第83話 上級妖怪の実力

 妖怪の世界では、基本的に上級妖怪以上が王族や貴族などの支配的階級となる。


 身分の差は階級社会であった頃の貴族と平民の差より更に顕著。支配階級の支配力は当時よりも強力だろう。

 権力の寄り所が教育や財産や技術の差でしかなかった人間の貴族に比べ、妖怪には妖力という殆ど絶対的な力が存在している。

 更に、他の上級妖怪や退魔師による妖怪狩りに対抗するのも主に上級妖怪。弱小妖怪が支配下に置かれても上級妖怪を求めるのは当然の事と言えよう。


 まあいい、話が逸れた……。


 つまり王族貴族の戦闘能力は隔絶している。

 ソレがただの下級妖怪共と戦う事に成ればどうなるか………。



「う、うわぁぁぁぁ! お、王族なんて、そんなの聞いてねえ……!」


 影から荊の縄が現れる。

 ソレは無造作に下級吸血鬼共を軽々と薙ぎ払い、ズタズタに容易く引き裂き、瞬く間に残骸へと変えた。

 下級とはいえ、人間の身体よりは頑強な筈の肉体。だというのに、それらをまるで紙切れでも破くかのように淡々と殺していく。



「む、無理だ……!こんなの、勝てるわけねえ!!」


 ある者は絶対的な力に絶望し……。



「こ、これは夢だ。悪い夢だ! 醒めろ醒めろ醒めろ……!」


 またある者は現実から目を逸らし……。



「あ…足……俺の足が……!」


 またまたある者ははいずり回って逃げていた。



 だが、どれも辿る道は同じ。

 絶対的な力による蹂躙だ。


 これはもう戦いですらない。

 殺処分……いや、片付け作業とでもいった方がいいか。


「百貴様、やはり目を開けてください。そしてその目に焼き付けてください。貴方が何れ至る……いえ、超えるかもしれない力を」


 ああ、最初から開けてるよ。そして見ている。

 コレが上級妖怪の力。そして、何時か俺が成長する力だ。


 半妖とはいえ俺も上級妖怪の子だ。

 時間は掛かるかもしれないが、妖怪にとっちゃ十数年なんてすぐ。そう遠くない内、このまま怠けず鍛えていけば、俺はフレイシアさん並みに至る。

 そして、その時は俺もこうして他の妖怪や退魔師を掃除したり、彼女と同じぐらい強いと戦ったりするだろう。

 自惚れでも自意識過剰でもない。俺の力……朱天の力はそれだけ強力だ。


 戦うのはイイ。

 俺も半分とはいえ鬼の血が流れている。

 前世の僕なら怖くてとでも出来ないが、今世の俺なら大義さえあれば何時でも戦える。

 だが、そのために何かを背負うのはごめんだ。俺は、自分とその周りさえ守れたらソレで良い。


「フフッ、恐れる必要はありません。その御年で少女を守るためにたった一人で乗り込み、戦える貴方でしたら、きっと素晴らしい王になるでしょう」


 俺は朱天を継ぐつもりなんてないのに……。




 作業は思った以上に速く終わった。


 粗方フレイシアさんが暴れた後に降服を呼びかけると、下級吸血鬼たちは次々と投降していった。

 今回の阿呆な事件の首謀者は捕まり、乗り込んだ俺は氷柱を守るためだと正当防衛が認められた。

 こうして俺は里に戻り、たっぷり爺やに泣かれながら絞られ、皆に泣かれながら怒鳴られ、竹雄さんからは泣かれながら拳骨くらった。

 けど、その涙がとても暖かくて、涙声がとても胸に染みて、抱きしめられる感触がとても心地よかった。

 こうしてもらえると、俺が愛されていることを実感出来る。まあ、だからといって心配させるのは悪かったと思うけど。

 で、その後は……。


「百貴のバカ!」

「なんでそんな無理するのよ!?」


 雪女の双子にも殴られました。


「バカバカバカ!こんな危ない事なのに軽く受けちゃって!」

「私なんかの為に…こんなボロボロになることないのに!」


 泣きながら俺の胸をポカポカ殴る二人。


「……バカ。百貴くんも……私も」


 ポツリと、双子のどちらかがそんなことを呟いた。


「(ああ、そういう事か……)」


 この二人は、俺を責めてるんじゃなくて、自分を責めているのか。

 雪那は助けてと頼んだ自分を、つららは攫われた自分を。

 こういう場合、俺が謝っても意味はない。よって少し強引だが、力技で解決することにした。


 ガシッ!


「「!?」」


 二人を左右に抱き寄せ、身体を密着させる。


「大丈夫だ。俺はこうして生きている。だから気にするな。これからも、俺は何があっても必ず生きて帰る。約束する」


「あと、自分なんかって言うな。俺はお前らを助けたいって思ったから助けた。俺にとってはソレだけ価値があるんだ。勝手に決めるな」


「けど、俺も絶対じゃない。だからもしお前たちの力を俺が必要にしたら、今度はお前らが俺を助けてくれ」


 こういう時は出来るだけ強い言葉を使う。

 彼女たちは不安なんだ。ソレを取り除くには少し大袈裟に、多少キザったらしく言った方がいい。これだけ豪語すれば逆におかしくなって笑う筈……。


「……うん。わかった。今度は私たちが百貴を助けられるように強くなる! で、百貴の家来にしてもらう!」


 え? どう言うこと?


「家来になって、百貴の役に立てるようになる! お嫁さん……は、無理だから愛人にしてもらう!」


 ……なんか、ちょっと流れがおかしいぞ?


「「その時はよろしくね、百貴!」」


 あれ、選択肢ミスった?

 



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