第18話 宴。
日が完全に落ちて、辺りの気温がぐんと下がり始めた頃。
すべての料理が完成して、焚火を囲んでの食事となった。
食事のメニューとしてはアレンが作ったステーキと山菜スープの二つであった。
少ないように聞こえるかも知れないが山のように積まれた大量のステーキがそこには置かれていた。
「山ほどステーキのおかわりがあるからな死ぬ気で食べるように! 宴だ!」
アレンは木のコップを掲げて宣言した。
すると一斉に目の前の山のように積み上げられたステーキに手を伸ばしていた。
「「「「うあぁああああ」」」」
ホランド、リン、ユリーナ、ノックスは相当に腹が減っていたのか、熱いのを気にすることなく木のフォークに突き刺してステーキにかぶり付いた。
「や、柔らかい……これは本当に肉なのか?」
「ほろほろと口の中で崩れるよ。美味しい!」
「く、崩れる!」
「本当に柔らかいッス。それと、この果実をつぶして作ったソースが……美味しいッス」
ホランド、リン、ユリーナ、ノックスはステーキを口に運ぶのを止めずに口々に、美味しいと言いながら食べ進めている。
ノヴァはアレンの隣で座ってステーキにかぶり付いていた。
「うむ、この焼いた肉は美味しいの。親父殿は毎回こんなうまいもんを食べておるのか? ズルいの」
「毎回ではないけどな。シルバも……そういえば、このステーキは好きだったな」
「うむ、親父殿め」
「まぁ、先ほども言ったが……俺は使える魔法が制限されているから、今後はお前を呼ぶ機会が増えることになるだろうし。機嫌を直すんだな」
「うむ、そうじゃな」
「それで、なんだが。後で俺とそこにいる魔法使いのユリーナと召喚契約を結んでくれないか?」
「む。この肉焼きのためならば仕方ない。結んでやる」
アレンはあまりに簡単に契約を結ぶことを了承したノヴァに苦笑する。
すると、ステーキに夢中であったユリーナが身を乗り出して声を上げた。
「うむぅ! にゃむにゃむ……ゴクン。そ、その話、本当? わ、私とも召喚契約を?」
「う、うむ、構わんよ。ただし、うまい飯を用意しておくようにな」
「ふすん、頑張る。美味しい料理を作れるように練習する!」
意気込むユリーナを見ていたアレンは不意に先ほどノックスとの話を思い出した。
アレンがノックス、そしてホランドの方に視線を向けると、先ほどまでステーキを無我夢中で食べていたのに、表情が暗くして完全に食事がストップしてしまっていた。
「そう。練習のために料理当番は私がやっていい?」
ユリーナは何か閃いた様子でポンと手を叩いて、ホランドへと視線を向ける。
視線を向けられたホランドはビクッと体を震わせて表情を曇らせた。そして、食べていた気管に入りそうになったのか咽るように急き込んだ。
「ごほ、ごほほ……ノックス、どう思う?」
ホランドは少しの沈黙の後、ノックスへと視線を向けて問いかけた。すると、ノックスは渋い表情になった。
「俺に聞くんッスか?」
「だって、お前が今の料理当番じゃないか」
「そうッスけど……アレンさん」
助けを求めるような表情でノックス、そしてホランドがアレンへと視線を向ける。
アレンは表情を曇らせながらも口を開いた。
「ユリーナ」
「ふすん。アレンさん、料理頑張る! 任せて!」
「やる気があるのは良いことだ。しかし、待つんだ。今の現状を考えて欲しい」
「今の現状を考える?」
「今、俺達は深い森でサバイバルをしている。そんな中、料理当番は限られた食材を無駄にしないで食事を作っている。分かる?」
「う、うん。わかる」
「料理の練習をするにはどうしても食料の無駄が出てしまう。今はいつ食糧不足になるか分からないから食材の無駄使いを許せないんだ。わかってくれ」
「うう。そっか……」
「しばらくは俺かノックスがノヴァの食事を準備すると言った感じでいいんじゃないかな?」
「……わかった」
「まぁ、もっと安定して食料が確保できるようになったら、ノックスに頼んで料理を教えてもらうんだな」
「ふすん。頑張る。特訓する」
「お、俺ッスか!?」
意気込むユリーナに対してノックスはアレンへと詰め寄るように声を上げていた。
すると、笑い声が生まれて楽しげな空気に包まれる。
ただ、その場にいてリンだけはどこか羨ましそうにユリーナの様子を見ていた。
「いいなぁ。私も魔法が使えたらノヴァを呼べたのに……」
リンがノヴァと仲良くなっていたのは全員も知っていた。
彼女として仲良くなったノヴァを呼ぶことができる召喚魔法を使えるようになるユリーナを羨ましく思うのは無理もなかった。
「俺達では……魔法を使うのも難しいだろう」
「仕方ないッスよ」
ホランドとノックスがそれぞれ慰めるようにリンへと声を掛けた。それは、まるで自分に言い聞かせているようだった。
「あむ……お前らには後々魔法を使えるようになってもらう予定なんだが。何か魔法を使いたくない理由があるのか?」
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