第76話 下級相手にこのザマか


「どこ行ったんだ侵入者くん? 隠れてないで出て来いよ」


 屋敷の庭の雑木林。

 鬱蒼と木々が生い茂り、月光を覆い隠している。

 そんな陰鬱な場所で俺は木の上に隠れてチャンスを窺っていた。


 ここは隠れる場所が多い。

 しかも、無駄に広いおかげでバットも俺を探すために手下を分散させざるを得なくなっている。

 今なら不意を突ける。邪魔な手下共がいない今こそがチャンスである。


 枝から枝へと、音を殺して飛び移る。 

 木の葉で身を隠し、揺れに注意しながら。

 気分は狩りをする豹。獲物は特大の蝙蝠である。

 獲物の視界外へと回り込み、隙を見て、一撃で仕留めてやる。

 けど、そのためには自分から勝機を作らないとな。


 俺は逃げる時に拾っておいた瓦礫の欠片を適当な場所に放り投げた。


「!? そこか!?」


 ガサッと、瓦礫が飛んで行った箇所から音がした。

 たぶん、茂みか何かにでも落ちたのだろう。

 その音にバットが反応し、そちらに注意を向ける。


「(今だ!)」


 瞬間、バットの真上の枝から飛び降りた。

 狙いはがら空きの頸椎。

 一撃でも入れたら俺の勝ち……。


「……カハッ!?」


 突然、背面から衝撃が走った。

 強制的に空気を肺の中から吐き出され、一瞬だけ息が止まる。

 遅れて、車に轢かれたかのような凄まじい鈍痛が襲ってきた。


「ぐあああああああああああああああああ!!!!」


 木々の間を抜け、屋敷の壁に叩きつけられた。

 その壁を破壊音を立てて突破してまた別の壁にぶち当たり、衝突音と共にデカいヒビを入れた。


「ククク…。私の不意を突いたつもりですが甘かったですね。貴方の動きなど丸わかりですよ」


 痛む身体に鞭を打って立ち上がる。

 クソ、滅茶苦茶痛い。主に全身が痛い。

 骨折こそしてないが、相応のダメージを負った。


「な、なんで……?」

「反響。貴方も聞いたことはあるでしょ?」

「………あ!?」


 エコロケーション。

 音や超音波を発し、反射した音によって獲物との距離や方向、得物の大きさなどを知る方法。

 主にイルカや蝙蝠などが利用している。

 そう、蝙蝠である。


「(バカだバカだバカだ! こんなこと、少しでも動物のことを知っていれば分かる筈なのに!?)」


 俺は自分の間抜けさを呪った。

 何でこんな単純な事に気づかなかった?

 相手が蝙蝠に変身しているなら、当然に危惧するべき事だ。

 だというのに何故……!!?


「っぐぅ!?」


 自分のバカさ加減に呆れていると、突然鋭い痛みが足から走った。

 バットの配下である蝙蝠の屍食鬼が噛みついてやがる。

 只の蝙蝠ならチクッとする程度だが相手は屍食鬼。

 最下級とはいえ一応立派な妖怪である。

 当然、噛まれたらダメージを受ける。

 けど何時の間に!?


「(超音波で呼び寄せやがったか!?)」


 通常、吸血鬼が屍食鬼を操る際は、妖力による念波を使用する。

 電波のように送受信することで操作するのだが、コレが出来るのは最低でも中級クラスだ。下級には使えない。

 こいつ等のような下級は声で指示する。そのせいで単調な指示しか出せないのだ。

 俺はそのタイミングを突いているだけ。だというのにコイツはソレを覆した。

 超音波で指示できるなら、念波を使えるのと変わりない。

 中級吸血鬼と変わりない。


 ああ、マジで最悪の状況だ……。

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