第15話 獣。
ユーステルの森の中へ入って四時間が経っていた。アレン達が森に入ったのは昼頃だったのでもう日暮れとなっている。
今は森の中で開けた場所でアレン達は休憩していた。そこで拾った木の棒で地面をいじっていたアレンが口を開く。
「今日のところは水を確保するのを諦めて……この辺りで野営を始めるか?」
「そう……ですね」
アレンの言葉を聞いたホランドが頷いた。アレンは持っていた木の棒を放り投げて不満げな様子で腕を組む。
「んーなかなかうまく行かんな。やっぱり森歩きは……アイツが呼べれば楽なんだけど」
「アイツとは? 呼ぶって?」
「いや、俺が召喚契約している獣なんだが。そうだ、ユリーナは何か良い獣と召喚契約を結んでいないのか?」
アレンが魔法使いであるユリーナに視線を向けて話を振ると、ユリーナは首を横に振った。
「私、召喚契約に適した獣を見つけることできてない。だから、まだ結べてない」
アレンも期待半分でユリーナに聞いたのか、すぐに納得したようにうなずいた。
「そうか。契約を結ぶのにも獣の知能、そして大量のマナを有している特別な獣……数が少ないから難しいよな」
「うん」
アレンとユリーナが何を話しているのか分からないホランドは口を挟む。
「あの……何の話をしているのですか?」
「召喚魔法の話をしている。今回の場合は召喚魔法の一種で獣を呼び出す魔法について。最近はその魔法を使う人も減っているらしいからホランドが知らないのも無理ないだろうな。ちなみに、その魔法で獣を呼び出して仕事に役立てる連中のことを主にサモナーと言われているんだが。冒険者には居なかったか?」
「サモナー……はい。そう呼ばれている人達を見かけたことがあります」
「それでなぜ、獣を呼び出す魔法についての話になったかについてだが、獣の中に嗅覚が鋭かったり、索敵能力が俺なんかよりも広かったりする奴がいるんだ」
「な、なるほど。あ……それで……アレンさんが最初に契約を結んでいる獣を呼べたらと言っていたのですね」
「あぁ、白い毛並みの狼を呼びたいと思っていた」
「狼ですか」
「そいつは索敵能力に優れているし。何より嗅覚聴覚は人間の俺では太刀打ちできんからな。ただ今の俺は下級の魔法しか使えなくて……召喚魔法を使って使用できるのか微妙。だから、ユリーナに問いかけたという訳だ」
「なるほど……」
アレンとホランドが話していると、不意にユリーナがアレンの服をクイクイと引っ張った。
「ん? 何だ?」
「私、アレンさんが召喚契約した獣を見てみたい。そしてできたら……紹介してほしい」
「んー紹介するのは別にいいが。下級の魔法しか使えない今の俺に……いや、一応試してみるか」
アレンはしゃがみこんで、さっき放った木の枝を再び拾って地面に何か書き始める。
「今書いているのが、召喚魔法の……魔法陣というヤツなんですか?」
アレンが何か書き始めたのを興味深げに見ていたリンがアレンへと問いかけた。
「そうだ。本来は必要ないんだけどな。これがあった方がマナの消費量が少なくていいんだよな」
「わくわく」
ユリーナに期待の眼差しを向けられていることに気付いて、アレンは苦笑する。
「ハハ……期待してくれているところ悪いが、できるかは分からないからな」
「分かっているけど。わくわく」
「まぁ……やるか」
アレンは書き上げた魔法陣の上に手を乗せた。
すると、アレンの手の平から薄い光が魔法陣に流れ込んでいき、魔法陣が徐々に光を帯びていった。
そして、しばらくそのままで頃合いを図っていたアレンであったが再び口を開く。
「そろそろか? 【サモン】」
アレンが【サモン】と魔法詠唱すると魔法陣の光が強くなって……次の瞬間、ボンッと白い煙が上がった。
「おぉーもしかして成功した? ん? それにしては……」
「うむ、久しぶりじゃな。アレン、来てやったぞ」
白い煙が晴れると、白い狼と言うか白い子狼が魔法陣の上で座っていた。
その白い子狼を見たきょとんとした表情を浮かべたアレンは首を傾げる。
「アレ? お前が来ちゃったの?」
「き、きゃー可愛いぃ!!」
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