第85話 俺も負けないぐらい強く成るからな
あれから、柊の里は朱天の傘下、強いて言うなら俺の下に入ることになった。
俺の活躍に惚れ込み、今後の将来に期待しているとのこと。
普段はいつも通りだが、有事になると俺の家の者が出張る予定になる。俺が行くようになるのは成人した後だ。
無論、一度助けた程度で傘下に入るのはやりすぎで鼻かという声もあったのだが、里の長―――柊姉妹の親御さんが反対の声を押し切った。
娘の命の恩人なら問題ないと。里と娘のために命を懸けて戦う男になら預けていいと。娘が泣かないように二人とも貰えるようにしたいと。序でに俺が帰る前に娘と縁を繋させ欲しいと。そのために反対派の意見を無視して傘下に入ったという。……本当に無茶苦茶だ。
前半は分かる。俺も命張った自覚はあるし、自分で言うものではないがソレぐらい感謝される謂れはある筈だ。けど後半は何? 娘が二人とも泣かないように? 娘と縁を繋させたい? ソレは為政者としてどうなの?
里とはいえ長を名乗る以上、娘の事ではなく里の事を第一に決断しろよ。里長として決断するなら当然の事だろうが。何私情に走ってんだ。
「こんなモンやで。種族は問わん。この世界の上の奴ってのは私情で同盟とかその破棄とか普通にするし」
「マジか」
前世の政治家も自分の私情で動くような事はあったが、いくらなんでもコレはないだろ。
「それで、この里はお前のモンになったっちゅうことやな?」
「いや、未だだ。俺が成人してからそうな感じだ。今はお手付きといった感じだ」
流石に未成年の俺が里に干渉するわけにはいかないからな。代理を立てるにしても余計な事されたら面倒だし。
そんで、この件を先延ばしにして色々と有耶無耶にする。誰が好き好んで面倒を増やして堪るか。
力は便利だがあまり持ちすぎると逆に不利になる。他の兄妹達やその後ろ盾に目を付けられたら面倒極まりないし。
「……お前、もしかして朱天継ぐ気ないん?」
「あるわけないだろ面倒くさい」
俺は半妖だ。しかも母親が誰かも分からない子供。純粋な上級妖怪である本家の連中が俺を歓迎するわけがない。
今は何もしないが、もし俺が勢力を拡げようとしたりしたら潰しに掛かるのは目に見えている。
「だから俺は余計なことをしない。このままドラ息子として生きるつもりだ。原作みたいに主人公にぶっ飛ばされない程度には贅沢する」
「ほ、ほうか。それにしては随分がんばっとるやんけ」
「俺の場合は鍛えたり戦うのが楽しいからと、力の制御法を憶えなきゃいけないってのがあるからな」
俺は決して嫌々修行しているわけではない。戦うのが楽しいから、強く成るのが楽しいからやってるのだ。もし仮に力の制御法を憶える必要がなくてもやっている。
そして今回、色々と克服すべき点も出たからな。帰って面倒事が片付いたら早速取りかかろうと思う。
「……そうか、お前やっぱすごいぜ」
突然、レイの似非関西弁が消えた。
最近になって分かったことだが、コイツは余裕なくなったり真剣な時はあの似非関西弁が無くなるようだ。じゃあ最初からそうしろよ。関西人バカにしてんのか。怒るぞ、俺の前世関西人だったし。
「……モモ、俺は決めたぞ。強く成るって」
「ん?ああ、いいんじゃねえの?」
こんなファンタジーな世界に生まれたのだ。特殊な力が自分にあると分かったら伸ばしたいと思うのは当然だろう。
「そんで、お前の隣に立てるような大妖怪になりたい! 今度は…絶対に逃げたりしない!」
「……レイ」
真っすぐに、決意の籠った目を合わせるレイ。
ここまで来れば茶化すことは出来ない。俺でも出来る限り真剣に答えることにした。
「そしていつか、お前を超えてみせる!」
「そいつは無理だ。俺も負けないぐらい強く成るからな」
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