディアはB‐1と書かれた札が付いた鍵を取り出して、カウンターの上に置いた。
「わかった」
「えーっと、あとトイレとシャワー室は共同になっているの、詳しくは管理室に居る管理人に聞いてね」
「うん、ありがとう。それで、一泊いくらなの?」
「銅貨五枚よ」
「え? 銅貨五枚? すごく安いね」
「そうね。まぁ……それでも滞納しちゃう子が毎年いるけどね」
アレンが寮一泊の値段を聞いて驚きの声を上げる。対してベルディアは苦笑して返した。
「装備とかにお金を使っちゃうのかな?」
「まぁ冒険者として……装備は必要なんだけど、生活できなくなるは駄目よ? アレン君も気を付けてね」
「そうだね。俺もだいぶ高い盾を買っちゃったから人のことは言えないけど……」
「ふふ、まぁアレン君は十分に稼げているからいいと思うわ」
「ありがとう。じゃ、これ銅貨五枚ね」
アレンは懐から銅貨五枚を取り出して、ベルディアに手渡した。
「はい。確かに、受け取りました」
それから、アレンは受付カウンターから離れると、冒険者ギルドの隣にある寮へと向かうのだった。
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