第81話 フレイシア
「ふ……フレイシア・レイド!」
彼女を目にした途端、ノム―は恐怖した。
長く伸ばした赤い髪を靡かせ、髪と同じ色のスーツを着込む美女。
ぴっちりとしたスーツが豊満な身体に張り付き、大人の色香を醸し出す。
そんな色気など忘れさせるほどの強大な妖力と、ソレによって感じさせる圧力。
ノム―はその圧によって、眼前の美女が身の毛もよだつ化物に視えてしまった。
いや、実際そうなのだろう。
フレイシア・グ・レイド。
レイの兄であり、三大真祖の一人であるサーヴェイン。その彼の妻………ヴァンパイアの王の妃が現れたのだから。
「な、何故貴方様がこのような場に……!?」
震える声でノム―は聞く。
「これも秘書としての仕事ですので。……ここに朱天の一人息子である百貴様がいらっしゃるはずです。早く帰しなさい」
「!!?」
朱天、その名を聞いてノム―は更に震えが強くなった。
あのガキ、本当に朱天の一人息子だったのか。
テキトーに朱天家の鬼だと言った、まさか本当に鬼の頭領の息子だなんて露ほども思っていなかった。
「(マズいマズいマズい! このままでは私の破滅は決定的!なんとかしなくては……!)」
考えられる中でも最悪の事態。いや、担っていなかった。
もし、今回の事がバレたら自分は地位をはく奪の上に処刑。
ソレだけは嫌だ……!
「そ、そのような人物は私に覚えは……」
「早く出しなさい。三度目は言いませんよ」
空のように青い目が少しだけ鋭くなる。
早く出せ、さもなければ殺す。彼女の目はそう言っていた。
事実、彼女にとってノム―など、その辺の虫を踏み潰すのと同じ感覚で殺せる。ソレだけは理解していた。
「(なんとか…なんとかしなくては……!)」
ノム―がどうにかしてこの場を切り出そうとした瞬間……。
「ぐるああああああああああああああ!!!」
突然、壁を蹴破って赤い何かが侵入してきた。
豚のような巨体と肥え太った姿をした醜い鬼。まるで、ファンタジーモノで出て来るオークのような姿だった。
しかし、放つ妖気は上級妖怪のソレ。……もっとも、不安定なせいで実際の出力は中級に届くかどうかといった具体だが。
「……なかなか面倒な事態になりましたね」
赤い豚―――暴走した百貴の姿を見てため息を付くフレイシア。
何が起きたかは分からないが、暴走するような事態にはなった。
相手は極東の小国とはいえ、それでも国のトップの一人息子。ソレをこんな姿に差せるような事態を招いたのだ。
謝罪、賠償、もみ消し、鎮火作業…。これからするべき事に頭が痛くなる。
「ガアアアアアアアアアア!!!」
「(完全に理性を無くしてますわね。これは仕方ありません……)」
迫り来る百貴にため息を付きながら……。
【薔薇の
足元の影から無数の鞭を伸ばし、ソレを百貴に巻き付けた。
「ギャアアアアアアアあああ!!!」
鋭い棘で硬い皮膚を貫きながら、全身を鞭で拘束。
せいぜいハリガネ程度の太さしかないというのに、百貴の怪力で抵抗しても抜け出せない。ソレどころかその巨体を持ち上げ、更に締め付けた。
吸血鬼が他の種族と戦う為、より食事を効率よく獲るために編み出した独自の技術。
吸血鬼によってその効果は異なり、千差万別に存在している。
また、吸牙法は固有の能力を持つ上級の吸血鬼しか持ちえない。
「(可哀そうだけど、少し血と妖力を絞りましょう。暴走を止めるためですの……)!!?」
そのまま、フレイシアは荊棘の鞭から百貴の妖力と血を吸う。
瞬間、彼女は途轍もない快感を感じた。
美味い、今まで飲んだどんな血よりも。
濃厚な妖気に後から来る酩酊感、まるで上等な酒でも飲んでいるかのようだ。
もっと欲しい。もっとこの美味しい血を飲みたい! 今度は直で、直接首元に噛みついて……。
「・・・ッハ!」
そこで彼女は我に返った。
何をしようとしていたんだ自分は。
相手は一国の王子、しかもまだ十歳の子供だ。
そんな相手に既婚者であり一国の主の妃である自分がこのような真似が許されるわけがない。
「……あら、戻ったのね」
先程の吸血の影響か、百貴の暴走は解けて人間時の姿に戻っていた。
ソレを確認した彼女は鞭の棘を引っ込めながら、彼を手元へ引っ張り寄せる。
「……可愛い」
豊満な胸を枕に利用しながら、フレイシアは気絶している百貴の黒髪を撫でた。
自身の子供を慈しむように、優しくゆっくりと……。
「……あら、ノム―は?」
だが、そのせいでノムーを取り逃がしてしまった。
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