第43話 噂話。
妙齢の女性が買い取りする場所だと言ったカウンターにアレンがやってくると、筋肉質の男性が一人立っていた。
「すみません」
「ん? なんだ? 坊主?」
「買い取りはここでいい?」
「ああ、そうだぜ。買い取りか?」
「うん、これを……」
アレンは縛って吊るしていた四羽のガーホ鳥をカウンターの上に乗せた。すると、筋肉質の男性は目を見開いて驚きの声を漏らした。
「おぉ、ガーホ鳥じゃねーか。しかも、状態がよさそうだ。これは坊主が捕まえたのか?」
「うん、罠を仕掛けて、捕まえたよ」
「そうか、腕がいいんだな。わかった鑑定を始めるから……ギルドカードを出しな」
「えっと、そのギルドカードっていうのはお姉さんに作ってもらっているんだ」
「そうか。ん? お姉さん? そんなのどこにいるんだ? 今、受付カウンターにはベルディアのおばさんしかいないだろ? 今日は可愛いフレデリカちゃんは休みのはずだ」
「え、えーっと、後ろ」
アレンは困惑した表情になって、筋肉質の男性の後ろに視線を動かした。
アレンの視線の先には先ほどカウンターに居た妙齢の女性が筋肉質の男性の後ろに立っている。
妙齢の女性は笑顔だったが目が笑っておらず、威圧感が醸し出されていた。
「何か言いましたか? ゲルドさん?」
妙齢の女性……ベルディアの声を聞くと、筋肉質の男性……ゲルドは体をビクンと体を震わせた。
そして、表情を強張らせながら、ゲルドは振り返りベルディアに視線を向けた。
「ハハ、なんでもないですよ。この坊主が綺麗なお姉さんだと言っていたから、冒険者ギルドでも一番の美人だからなって、自慢していたところだっただぜ」
「そうかしら? そう聞こえなかったけど」
ベルディアは鋭い目つきで、ゲルドへと視線を送った。その視線を受けたゲルドは引き攣った笑顔を浮かべた。
「ハハ……あ、いけねぇ。俺はこの坊主の売りにきたガーホ鳥の鑑定を急いでやらなくちゃ」
「貴方とは後で話し合いが必要みたいね。これ、この子、アレンの冒険者ギルドのカードよ」
「あ、あぁ、坊主、ちょっとロビーの椅子に座って待ってくれよな」
カウンターに置いてあったガーホ鳥を手に取ったゲルドはアレンへと視線を向けて言った。
「うん、わかった」
ここは冒険者ギルド会館のロビー。
アレンがロビーの椅子に座って、小さく息を吐いた。
「ふう……」
子供のフリをするのも楽ではないな。肩が凝る。
ん……街への潜入もうまく行ったし、簡単に身分証を手に入れることができたんだ。
そう考えると子供のフリというヤツはやっぱり有効なんだよな。
さて、これからどうしようか?
ここまでうまく行くとは思っていなかったんだよな。
成果としては十分なのだが……。
図書館にでも行ってくるかな?
時間はまだ昼過ぎあたりか。
買い取り金額も多くなりそうだし、ゴードの言っていた美味い飯を出す食堂にでも行ってみるかな?
ただ俺だけ行くのはあいつ等に悪いから、土産でも買うかなぁ。
と、そういえば、ホランド達がサンチェスト王国とは公用語が異なるこのクリスト王国に来るにはパルストール語を覚えてもらわなくちゃだから……なんか教材になりそうな本とかも買わなくちゃだよな。
やっぱり本は高いよな?
どうしようか……俺が書くか?
いや、俺はパルストール語をしゃべれるが、読み書きはあまり……辞書でもあれば別だが……。
それと、ホランド達が入国できるようにどうにか考えないとなぁ。
この国は亡命者に対して、どういう対応するんだろうか?
何か審査するのかな?
さすがに俺が誰かに質問すると変に思われそうだ。
んーしばらく様子を見ないとなぁ。
アレンがボーっとしながら考えごとをしていると、数名の冒険者らしき人々がアレンから少し離れた椅子に腰かけて座り、話し出した。
アレンは一旦考えることをやめて、情報収集がてら少し冒険者達の会話に耳を澄ませるのだった。
「今日もルシャナちゃん、綺麗だったなぁ」
「ち、今日はフレデリカちゃん休みかよ」
「おい、さっき、フレデリカちゃんが優男とデートしてるのを見ちまった」
「な、なんだと!」
ふ、男が集まってする会話のほとんどは女との色恋沙汰なのも変わらんな。
「最近、ユーステルの森の様子がおかしいよな」
「あぁ……急に魔物が減った。冒険者ギルドに持ち込まれる魔物の素材があからさまに減っているからわかりやすいな」
「商人や職人達も困っているという話だぜ。だから、魔物の素材を調達するクエストが増えているな。ただ……」
「クエスト受けても……いない魔物の素材はとれんよな」
「森の中で何か起こっているんだろか?」
魔物の素材が品薄?
ホランド達とユーステルの森に籠っている時に大量に討伐した魔物の素材を今売りに出したら高く売れるだろうか?
「最近バルベス帝国の動向がおかしいって噂、ホントかな?」
「そうなのか? 十五年前みたいにまたベラールド王国に軍を進めるとか?」
「その時はクリスト王国の兵士に加えて、冒険者を傭兵として集めてベラールド王国へ援軍を送っていたんだよな?」
「あぁ。ベラールド王国とクリスト王国との間には友好的な国家間の条約が結ばれているようで援軍をださんといかんかったらしい」
「そうなんだな。しかし、傭兵はかなり儲かるって話だが、大量の軍勢で攻めてくるバルベス帝国と戦いたくないな。俺は……」
「それより、クリスト王国だよ。もしこの国がバルベス帝国に攻められたらおしまいだろう?」
「いや、クリスト王国は大丈夫だろう。地形に守られているし、それこそベラールド王国の援軍だってくる。ベラールド王国の『守護神グラース・ファン・ロドリゲス』が率いる銀虎軍がバルベス帝国を追い返してくれるさ」
「いや、待て。他国をそんなにあてにしていいのだろうか?」
どこの国も大変だな。
帝国の侵攻の物量は凄いからな。十分に備えるべきだろな。
それにしても守護神グラース・ファン・ロドリゲス?
聞いたことがない名前だな。
まぁ……ベラールド王国の軍とは戦ったことがなかったしな……ん?
アレンは聞き耳を立てるのをやめて、立ち上がる。
ちょうど、その時ベルディアがアレンを手招きしていたのをアレンはカウンターへと向かうのだった。
そのアレンの姿をとある冒険者が目で追っていた。
「……」
「どうしたの? ロビン?」
「いや、あの少年……」
「ん? ロビンたら子供趣味だったけ?」
「ち、違うわよ」
「じゃ……何よ?」
「あの少年から何か……途轍もないものを一瞬感じた」
「そうなの? んー私には小さい子供にしか見えないけど……ロビンの勘は当たるからなぁ」
「……本当に一瞬だったから、確信とかはまったくないんだけど」
「ロビンが計りきれないってこと? それはすごい珍しい。少なくとも、魔法使いではないよ? あ、でも下級の魔法くらいならって感じ」
「そう……」
「そんなに気になるんだ? じゃ……今、その子供と話しているベルディアさんにクエスト終わった後にでも話を聞いてみる?」
「そうだな」
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