第80話 オーク化


 その部屋は、辺り一面が赤に染まっていた。

 本来なら白い壁は赤いペンキでもぶっかけられたかのように赤く染まっている。

 辺りには白く硬いもの、ピンク色の柔らかいものもが転がっており、ソレを何かが踏み砕いた。


「ブルルルル…」


 ソレは醜い姿の鬼だった。

 赤い体に潰れた鼻、ブヨブヨに肥大化した肉体は豚そのもの。

 ファンタジーなどでよく見るオークのような姿。

 これこそ百貴の新しい暴走姿である。


 前回はゴブリンのようであったが、あれから三年の月日を経て妖気が強化され、暴走の姿も変化した。

 まあ、醜いことに変わりはないのだが……。


「ブルル……」


 鼻を振るわせて周囲の匂いを嗅ぐ。

 たとえ暴走しても、目的は忘れてなかった。

 この場からの脱出及び、邪魔者の排除。

 暴走する前にソレを強く願う事で、百貴は自身の肉体に予め刻み付けていたのだ。

 三年前、暴走によて学んだ暴走対策の一つ。

 まあ、結局は妖力を暴走させているので我は忘れているが。


「ブルオオオオオおオオオオオ!!!」


 暴走《オーク化》した百貴はその場を走り去る。

 目的地が見つかった。

 結界の綻び。

 ソコを通ればれ帰れる。

 じゃあ、その後はどうなるか……。


「ブルオオオオオおオオオオオ!!!」


 この血走った目を見れば、どうなのかすぐわかるであろう……。








「クソクソクソ! なんでまだ捕まえられないんだ!?」


 執務室でノム―は喚いていた。

 屋敷に侵入して暴れている子供が未だに捕まらない。

 いくら上級妖怪の子供とはいえ、相手はたった一人。

 大の大人が数人掛りでやれば捕まえらえる筈。

 だというのに、一向に騒ぎは収まらない。

 それどころか悉く返り討ちに遭い、逆にこちらが損害を被る始末。

 一体何のために給料を払っているか分かっているのか役立たずの下級妖怪共め。


「こうなったら、外部の者に……!」


 ノム―はカスとはいえ一応地位のある吸血鬼。

 よって助けを要請すれば援軍が来るのは自然なことである。……今の状況が普通ならば。

 今回、暴れているのは百貴。朱天家の嫡子であり、もっと言えば王子である。

 しかも、その王子を攫ったのはノム―自身。

 本来の目的は別の子供だったとはいえ、別国の王子を攫ったという事実に変わりはない。

 もし、これが発覚すればどうなるかは目に見えている。


「ぐ、ぐふふ! コレでお前も終わりだ、ガキの侵入者め!」


 だが、そのことにノム―は気付いていなかった。

 彼は早速本国に応援を要請しようと手順を踏む……。




「ノム―、その必要はございませんよ」

 

 突然、自分以外誰もいない筈の部屋に声が響いた。


「だ、誰……!?」


 咄嗟に振り返って怒鳴ろうとするノム―だが、その顔を見た途端にソレを辞めた。

 いや、むしろどんどん蒼くなっていく。


「あ、貴方様は……」


 信じられないと言った表情。

 恐怖によるものか、声も体も震えている。


「ふ……フレイシア・レイド!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る