第17話 名物。



「あ……あそこなんていいんじゃないッスか?」


 湖の周りを見て回って、野宿する場所を探そうとしている最中だった。


 ノックスが不意に立ち止まり、指さした。


 ノックスの指さした方には、草むらに少し隠れていて見つけにくいが切り立った崖に洞窟があった。


「おぉ、でかした」


 洞窟を目にしたアレンがノックスを褒めた。すると頭を掻きながらノックスは照れている。


「そ、そうッスか?」


「ちょっと行ってみるか」


 アレン達は警戒しつつ、草むらを抜けて洞窟へと向かった。


 そして、洞窟の前まで移動したところで、洞窟の全貌を目にする。


 洞窟は三メートルほどの穴がぽっかりと開いていて、中はほろ暗く見ることができなかった。


 洞窟の前は動物……そして人の骨が山のように積まれている。そして、獣臭が外に居ても漂ってきていた。


「気配がないから、たぶん大丈夫だろうが。俺が中を確認してくる。ホランド達は周囲を警戒」


 アレンがそう言い残して一人、洞窟に近づいていく。


「しかし臭いな」


 洞窟の中から漂ってきた強烈な獣臭に顔を顰めながらアレンは持っていた松明で洞窟の中を照らして覗きみる。


 洞窟の中は奥行がそれほど長くなく、十五メートルくらいで奥まで視認することができる。


 入り口が狭まっていて、奥に行くと十畳ほどの広い空間が広がっていた。


「んー特に危険は無い」


 アレンが洞窟の中に危険がないことを一通り確認すると、ホランド達を呼ぶ。


 ホランド達が洞窟の中に入ってくると、表情を顰めた。


「すごい獣臭いですね」


「うへ……この臭いをどうにかしないと駄目だね」


「うう臭い」


「臭いッスね。だけどダンジョンの中に匹敵するッスかね」


 アレンに呼ばれてやってきたホランド、リン、ユリーナ、ノックスは臭いと言いつつ、冒険者として魔物の巣窟となっているダンジョンに潜っていて多少の臭い耐性があるのかすぐに洞窟内を物色し始めた。


 アレンが松明を横壁に突き刺して口を開く。


「まぁ、獣臭は掃除をしたら薄れると思うが……何か魔物の住処なんだろうか?」


「……うむ?」


「ん? どうした、ノヴァ?」


 鼻をスンスンと動かして首を傾げていたノヴァに対して、アレンは問いかけた。


「うむ、この住処に居た魔物の匂いなんじゃが」


「何かこの匂いに心当たりでもあるのか?」


「いや、大したことではないのじゃが……この匂いはお主らからも先ほどからしていたぞ?」


「ん? 魔物の匂いが? あ……もしかして、さっきの虎が住処に使っていた場所なのかな?」


「虎? あぁ、先ほど仕留めたと言っていた魔物か?」


「そうだ」


「だったら、魔物がやってくる心配もないか……ホランド」


 アレンは一瞬考えると、洞窟の中を物色していたホランドへと視線を向けて呼びかけた。「あ、はい」


「これから、二班に分ける。俺とノックスは料理を作るから。ホランド、ノヴァ、リン、ユリーナは水汲みと洞窟の内の簡単な掃除を進めることにしよう」


「はい、わかりました」


「あ、ユリーナにはしてもらわんといかんことがあるから……ちょっとだけ借りる」


 こうして、アレンとホランドの班に分かれ、野宿の準備に取り掛かるのだった。




 洞窟の出入り口の辺りでアレンとノックスが手に入れた食材の調理をしていた。


 リン、ユリーナはノヴァとともに水汲みへ行き。ホランドは洞窟内の掃除行っている。


 ちなみに、洞窟の出入り口の辺りに転がっていた動物や人骨は穴を掘って埋めてちゃんと供養していた。


「ノックスは料理を作る手際がいいな」


 アレンがアーネルドタイガーの肉や果物、山菜を手際よく切り分けるノックスの手元を見て感心したように口を開いた。


「はいッス。パーティーで料理できるのは俺だけだったんで……」


「そうなのか? リンやユリーナはできないのか?」


「アイツらの料理を食べるなら、生肉の方がマシッス」


 ノックスの言いようにアレンは戸惑いの表情を見せる。


 そして、周りに誰もいないことを確認した後、アレンは声を潜めて問いかけた。


「……生肉って……そ、そんなにか?」


「料理って言うより黒い何かを前に作っていたッス。彼女らに料理は絶対にダメッス」


「黒い何か……そうか」


「まぁ……彼女らのことはいいッス。それより、アレンさんも料理するんッスか?」


「あぁ、たまにな。火龍魔法兵団名物のステーキを作ろうと思って」


「火龍魔法兵団名物ッスか! 楽しみッスね!」


「そんな、すごいモンでもないけどな。さて、切った肉を叩こうかな」


 アレンは握り拳サイズの石を手に取って、木の桶に貯めた水で洗い始めた。


 ちなみに、木の桶はユリーナが木を魔法で削って作ったものである。


「肉をその石で叩くんッスか?」


「この下ごしらえは面倒だが……やると、柔らかくてうまくなるんだよ」


「そうなんッスね」


「ノックスはこの肉を叩いておいてくれるか?」


「わかったッス」


 ノックスに肉を叩く作業を頼んだアレンは立ち上がる。


 そして、大きく作られた焚火の方へと向かった。


 その焚火の上には畳の大きさの石の板と大きなお椀形に石が成形された物が置かれていた。


 ちなみに、これもユリーナの魔法で石を成形したものである。


「よし、水は温まったかな?」


 鍋代わりに使うのだろう大きなお椀形の石にはすでに水が注がれていて、ぽこぽこと気泡が出始めた状態であった。


 お湯の状態を確認していたアレンは木を取り除いたりして焚火の火を調整し始める。


 そうしていると、ノックスから肉を叩くのが終わったと声が聞こえてきた。


「こんな感じでいいッスか?」


 大量の肉の塊が盛られている木皿を持ったノックスがアレンへと問いかける。


「あぁ。いい感じだ」


「良かったッス。これを焼くんッスね?」


「いや、まだ焼かない。まずはこのお湯の中で煮る」


「? ……ステーキなんッスよね?」


「そうだ。まぁ……水煮することでさらに肉を柔らかくするんだ」


 ノックスの持っていた大量の肉の塊が盛られている木の皿をアレンが受け取ると、そのままお湯の中に投入し始めた。


 それから、十分ほど湯の中で肉を煮て、その後焼き目が付くくらいに軽く焼いて……アレンの言う火龍魔法兵団名物のステーキは出来上がったのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る