第62話 百貴の優しい尋問


 簡易な小屋の中。

 その中に捕らえた吸血鬼共を閉じ込め、数人がかりで尋問を始めた。

 尋問官は俺。他の鬼たちは睨みを利かすかのように俺の左右に立ち、その屈強な肉体と厳つい形相で威圧する。


「さて、じゃあ改めて質問するか答えてもらう」


 俺は縛られて転がっている奴ら―――はぐれ吸血鬼たちに目を向けた。


 はぐれ吸血鬼。

 上級の吸血鬼には他種族を己の眷属、つまり配下に加える能力がある。

 通常は親となる吸血鬼に絶対服従だが、中には出し抜いて親を殺したり、まんまと逃げ出す吸血鬼がいる。

 文字通り吸血鬼社会からはぐれた吸血鬼だ。


 はぐれは見つけ次第即殺すのが常識となっている。

 吸血鬼だけでなく、他の勢力からも。

 だから今回のことが余計に分からない。


「何故こんな目立つ真似をした? お前たちはダンゴムシみたいに日陰でコソコソしてるようなお前らが」


 主を裏切ったはぐれ吸血鬼には後ろ盾がない無法者だ。

 法に縛られない彼らは法に守られることもない。

 よって彼らは他の陣営に目を付けられないようにひっそり活動している。

 無論、後先考えずに暴れるバカもいるが、そんな奴は直ぐに殺される。


 大半のはぐれは後先考えずにはぐれになったバカだが、中には徒党を組むバカもいる。

 そういった連中が集まってはぐれから盗賊団やならず者集団のようなもの変貌する。


 原作では徒党を組んでもはぐれと呼ばれている。おかしいね。

 まあ、今はどうでもいいけど。呼び名なんて本当にどうでもいい。

 今大事なのは、こいつらの目的と違和感だ。


「もう一度聞く。何故こんな馬鹿な真似をした?」

「「「………」」」


 何も話さない捕虜たち。

 十秒経っても答えてくれないので、俺は手軽に拷問することにした。

 リーダーらしき人の髪を引っ張って無理やり顔を合わせ、顔面の皮を少しだけ剥ぐ。

 プチプチと皮を破って、痛みと恐怖を与える。


「痛い………痛い痛い痛い!!」


 苦痛のあまり転がるリーダーらしき男。

 敵の指揮官を痛めつけることで相手の反抗心を下げる。

 これで吐いてくれたら楽だけど、相手はプロだ。もう少しやる必要がある。


「お、おいやりすぎちゃうか?」

「余所は引っ込んでて、これは俺たち朱天家の問題だ」


 引いているレイとスモモを手で制して、もう少し拷問を続ける。

 さて、そろそろかな……。


「ぎゃぁぁぁぁ」

「うるさい…なぁ!!」


 浴衣の帯に差しているドスを取り出し、リーダー格に振りかざす。

 相手の力量を考えて、ギリギリ避けられるスピードで。

 一瞬止めるなんてぬるい真似はしない。

 こちらの本気度を示さなくちゃいけないからね。


「ひ…ヒィ!!?」


 見た感じ三十代を超えている大の大人がガタガタと歯を鳴らしている。

 これで俺の気持ちは伝わっただろう。

 じゃあ、質問を再開するか。


「俺の質問には四秒以内で答えて。五秒過ぎたら殺す」


 数の部分を敢えて分かりにくく、早口で言う。

 拷問で気が動転している状態でこうされたら、慌てて本当の事を話してしまう。

 まあ、あくまで拷問に慣れてない素人相手という話だが。


「ま、待ってくれ話す話す!」


 ソレから早口でソイツは吐いてくれた。

 どうやらここの襲撃は前々から準備していたらしい。

 人里から隔絶され、後ろ盾もないようなこの村なら練習がてらに落とせると言われたらしい。


「それだけ?」

「は、言える事は全部話した! もう何もない!!」

「………」


 本当にそうか?

 プロがやったにしちゃ、簡単に吐くじゃないか。

 まあいい、詳しい話は他の人たちに任せよう。


「……お前、えげつないな。パーティん時はあんな甘々やったのに」

「知らないよそんなの。今回ばかりは他の人たちの命が掛かってるんだ。いちいち手段を選んでられるか」


 あの時は俺が我慢すれば何とでもなったけど、今回はそうはいかない。

 殺しは出来るだけしないけど、多少の痛い目は見てもらう。


「お前、他人のためやったら覚悟ガンギマリするタイプやな?」

「そう? 普通じゃない?」


 別にそんな大したつもりじゃないだけどな……。


「じゃあ今度は俺や。お前のバックは誰が付いとる? あのグールは何処から仕入れた? お前らのバックか?」

「………」

「百貴、頼むわ」

「ま…待て待て! すぐ話す! 俺の頭たちが用意したんだ!」


 それからはぐれは話してくれた。

 こいつらの頭には個人的に仕入れのルートがあり、そこから村の襲撃を依頼されたようだ。

 というかコイツら、何簡単に情報を吐いてるんだ。実行犯の隊長がこの程度じゃ、その盗賊団も高が知れているな。


「ソレじゃあ……ん?」


 突如、遠くから妖気を感知した。

 この状況で妖力を使うのははぐれの生き残りしかいない。

 小屋の戸を蹴り破り、鬼の力で視力を強化して敵を確認する。そこに映っていたのは……。


「クソがッ!」


 雪那を攫おうとするバカ共だった。

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