第61話 見世物の後処理


「ほっとんど終わってるじゃねえか」


 俺が犀のような吸血鬼を封印して数分後。

 消火も大分終わっており、後は怪我人の安否とがれきの撤去等の後処理ぐらいだ。

 

 敵は既に俺の護衛達とレイたちが片付けている。

 どうやらここを襲撃した敵はそんなに強くない奴らのようだ。

 何かあると思って警戒していたのだが、どうやら杞憂らしい。心配して損した。

 大々的に俺らの存在をアピールするため、参勤交代みたいな事してたのに、こいつらは襲撃してきたから何かあると警戒してたんだけどな……。


「モモ~! お前戦うんやったら一言あってもええやろ! 俺も協力すんのに!」

「レイ?」


 どうやらこの辺の破壊消火はレイがやってくれたらしい。

 俺がカシラらしき吸血鬼と戦っている間、目が覚めて急いでやってくれたそうだ。


「ありがとうレイ。お前のおかげで助かった」

「何言うてんねん! そもそもここに来たいって言うたんは俺やで? 協力するに決まっとるやろ~!」


 ニコニコ笑いながら言うレイ。


「で、こいつら何?」

「分からん」

「え?」


 俺はこの場で一番事情に詳しい筈の―――原作に明るい奴に聞く。

 しかし返答は俺の予想したものと反していた。


「お前原作に詳しいんでしょ?」

「いや、ここはアニメでもぼやかされとったんや。村がある日何者かに襲撃されたぐらいしかなかったんや」

「………役立たずが」

「なんやと!? 俺も色々協力したで!?」

「それは感謝している」

「お、おう…。やけに素直やな」


 謝るとこや感謝するとこは素直にするよ。ごねても意味ないし。


「しっかしよくこんな準備しとったな」

「まあね。本当は保険のつもりだったんだけど」

「いやいやいや、こんなモンまで用意して保険はないやろ」


 レイはパソコン―――モニターにある防犯カメラの映像を見て驚いていた。


 俺が村中を歩きながら用意しておいたカメラ。

 もし何かあれば役に立つかもしれないと思って、予めセットしていたのだ。

 コレのおかげで避難活動も消火活動もある程度は楽になったと……思いたいな。


「お前たちは町を回って残党が潜んでないか探して」

「「「へい!」」」


 すぐさま散って仕事を開始する本家の妖怪たち。

 鬼だけで構成されたせいで探索能力はあまりないけど、隠れても威圧ぐらいは出来るだろう。好き勝手出来ねえぞという感じにな。


「それにしても今回は大活躍やったな! まさか本家の鬼達が手古摺るような吸血鬼に勝つなんて、流石は酒呑童子の血を引く鬼や!」

「そんなわけないじゃん」


 テンションの高いレイとは対照的に、俺は淡白な声で否定した。


「本家の鬼たちは間違いなくあの吸血鬼よりも数段強い。追い込まれたのは演技だよ。俺を誘い込むための」

「え?どゆこと?」

「言葉通りさ。俺が戦っているところを見たいから、わざと“獲物”を残していたんだよ」


 本家で務めているような妖怪がその辺の野良吸血鬼よりも弱い筈がない。

 もし仮にそんな日が来たら、朱天家はもう終わりだ。酒呑童子の一族を名乗る資格は無くなる。


「え?じゃあわざと手を抜いてお前を戦わせたってことか? 大事な跡取りを危険な目に遭わせてまで?」

「そういうことだね」

「なんやソレ!?」


 レイが突然怒り出した。


「お前を危険な事から守るのが仕事やのに、何自分の趣味優先しとんねん!?ソレはあかんやろ! ちょっと俺、文句言ってくる!」

「大丈夫だよ。この通りなんともないんだから」


 俺は走り出そうとするレイの裾を引っ張って止めた。


「本家の妖怪たちは、半妖の俺をまだ朱天家の一員と認めていないのもいる。だからソレを試すのと……後はアレだね」


 俺は、後ろからこっそり忍び寄ろうとする我が義姉を親指で指さした。


「スモモ? なんで今更ここにいるんや?」

「あ、気づいちゃった?」


 舌を軽く出して、首をコテンと傾げる我が義姉。

 レイはその様子を怪訝そうな目で見ていた。


「なんやそのあざとい仕草。ソレよりもなんでお前何もせえへんかったんや? お前も騒ぎには気付いとったやろ?」

「え?なんで私がわざわざ何かしなくちゃいけないの? 面倒くさい」

「阿呆。お前ならあんなはぐれなんか軽く捻れるやろ? せやったら手伝ってもええやろ。人命が掛かっとるんやで?」

「知らないよそんなの。知らない妖怪がいくら死んでも私には関係ないもん♪」



 何でもなさそうな、日常会話のノリで、とんでもないことを吐き捨てやがった。


「……………は?」

「ソレよりも~、やっぱモモくん強いね! あの程度の相手なら私も瞬殺出来るけど、まだ十歳なのに戦士として戦えるなてすごいよ! ああ、手下の鬼たちにモモくんの見せ場を

録画してもらって本当に良かった! また今度、生で見せてね!」


 固まっているレイを無視して、義姉さんは俺に詰め寄る。

 面白いおもちゃでも買ってもらった子供のような表情。ソレが癪に障ったのか、レイはスモモ義姉さんの肩を強引に掴もうと手を伸ばした。

 俺はその間に割って入って、レイの行動を阻止。義姉さんに笑いかけ、意識的に優しそうな声を出す。


「そう。じゃあ俺も義姉さんが活躍しているところ見たいな。今度もし悪い妖怪が弱い妖怪をイジメていたら、その時は正義のヒロインみたいに助けてよ。俺、期待しているよ」

「うん、任せて! 私が悪い妖怪をちゃちゃっとやっつけてあげるから!」


 ルンルン気分で去っていく義姉さん。

 我が義姉ながら本当に自由だな……。


「お前……あれでええと思とるんか?」

「いいわけない。けど、アレが妖怪の“一般常識”なんだ」


 妖怪と一言で言っても様々で、中には仲間意識が驚く程に薄い間柄も存在している。

 俺たちがその辺の鼠や何やらが死んでも特に気を留めないように、同じ妖怪でも種族が違えば特に何も思わない事もある。……ソレが納得できるかどうかは別問題として。


「アレが朱天家の一般常識だ。君の所はどうなの?」

「………ッチ。似たようなモンや」


 苦虫を嚙み潰したような表情で、レイも去って行った。

 どうやら、彼の家も似たような感じらしい。

 だが、そこで俺は違和感を抱いた。


「アイツの家って……主人公サイドだよな?」


 主人公って正義の味方みたいな感じのポジションなんだけど……。

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