第77話 バットの追跡

「ック!」


 その場を跳躍して再び庭の雑木林に飛び込む。

 ジッとするのは不味い。

 瞬く間に群がれ、喰い尽くされてしまう。

 ここはさっさと逃げるのが得策である。


「キキキキキキッ!」


 蝙蝠共が甲高い不快な鳴き声を立てながら向かってくる。

 屍食鬼化したことで更に耳障りな声になっている。

 俺は耳を塞ぎたい思いになりながら、ソレらから逃げた。


「逃がすか!」


 バットが蝙蝠をけしかけるが、俺の方が早い。

 そのまま一旦逃げ切れるかと思いきや……。


「!?」


 突然、木々の間からコウモリの屍食鬼が飛び出した。

 どうやら予め待機させておいたらしい。

 葉っぱのカーテンを突き破り、数匹ほどが牙を剥いて襲い掛かる。


「クソ!」


 両手を変化させて薙ぎ払う。

 妖怪化すると妖気で居場所を追われるがもうこの際だ。

 どうせ、超音波を使われたらバレるのだ。もう知ったことか。

 逃げも隠れもせず戦うしかない。


「キキキキキキッ!」

「!?」


 止まったせいで追ってくる蝙蝠共も追いついてしまった。

 ここまで来たら逃げるのは無理だ。迎撃しかない。 


「らあ!!」


 爪を振りかざして蝙蝠共を切り裂く。

 正面、左右、背後、そして上方へと。

 身体を回転させながら爪を連続で斬りつけ、迫り来る小さな群集を迎撃していく。

 全てを迎撃することは不可能だが、牽制する事は可能。

 このまま少しでも数を減らして……。


「ッグ!」


 踝に鋭い痛みが走った。

 蝙蝠に噛まれたせいで。 

 足を振って追い払いたいが、そんな悠長な時間はない。

 今止まってしまえば、瞬く間に群がられて骨の髄まで食い潰されてしまう。


「死ねぇ!」

「!?」


 蝙蝠の群集に紛れて、バット本人が突っ込んで来た。

 前回と違って迎え撃つ事すら出来ず、俺はマトモに受ける。

 せめての抵抗として身体を回転させてダメージを軽減しようとするが焼石に水だった。

 バットの突進がクリーンヒットしたことにより、また吹っ飛ばされた。


「ガハッ……!」


 また壁に叩きつけられた。

 その勢いで壁を破壊しながら部屋へと放り込まれ、地面にリバウンド。

 視界がゴロゴロと変わり、脳みそがシェイクさせられる。

 全身を叩きつけられ、その痛みを存分に味合わされた。


「キキキキキキッ!」


 そして、動けない俺に蝙蝠屍食鬼の追撃である。


「ぐ、う……!」


 さっき以上のダメージ。

 加えて蝙蝠共の追撃まである

 痛い。滅茶苦茶痛い。こりゃ骨もやられたかもしれない。

 少なくとも、全身打撲は確実。所々赤と青に腫れており、擦り傷やら切り傷やらで血だらけだ。




 けど、それがどうした?



 こちとら七歳の頃に弾丸ぶち込まれたのだ。


 身体を霊力によって侵され、体内から焼かれる様な痛みを味わった。


 もうだめかもしれないと、死ぬかもしれないという恐怖を味わった。



 今更この程度の痛みでビビるかよ!! 



「こ…のぉ……!」


 痛む身体に鞭打って立ち上がる。

 その間に蝙蝠共に噛みつかれるが、そんなものは無視だ。

 さっさと振り払って、一秒でも早く、1mmでも近づかねえと……!


「!? な、なんだ……!?」


 ドサッと、崩れるかのように倒れてしまった。


 力が出ない。

 確かにボコられたが、何も戦えない程じゃない。

 まだまだ余力はあった筈なのに、何故急に力が入らなくなる?


「キキキキキキッ!」


 倒れている俺に蝙蝠の屍食鬼達が集る。

 マズい、このままじゃ……!


「があああああああああああああああああああ!!!」


 俺の悲鳴が、屋敷中に響き渡った。

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