第36話 本。
ここは地下通路の先で見つけた青い屋根の屋敷。
その屋敷の敷地にあった調理場。
今は屋敷の探索を一通り終えたところで、アレンとノックスが夕食の準備をしていた。
ちなみに、ホランドとノヴァは布団を干しに。そして、ユリーナとリンは部屋の掃除に回っていた。
「それにしてもすごい屋敷ッスね。ツマミを捻ったら火が出て、鍋を温める魔導具なんて初めて見たッスよ」
「こんな魔導具、金持ちしか持てん。……聖堂にあった巨大な魔晶石からこの魔導具にマナを供給しているようだから。定期的に聖堂の魔晶石にマナを入れてかないともちろん使えなくなる訳だが」
「そうなんッスね。あ……俺、肉炒めるッスよ」
「あぁ頼んだ。しかし、ここまで屋敷の中が豪華だと。本当にこの屋敷は何のために作られたのか。そして、何で誰も住んでいないのか……分からないな」
「……それは……あ、もしかして、呪われてるんッスかね? お化けでも出るんッスかね?」
「んー俺に霊感はないから分からんが……」
「俺もッス。よくよく考えてみると……ただ夜になるとこの屋敷広すぎて怖そうッス」
「一応、一人は見張りを立てる予定だし大丈夫だろ」
「そ、そうッスよね。夜はここも真っ暗になるんッスかね?」
「おそらく、時間が夜になって行くにつれて暗くなっているからな。照明に使われている魔導具は優秀だな」
「……ッスよね」
「何、でかい図体してビビッてるんだよ。そもそも、ここで泊まると言い出したのお前だろうに」
「それは、そうッスけど」
「ハハ、少なくともノヴァが血の匂いを嗅ぎ取ってないから、ここで惨劇的な何かがあったということはないから……悪霊的なのは居ないと思うが」
「……そうッスか。安心ッスね」
ノックスの少し狼狽えている様子に、アレンは苦笑しつつ話を変えた。
「それより俺的に気になるのは……」
「な、何ッスか?」
「この屋敷には隠し部屋的な部屋があって、財宝がまだ眠っているんではないかということだな」
「……」
「気付かなかったか? この屋敷を歩いていて、デットスペースが多いことに」
「そ、それは本当ッスか?」
「まぁ……そこら辺の探索はお前ら……ホランド、ノックス、ユリーナに任せようかな。ただ、リンは地下通路から外に出る時のために鍵を作る仕事を任せるからやれんけど」
「分かったッス!」
目の色を変えたノックスはやる気ある声を上げるのだった。
「ふぅ」
夕食後、アレンがベッドで横になって……大きく息を吐いた。
この部屋はアレンの自室として割り振られていた。
アレンの自室は八畳ほどのスペースにベッドとデスク、ローテーブル、二人用のソファ、照明……そして、本棚が置かれていた。
ちなみにトイレや風呂は共同であった。
アレンは視線を本棚へと向け、次いで本棚から出してベッドの上に置いていた本へと向けなおす。
「本を読めば……この屋敷のことが分かると思ったがまさか全く読めんとはな」
本へと手を伸ばして、パカッと開いた。
「サンチェスト王国で使われている文字でも、バルベス帝国で使われている文字でもない……門のところにバルベス帝国の紋章があったから、てっきりバルベス帝国の文字だと思ったが」
アレンはしばらく、難しい顔をしながらペラペラと本を捲っていく。
すると、本に挟まっていた一枚の紙が目に留まった。
「これは……なんだ?」
本に挟まっていた絵を手に取ってアレンは首を傾げた。
「ずいぶんと精巧に描かれた絵だな。色まで……」
アレンの手に取った紙にはエルフの美しい女性と屈強な男性が寄り添っていて、背景となっているのはアレンが今いる屋敷の前であった。
エルフの美しい女性はエルフの特徴である銀色の髪に、尖がった耳を持っていた。
くっきりとした目鼻立ち。まるで洋画の映画から飛び出してきたと思えるほどに美しい女性である。
次に屈強な男性はこの世界では珍しいとされている黒髪で、その黒髪をオールバックにしていた。
エルフの女性よりも二十センチほど大きな体は筋肉質でかなり鍛えられているのが分かった。
「んー誰だろう? それにしても綺麗なエルフだな。よくよく考えたら……俺はハーフエルフだけど、親戚にエルフがいる訳でもない。だから、エルフを見るのは初めてなんだよな」
アレンは、絵に軽く触れる。
絵はいやにつるつるしていて、触れた指先が滑った。
「この絵の素材はなんだろ? 触れたことがない触り心地だ……こう言うのは専門外だ」
アレンは絵を脇に置いて、再び本をパラパラ捲り内容を見ていった。
しかし、それを三十分続けたところで、パンッと本を閉じた。
「まったく、分からん。諦め諦め、これはどこかで考古学とかやっている連中に解読してもらわんと、素人が手を出すもんじゃないわ。……もういいや。久しぶりのベッドだし、今日は早めに寝るとしよう」
本の文字の解読を諦めてしまったアレンは本と先ほど見つけた絵をローテーブルに持っていく。
そして、ベッドで横になって眠りにつくのだった。
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