第44話 お姉さん。

「……」


「どうしたの? 黙っちゃって」


 カウンターにたったベルディアが首を傾げてアレンへと問いかけた。


「あ……ううん、なんでもないよ。ただ、一つ聞いてもいい?」


「ん? なあに?」


「いや、さっきまで……冒険者ギルド会館のロビー近くに居た、金色の凄いカッコいい格好をした二人組の女の人がいたんだけど。あの人達ってやっぱり強い冒険者さんなのかな?」


「あぁ、そうね。『飛翼』の二人ね。あの子達はA級の冒険者パーティーよ。すごく強いんだから」


「へぇ、やっぱり……すごくカッコ良かったから」


「ふふ、そうね。アレン君もいつか……ってさすがにまだ早いわね。あ、これギルドカード」


 ベルディアは銀のプレート……ギルドカードをアレンに手渡した。


「ありがとう」


「初回は無料だけど。次回以降の再発行は銀貨一枚もらうことになるから気を付けてね」


「あ……あの聞いてもいい? 銀貨って銅板よりもいいお金? 銅の奴しか見たことがなくて」


「……そうか」


 ベルディアはカウンターの上に金色、銀色、銅色の丸と長方形の硬貨を七枚並べていった。


 アレンの暮らしていたサンチェスト王国の硬貨とは異なった形に、異なった絵が刻まれていた。


「……」


 ベルディアはまず銅の硬貨から順番に硬貨を指さしていく。


「これがよく一般的に使われている銅の硬貨よ。小銅貨、銅貨、銅板の三種類があって、小銅貨一枚で一エンス、銅貨一枚で十エンス、銅板一枚で百エンス。続いて銅貨よりも価値の高い硬貨である銀の硬貨よ。銀貨、銀板の二種類があって、銀貨一枚で千エンス、銀板一枚で一万エンス。銀貨よりも価値の高い硬貨である金の硬貨よ。金貨、金板の二種類があって、金貨一枚で十万エンス、金板一枚で百万エンス。ちなみにエンスってのが通貨単位よ。んーごめんなさい。端的な説明になってしまったわね。もっとうまく説明できればいいのだけど難しいわ」


「ううん、ありがとう。わかりやすかったよ」


「そう? それじゃ……そのギルドカードを無くさないようにね?」


「うん」


「じゃ……これもね。ガーホ鳥の四羽の買い取り代金銅板八十枚よ」


 ベルディアは机の上に銅板を並べだした。


「おぉ……こんなに?」


「ふふ、ごめんなさいね。ギルドに手数料を二割払う必要があるの。だからガーホ鳥の四羽の買い取り代金銅板六十四枚よ」


「そっか、そうだよね」


「けどね。貴方は冒険者になるのだから、今度からは交渉とかもしなくちゃ駄目だからね?」


 ベルディアはニコリと笑って、六枚の銅板を追加して出した。


「ん? これは?」


「ゲルドのバカに言ったら、ガーホ鳥の状態がすごく良かったようで快く出してくれたわ」


「……そ、そう、ありがとう。お姉さん」


「くっぅうう。いいのよ? 私はお姉さんだから!」


 妙齢の女性のベルディアに取って『お姉さん』は効果ばつぐんのようだ。


「ふふ、変なお姉さん」


「あぁ、いいわぁ。あ……それで、本格的に冒険者を始めるのなら、毎月の初めに講習会があるの。今日からだと最短で十五日後になるわね」


「ん? その講習会は受けないといけない?」


「素材をただ売りにくるだけなら。問題ないんだけどね。その講習会を受けるだけでD級の冒険者として認められて、D級のクエストを受けることができるわ」


「そうなんだ……」


「D級のクエストはそんなに難しいものはないわ。簡単なお遣いが中心で街からそう離れないでもできるクエストが多いわ。講習会自体はタダだし、予約だけ入れておく?」


「そうだね。うん、予約入れておいて」


「わかったわ。じゃ私からは以上よ。ギルドのことに関してのいろいろは……講習会でやるからその時に聞いてね」


「ありがとう、お姉さん。じゃあ行くよ」


 こうして、アレンは身分証に加えて、資金を手に入れて冒険者ギルド会館を後にするのだった。


 これはかなり余談、ベルディアはその日、年端もいかない少年に『お姉さん』と呼ばれる性癖に目覚めてしまったのだった。


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