第16話 ホワイトガブルウルフ。






「アレ? お前が来ちゃったの?」


「き、きゃー可愛いぃ!!」


 アレンの言葉とほぼ同時に、様子をうかがっていたリンが声を上げて、その白い子狼をガバッと抱きしめる。


 そして、透き通るような綺麗な白いモフ毛を撫でまわした。


「な、なんじゃ?」


 突然、リンにモフられて白い子狼は最初こそ戸惑ってはいたが。少しすると、まんざらではないと言った様子でされるがままになっていた。


「あ、あ、リン、ズルい。私も」


 リンが白い子狼をモフっているのを見て羨ましくなったのか、ユリーナはせがむようにリンへと近寄る。


 しばらくリンとユリーナに好きにさせた後、苦笑いしながらアレンが口を開いた。


「あっと……そろそろいいか?」


「「ハッ! すみません!」」


 アレンの言葉を聞いて、リンとユリーナは我を取り戻したように声を上げた。


 ただ、アレンは気にする様子もなく首を横に振って、白い子狼に視線を向ける


「いいよ。いいよ。コイツ、嬉しそうだったし」


 ニヤリと笑ってアレンが白い子狼に視線を向ける。すると、白い子狼は動揺したように声を揺らした。


「ななな、何を言うか。アレンよ」


「いや、そう見えたから」


「ぐぬ、吾輩、山の王と呼ばれる親父殿の息子ぞ。ちゃんと敬意を払ってもらわんと」


「ふ、お前ら、紹介するコイツの名前はノヴァ。犬ころにしか見えんが……あまり怒らせないようにな。一応パルムス山に君臨するホワイトガブルウルフの一頭だからな」


 アレンはノヴァの頭をポンポンと叩きながらホランド達に紹介する。


 ただ、その紹介内容が気に食わなかったのか眉間に皺を寄せてノヴァが唸った。


「ぐぬぬ、犬ころとは何ぞ! 失礼な!」


「ハハ、実際そうだろ?」


「ふん、アレン、お主だってまだガキにしか見えんではないか。吾輩のことを言えた見た目か?」


「なんだと、俺はこれから成長していくんだよ」


「ふん、それこそ、あり得るのか? 五年前に会った時から何も変わっておらんではないか?」


「何を言っているんだ。五年前くらいからなら、身長が三センチも伸びて百五十六センチ……四捨五入すれば百六十センチもあるんだからな」


「ふん、身長を四捨五入して何の意味があるんじゃ?」


 アレンとノヴァが張り合う様に会話を繰り返していた。対してアレンとノヴァの会話を聞いてホランド達がこそこそと話し始める。


「え……? ええ? ホワイトガブルウルフ?」


「ホワイトガブルウルフ……?」


「それって童話に出てくる?」


「伝説の獣ッスか……」


 ホランド、ユリーナ、リン、ノックスの四人は顔を見合わせる。そして、代表してホランドがアレンへ声を掛けた。


「あのアレンさん、ホワイトガブルウルフとはあの童話『プロリア英雄物語』に登場する白い狼では?」


『プロリア英雄物語』とは三百年以上前に作られた童話で英雄プロリアが仲間とともに、大魔王であるロブルアを倒すという物語である。


 その物語の中で英雄プロリアが連れていた三体の獣に白い狼が居て、その白い狼のモデルがホワイトガブルウルフであるとされていた。


「ずいぶん古い童話なのによく知っていたな。そうだ、英雄プロリアが連れていたとされる白い狼のモデルとなったホワイトガブルウルフだ」


 アレンはホランドの質問に感心したように答える。


 すると、ノヴァが胸を張ってホランド達に視線を向けた。


「そうじゃ、吾輩はすごいのじゃぞ」


「まぁ一応な。コイツはまだ子供だが、まぁまぁ強いかな。見た目犬ころだが」


「一言、余計じゃ」


「ふ……こんな感じの奴だが、ホランド達も仲良くしてやってくれ」


 アレンはホランド達へ視線を向けて言った。


 対して、ホランド達はどこか緊張したような表情で頷いた。


「ところで……お前とは召喚契約していないだろ? なんで、ノヴァが来たの? シルバの奴はどうした?」


 アレンはここから本題だと言った感じでノヴァに問いかける。


 すると、ノヴァは一度頷いて口を開いた。


「うむ、お主が召喚魔法で開いたゲートが小さすぎて……親父殿では通れなかったんじゃ。だから、吾輩が代わりに来てやったのじゃ。感謝するんじゃぞ?」


「なるほど召喚魔法が完全に発動してくれなかったのか。やっぱ指輪の影響はあったんだな。なんて、面倒なんだ」


 アレンは納得したように頷き、ため息を吐いた。


 対して白い子狼……ノヴァはアレンに視線を向けた首を傾げる。


「うむ、それで吾輩はなんでここに呼ばれたんじゃ?」


「あぁ、お前の嗅覚を貸してもらいたくてな」


「なんじゃ、そんなことか。あ……それからわかっておると思うが。対価は親父殿と同じじゃからな?」


「対価の腹いっぱいの飯だろ? さっき、虎を仕留めたからその肉を後で焼いてやるよ」


「ふふ、うまい肉であろうな。吾輩は美食家であるがゆえ」


「うまいか分からんが。我慢して食べるんだな」


「ぬぬ、先にどんな報酬か見せてもらってからにするかの」


「駄目だ。まずはこのあたりに水がある場所をお前の鼻で探し当ててからだ」


 首を横に振ったアレンはノヴァの頭をポンポンと叩く。すると、ノヴァは表情を顰めた。


「けちんぼめ」


「あ、あの代価って言うのは?」


 ホランドの問いかけに、アレンは顎に手を当てて説明していった。


「ん? 召喚魔法に必要な召喚契約を結ぶ時に、召喚で呼び寄せて仕事してもらう代わりに対価を決めるんだよ。こいつ等の場合はお腹いっぱいの飯だったんだ」


「食糧を……それだけでいいんですか?」


「それだけってな。こいつらはめっちゃ食べるから大変なんだぞ?」


「うむ、吾輩はいっぱい食べるぞ。覚悟するんじゃな。スンスン……さて、さっさと行くかの……あっちから濃い水の匂いがするな」


 ノヴァの案内で……森の中を進んでいくと、意外なほど簡単に湖を見つけることができてしまった。



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