第57話 俺の魔法。
アレンが青い屋根の屋敷に住み始めて一カ月と少しが経った。
ここは青い屋根の屋敷に回りの空地で、修練場として使っていた場所。
「ふぅ……」
ホランドは目を瞑り、集中しながら深く呼吸した。
そして、地面に書かれた円に斜線が二本書かれた魔法陣の上に両手をかざす。
「……【ウォーターボール】」
しばらくの沈黙の後にホランドは水属性の魔法である【ウォーターボール】と唱えた。
ホランドは恐る恐ると言った感じで目を開いた。
すると、ホランドの目の前には拳サイズの水球がフヨフヨと浮かんでいた。
その水球を目にした瞬間、ホランドは目を見開いて驚く。
ただ、驚きによる集中力の乱れが発生したのか、水球の形が崩れかけてしまう。
水球の形が崩れないように再度集中をしつつマナを追加で込める。すると魔法陣が光り出して水球は綺麗な球状に戻った。
「あ、アレンさん! アレンさん! 見てください!」
リンに魔法のアドバイスをしていたアレンだったが、ホランドの声を聞くと顔を上げた。
「んお? あ……できたな!」
「は、はい!」
「今、魔法を使っている感覚を忘れるなよ」
「はい。これが……俺の魔法……」
「ホランドは水属性の魔法に適性があるのかも知れんな。いや、それはおいおい調べればいい話か……何にせよ。おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「おめでとう! 良かったわね!」
「おめでとうッスよ」
「新たな魔法使いの誕生。ふすん!」
ホランドの周りにリン、ノックス、ユリーナも集まって祝いの言葉をかける。
「ありがとう。ようやく俺も」
感動し涙ぐんだホランドが言葉を返した。ただ、そこで完全に集中力が切れたのか、水球は形を崩して地面に書かれた魔法陣を濡らした。
「しかし、魔法を使えるようになるの、ホランドが最後になるとは思わなかった。俺はノックスが最後だと思っていたが、予想は外れたな」
「そうだったんッスか!」
アレンの言葉を聞いて、ノックスが驚いた様子で声を上げた。
「うん。そうなんだ。ごめんな」
「謝らなくてもいいッスけど! 俺もちゃんと魔法を使えるようになったッスから!」
「ハハ、冗談。冗談。誰が最後だなんて考えてないよ」
「まぁ……たぶん焦っていたんだと思います」
照れくさそうにするホランドが口を開いた。
「そうだろうな。魔法を使うには集中力が重要となるのは魔法を実際に使ってみて分かっただろ? つまり、焦りとか怒りとか……集中力を乱すような要因を極力排除する必要があるんだ」
「はい。実際に使ってみてわかりました。はぁ嬉しい……魔法が使えた。もっと魔法が使えるようになりたい」
「えっと、何回も言うが焦りは禁物だ。魔法の才能は先に魔法が使えたから高いという訳では決してない。ゆっくり試行錯誤を繰り返していくんだな」
「あ……そうですね。ふぅ……」
ホランドは集中力を高めるためか、再び目を瞑りながら深く呼吸した。
その様子を見てノックス達も自分が魔法の訓練をしていた場所に戻って、再び魔法の訓練を始めるのだった。
しばらく、アレンは何も口を挟まずに、ただホランド達の魔法の訓練を眺めていた。
アレンが何か思い出したように、口を開いた。
「そうだ。今日は全員が魔法を使えるようになった記念日だ。パーッと宴やるか? 今から飯の準備を始めるが何か食べたい物はあるか?」
「「「「ステーキ」」」」
ホランド達が一斉に同じことを口にしたことに、アレンは苦笑する。
「おいおい、もっと他にないのか?」
「ステーキがいいです」
「そうね。ステーキよね」
「ステーキ! ふすん!」
「ステーキが食べたいッス」
ホランド、リン、ユリーナ、ノックスの四人はついさっきまで、やる気に満ち溢れて取り組んでいた魔法の訓練を即座にやめて、アレンへと迫るのだった。
「あぁ、分かった。分かった。野菜炒めとかも作るから、それもちゃんと食べるんだからな!」
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