第56話 農園予定地の真ん中で。
サク……。
サク……。
サク……。
サク……。
アレン達が青い屋根の屋敷に住み始めて一カ月。
ここは青い屋根の屋敷の周囲にある空地である。
アレン達はその空地の一画で野菜を作るべく農園を作るつもりのようだ。
そして、今、農園予定地ではアレンとホランドが並んで、鍬を下してサク……という音を鳴らしながら土を耕していた。
ちなみに、ノックス、リン、ユリーナは今アレンとホランド耕している農園に水を引けるように水路を掘っている。
「なかなかいい鍬が出来たな」
アレンは持っていた鍬を振り下しながら、鍬の出来を褒める。
今使っている鍬はホランドがここ数日試行錯誤の末に作った物であった。
鍬の出来をアレンに褒められたというに、ホランドは表情を曇らせる。
「そうですかね? ごつくて不恰好……重いし……父に見られたら、げんこつが落ちてきそうなできなんですが」
「ハハ。設備がないんだ。仕方ないだろ」
「まぁそうなんですが……。それにしてもここに農園ですか」
「あぁ、お前らにはバランスの取れた食事が必要だからな」
「野菜はそれほど好きではないんですが」
「好き嫌いは駄目だ。強くなるためだからな」
「はい」
サク……。
サク……。
サク……。
サク……。
「う……」
しばらく土を耕してしていると、ホランドが苦悶の表情を浮かべる。
「どうした? 大丈夫か?」
「いえ、全身が重たいですね」
「ふ、今日の修行には熱が入っていたからな。特に魔法」
「リンは一足先に魔法を使えるようにってしまいましたから、リーダーとして負けるわけには」
「そうだな。負けてはいられないな。しかし、魔法は……」
アレンが言おうとしたことを、ホランドは遮るように答える。
「わかっています。魔法は道具に過ぎない。自分がどのように強くなったらより魔法が使いこなせるか? それを考え続けることが重要なんですよね?」
「あぁ、そうだ」
「まぁ……その魔法自体がまだ上手く使えていないですが」
「ハハ、その内できるさ」
「だと良いんですが……」
サク……。
サク……。
サク……。
サク……。
「……そういえば、ホランド達は強くなったらどうするんだ?」
アレンは不意に口を開きホランドへ問いかける。
「え?」
「いや、お前らはあと一、二年鍛えたら俺の弟子として一線級の実力者に成れるだろ」
「……」
「お前は俺に多くの人を助けられるように強くしてほしいと言ったな。しかし、ここに居ても助けられる人はないだろ?」
「はい……それはそうですね」
「もちろん、俺はお前らを追い出したいと全く思っていないがな。ただ、ここで居るよりも……どこか、そうだな……例えば……サンチェスト王国に戻って冒険者として多くの国民を助けるってのもありだ。お前らは俺と違って国外追放された訳じゃないし。何とかなるだろう。それとも、アレだ。お前は火龍魔法兵団に入りたいと言っていたな? 一、二年後、おそらく入団可能なレベルにまでなっているだろう。だったら俺が火龍魔法兵団の副長ホーテに宛てて紹介状を書いてやってもいい。あとは……クリスト王国か? しかし、他国で人助けはなかなか難しいところがあるなぁ」
「俺は……」
ホランドは鍬を振り下すのを止めた。
「ゆっくり……他の三人とも相談してよく考えるといい。一、二年とことん鍛える必要あるかな」
「よ、よろしくお願いします」
「あぁ、俺に恩返しできるほどに強くなってみせろ。おら、止まってないで土を耕すぞ」
「はい!」
ホランドとアレンは再び鍬を振り下して、黙々と土を耕し始めるのだった。
サク……。
サク……。
サク……。
サク……。
サク……。
サク……。
サク……。
サク……。
サク……。
サク……。
サク……。
サク……。
「それで……これっていつ耕し終えるんですかね?」
今度はホランドが不意に口を開き、アレンへと問いかけた。
「……いつか終わるだろ」
アレンとホランドの前にはかなり広くとられた農園予定地が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます